真っ当な私といやらしい私
意識が戻り始めた私の前に広がっているは、さっきと同じ教室の光景。真帆が緒方君に告られる当日の昼休みが終わろうかと言う教室だ。目の前には真帆と夏織がいて、にこやかに話をしている。
「ねぇ、ねぇ。
今日さ、うちに寄ってかない?
一緒に勉強しようよ。ちょっと早いけど、期末対策。
私、数学で教えて欲しいとこあるんだぁ」
この三人の中で、数学と言えば真帆である。私の言葉に一瞬、うん?と言う表情をした真帆だったけど、すぐに頷いてくれた。その笑顔にちょっと、胸が痛むじゃない。
学校が終わると、私の家に三人で直行。
当然、勉強の場所は私の部屋。私の部屋は窓際に机が置かれていて、ドアから入った右の壁際にはベッド、左の壁際には本棚にTVが置いてある。何もないスペースは、はっきり言って狭い。そこにテーブルを持ってきて、三人で教科書を広げた。
ほとんど飾り状態で、真剣に見る事も無い問題集も、今日は活躍。の予定。期末対策の勉強会なんて言ってはみたものの、私自身の本心は乗り気じゃない。でも、そんな態度取れる訳もない。
とりあえず、真剣な表情を作って、真帆に教えを乞う。
「だからぁ、この問題に使う公式はぁ」
教科書をめくって、公式が書かれているページを開いて、説明してくれている。
「うん、うん、なるほど」
などと相槌を打って、さも聞いて理解しているような雰囲気を出しているけど、私の前頭葉がばかの壁を作っていて、真帆の話なんか聞いちゃあいない。夏織もその説明に身を乗り出して、頷いている。 きっと、夏織は真剣に聞いているんだろうなと、私は思う。
二人の差はその後に真帆が出す練習問題の結果に表れている。
「はぁぁ、私って、なんておばか」
ほとんど解けていない練習問題を見て、私がため息交じりに言う。
それは本心だ。勉強ができないと言う意味だけなんかじゃない。嫉妬心のまま、こんないい友達の恋路を邪魔しようなんて、人としてもおばかじゃない。
でも、もうここまで来たら、止められない。すでに時計は19時近い。もう緒方君は駅にはいないはずだ。でも、念には念を入れなきゃね。
私の心の中はまっとうな人といやらしい人が、入れ替わって出てくる。でも、どうもいやらしい人の方が強いみたいで、結局行動はいやらしい方になっちゃう。
今日、私はこの二人をお父さんに車で、家まで送らせる事にしていた。二人はもちろん、そんなと遠慮したけど、私が暗い夜道、危ない、危ないと言うと、お父さんも当然頷く。そうなってしまえば、断りづらくなって、見事二人は私の家から車で帰る事になった。
これで、駅で真帆の事を待っていた緒方君は待ちぼうけ。結局、告れなかったはずだ。




