第二話~決意~
一話同様です。
新しく作ってしまっているのできっと消してしまうと思います…
外は雨が降っていて雨香の乾いた身体に水が染みわたってきた。外は月の光すら無く、ただ薄暗く今にも夜闇に溶け込んでしまいそうな街灯がゆっくり歩道を歩いている雨香の姿を薄く映す。チリン。冷たい金属音が店の中に響いた。カウンターの所から雨香を昔から可愛がってくれている純一が『いらっしゃい』と笑顔を見せたが。ずぶ濡れの雨香の姿を見て笑顔は消えた。
『雨香?!どうしたんだ!そんなにずぶ濡れで…いや話は後だ、まずは風呂へ入んなきゃな。』
カウンターから大急ぎで雨香を風呂場へ連れて行った。その時、小さな声だったが確かに純一には雨香が『お母さんが撃たれて、お父さんもいなくなった。もう誰もいない。』と言ったのが聞こえた。何度も何度も…自分に言い聞かせるかのように言っていた。雨香が風呂に入っている間に純一は何処かへ電話をかけていた。
――雨の音がさっきより大きくなった。この雨の様に何もかも流されてしまえばいいのに…
悲惨な現実。まだ幼い雨香には衝撃が大きかった。だが雨香にはその現実を受け止めてもらうしかなかった。これから前へ進むために…風呂上がりにアイスティーを飲みながら純一に雨香はこれまでのことを話した。誰に殺されたのか、その男の特徴。警察での取り調べみたいに純一が訊いてきた事には全て答えた。一通り聞き終わった後で、純一は雨香に聞いた。『復讐をしたいか?』と、その言葉には何故かそそられる様な感じがした。雨香は『うん』と頷いた。その雨香の目はどこからかこれから起こることへの期待が見えた。意識があるのかないのか分からない状態で店に入って来た雨香とはまた別人に見えた。その雨香の反応を見て純一がお父さん達の話しをしてあげるよ。と言って話し始めた。
『雨香が生まれる前の事だ。二人はある研究チームにいてね、そこで知り合ったんだ。何の研究か想像できるかい?』
純一のその問いに雨香は首を左右に振る。
『それはね、遺伝子組み換えの研究だったんだ。その研究が始まったきっかけは新型のウイルスの抗生物質を作るのにそのウイルスの耐久性が強い人がいないといけなかったんだ。だけど、ウイルスはドンドン形を変えて手も足もつけられなくなった。その時ある人が『普通のモノが駄目なら人間を造ってしまえばいい。』と言い出したんだ。その人の発言には初めは誰でも無理だと言っていたがそれを成功させたのが五人いたんだそのチームに雨香のお父さん、お母さんそれにお父さんたちを殺した男、そして言いだした男とその婚約者。この五人だ。五人の研究は成功だった。ここまでは良いかい?』
雨香は純一の説明を静かに聞いていた。雨香の知らなかった父達の過去、父の言っていた『過去』と『罪』その理由を知るために…
『だが、研究をするにつれて全く違うモノが創られてしまったんだ。』
『違うモノ?』
『そう、特定の能力を強化した子供だ。』
純一が集中して聞く雨香の景況を受けてドンドン色んな事を教えてくれてが、その純一の肩にドンと手が乗っかった。
『純一??な~に機密事項をペラペラ話しちゃってるんだ~?』
『!……なんだ、直か…脅かすなよ、』
『美茄サンかと思った?』
純一に直と呼ばれた男、その男の後ろにもう一人誰かがいた。
『直、止めときなさい。純一に何かあったら貴方が美茄に殺されますよ?』
冷たい言葉。その声を聞いたら直が純一から手を離した。
『よろしい。さて、純一何故組織の機密事項を子供に話していたのか聞きましょうか。』
『雨香は…この子はアノ研究の被害者なんだ。只、幼すぎたから覚えていないみたいだから真実を教えたまでの事。』
純一の言う『アノ研究』というのはおそらく先ほどまでに雨香に教えてくれた『遺伝子組み換え』の事だろう。
『雨沢の確認は?』
『既にしてきましたよ。酷いありさまでした。でもこれで残るは二人。に絞れました。』
『ねぇねぇ、純一、電話で話していた子ってこの子?』
真剣な話しをしている最中、ウキウキしながら純一に聞く直。話をしている女性と純一は呆れたように溜息を一つ付いた後、『話は後にしましょう。』と純一の肩を叩く。
『とりあえず、自己紹介からしないとね。ほら直、雨香ちゃんが怖がってるでしょ?』
『は~い。俺の名前は竹内直弥、仲間からは直って呼ばれている。君は気軽に直兄って呼んでくれても……っぃた!知恵サン酷っ…』
『何が直兄ですか、私の名前は塩田知恵、どんな呼び方でもいいわ。』
『個性溢れてるが、お父さんたちと一緒に一時期仕事をしてたやつらだから安心していいよ。』
純一の後ろに隠れてしまっている雨香の頭を撫でながらそう聞かされた。雨香はぺこりと一礼すると純一の後ろに再び隠れてしまった。
『とりあえず、数日はこっちにいて長と連絡を取った方が良いだろう。長には俺からじゃなく秘書の知恵から言っておいてくれ。どうも俺は昔からあいつのペースが苦手でならない。』
そうですか?と首をかしげながら苦笑する知恵は奥の部屋の電話を取りに行った。その間、純一と一緒に二人に出すカクテルを作る。数十分後知恵が部屋から出てきた。
『OK、長と話を付けました。あぁ、それから長からの伝言です。【美茄が4日後に来るからそれ以内に3人をよこせ】と、』
『はいはい、4日後には美茄が来るのね。っとなると、雨香は美茄の方に預けられるのかな?』
『そこまで私は言う権利はありませんよ、只長にそう言えっと言われただけを言っただけ。』
なんだかそっけない事を言われて純一はちょっと不機嫌な顔をする。期待していたことが返ってこなかったので大人ながらスネているっといったところだろうか、
『まぁ……いいわ、私は明日会社に戻ります。直は雨香ちゃんと一緒に後から来て。』
『了解。雨香ちゃんとラブラブしながら行きまーす。ねー?』
そうカウンターにいる雨香にゆうが、純一がそんなことさせないよ。と雨香を奥の部屋に連れて行った。直あらため直弥は残念そうに顔をしかめるが知恵が鬼のような形相で睨んで来た。
次の日には、雨はすっかり止み、知恵は朝早くから3人の元を離れていった。
『知恵さんは、真面目すぎるんだよ。』
『直は知恵の指の垢を煎じて飲んでみたら?』
『優しい人……』
直弥達が来て初めて雨香は話した。その高くて可愛い声を聞いた直弥は朝からハイテンションになり、雨香から離れようとしなかった。しくじった。と純一は思っただろうか、何を頼んでも直弥は雨香から離れようとしなかった。夜には一緒に風呂に入るとまで言い出す。
『直、そこまでしたらさすがに長や美茄に言いつけるぞ?』
『でも、可愛いっすね!俺、好きになっちゃった。』
純一は手をヒラヒラと宙を仰ぐ、風呂がダメでも寝るときは!と意気揚々と枕を持って雨香の部屋に行くと部屋はものけの殻だった。まさかと思い隣にある純一の部屋をのぞいてみると、雨香と純一が同じ布団で仲良く寝ていた。
『ずるい……』
涙をこらえながらそう言った直弥の言葉はタヌキ寝入りをしていた純一の耳にちゃんと届いていた。
次の日には知恵が手配してくれた車が二人を迎えにきた。それに乗り込み雨香は純一の側を離れた。雨香はこの時、不安でしょうがなかった。純一たちが言う『長』とは誰なのか、会社とはどこなのか、自分はこれから何をすればいいかなど、移動中ずっと考えていた。