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未定  作者: 土鎖 乃碌
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雨香編~幸せな場所~

――『No.2001、第35夜任務開始』…やっとこの日が来た。あの悪夢の様な日からここまで来るのに四年かかった…アイツにやっと復讐(ふくしゅう)ができる。

  今夜は第25夜後十日後に日本で一番高いといわれている『サイナミ』から数十人の死刑(しけい)執行人(しっこうにん)が出てくる。ここの最上階近くは、一般人が入る事が(きん)じられている。だが一年に一度だけその階がオープンになる事が有る。それが毎年の第35夜。

 殺されるのは当たり前の事だが大量に人を殺して来た犯罪者(はんざいしゃ)。その犯罪者達を殺すのは、ある学園に在学中の生徒の中でも戦闘(せんとう)成績(せいせき)の一番良かった生徒。又の名を『(「)最上(さいじょう)位級生(いきゅうせい)』(」)という。その中に、ある一人の少女がいる。雨沢(あめざわ) ()()。雨香が最も戦闘で得意としているのが、銃撃戦(じゅうげきせん)。狙ったターゲットは必ず一発で仕留める、それが雨香に銃を教えてくれた師匠との(ルール)。雨香は、銃を触っている時は何にも(とら)われずただ目標(ターゲット)に向かっていられる。今や銃を撃つ事は雨香にとって快感(かいかん)でしかなかった。

 『最上位級生』の中に入れるのはこの学園のトップ十二人、その十二人に学園長からの予告状が届く。雨香の所にその予告状が届いた時雨香は感激のあまり眼に涙を溜めた。雨香が復讐をしたかった男、その男こそ雨香が幼き頃に目の前で両親を殺された時の主犯者(しゅはんしゃ)だ。

 その男は九歳の誕生日の日に現れた。雨香の父と母の昔からの親友、そして仕事仲間だと雨香は両親から聞かされた。男は雨香に手を差し伸べた。雨香は何故かその手が怖かった。両親の親友だと教えられても雨香は心の底から信じられなかった。男の笑顔も言葉も、行動さえも雨香には怪しく見えた。だが雨香の予想は外れた感じがした。男はワインを飲み食事をして、両親と話をしてから一人夜道を帰って行った。雨香は男が帰った後少し安心した。自分の大切なモノが消えてしまうそんな予感がしたからだ。雨香は、無駄(むだ)緊張(きんちょう)していたためか直に寝に入った。夜中の三時に雨香は起きた。(いま)だちゃんと開いていない眼を擦りながら歩いていたら玄関の方から父の声がした。雨香が今まで聞いた事の無い位の冷たく鋭いでも声を張り上げていないいや、部屋の奥でまだ雨香が寝ていると思っている父は雨香を起こさまいと声を必死で(こら)えているのだ。だが肝心(かんじん)の雨香はもうすでに起きていた。雨香は、父の話をリビングの扉の陰で聞いていた。

『…………だ!だからお前たち二人が(また)あのプロジェクトに戻ってきてくれたら(すべ)てが上手くいく!今度は失敗しない!私が今度は主班(しゅはん)(ちょう)なのだから!』

 叫んでいたのは、父ではなく雨香が寝る前に帰ったはずの男の声だった。

『まだそんな事を言っているのか?!何度も言うが俺達には、アソコ(・・・)へ戻る気が無いんだ。雨香のこれからの事を考えてもそうだが、あの子には普通に生きてほしいんだ。』

『それにあの子…いえ、雨香には普通の子供としてこままいてほしいの。その為にプロジェクトから抜けるだけではなく、チーム自体から私達は抜けたのよ!その事は、上からも承認は下りているわ!私達の事はほっといて!!』

男の後から父、母の声が聞こえた。いつも家族の中で一番静かな母が珍しく声を張り上げていた。

『それに、もう話すことは無いわ!二度と私の…いえ、私達家族の前に現れないで!』

 母は、苛立(いらだ)った足取りで部屋の奥へ歩いて行った。雨香は、姿を見ようと少し体を廊下側へずらした。雨香の方に向かって早足で歩いて来る母に、その母を眼で追っている父と男に気が付かれない様に。雨香は、母のさっきの怒鳴り声で眠かった目が覚めた。母が玄関から数歩歩いたところで大きく、腹の下から響いてくるような音が一回聴こえた。雨香には、何が起こったのかサッパリわからなく、ただ自分の耳から少し高めの音がキィィンと鳴っていた。その音が【如何(どう)して鳴っているの、嫌な音、早く止んで】そんな事を考えて両耳を自分自身に抑えつけていた。耳鳴りが止んだ時後ろの方で重いモノが床に落ちた音が聞こえた。下を向いていた顔を上げ、音のした方を見る。床に有ったモノは、優しく、雨香をよく温かい胸の中にギュッと大切そうに抱きしめてよく子守唄を歌ってくれた母が倒れていた。母の温かい胸からは、ドクドクと血が流れていた。どうやら心臓を打たれたらしい。父は、身体を怒りに震わせていた。雨香はそんな姿の二人を交互(こうご)に何回も見た。

――どうしてお母さんは床に寝ているの?どうして動かないの?どうして血が沢山(たくさん)流れているの?どうして、どうしてっ…………!?

 雨香のココロには今までになかった怒り、悲しみが(あふ)れ出てきた。叫びたかった。だが雨香は、あまりのショックでその場から動く事さえ出来なかった。そんな雨香に代わってか父が母に寄ってグッたりとて血まみれの母に必死で声をかける。何回も何回も…母からの返事はなかった。揺すってもピクリとも動かない体…時間が経過していくと共に母の体は重く、冷たくなっていく。父は母の体を抱え上げる。その姿を見て父より先に母の元へ行きたかったがそれが出来なかった自分が悔しかった。母の傍でココロの中にある悲しみを涙として吐き出したかった。だがそれが出来なかったのは、自分の予感が当たってしまった事、その事について自分が何も出来なかった事のショックで雨香の頭は混乱していた。父は母の身体を抱えて未だに玄関に(たたず)んでいる男の元へ…男の片手には拳銃が、拳銃からは薄っすら煙が上へ昇って行った。そう、まるで母の魂を天界へ連れて行くかの様に…

『どうして撃った?!撃つ必要があったのか!!』

 父は男を問い詰めた。父の目には涙が溜っていた。男は平然として答えた。

『どうして?貴方(あなた)達が私の所に戻ってくればよかったんだ!私のプロジェクトは完璧(かんぺき)なのだ!そしたらアノ(・・)()の事件は(むく)われる!何時(いつ)までも過去に(こだわ)るな、今度は私の所でやり直せばいい!』

『そんな事を言っても俺達がやった事は(つぐな)うべき事なんだ!お前もアノ(・・)()の事は忘れろ!』

『お前も私の所へ来ないというのか?……じゃあお前にもソイツと同じように制裁(バツ)を受けろ!!お前も死んでしまえ!』

 男のその言葉を聞いて雨香は、陰から飛び出していった。これ以上自分の大切な(もの)を失わない為に…

『お父さん!』

 そう言って駆け寄る事しかできないが雨香は精一杯勇気を出した。父は雨香のその叫びを聞いて振り返ったが振り返った父の姿を見て足が(すく)んだ、母から流れた血が父の白い服を赤く染めていた。父は両手で抱えていた母を下に素早く置いて、雨香の元に走って来た雨香に向けて()ばされた手には沢山の血が付いていた。目の前に走って来てるのは自分の父と思いたくは無かった。今までの日常からは想像も出来なかった父の姿、雨香は、必死に現実を見ようとした。大きく開かれた手を取ろうと手を伸ばす、あと少しで父の手に、指に届くいという所でまた、銃声が聞こえた。父の手は雨香の上げた高さを通り過ぎ冷たい床に向けて落ちて行った。その後に父の体が床へ、

『………!!お父さんっ!』

 雨香が父の後ろに目をやった。父の後ろにいたのは、再び拳銃を(かま)えた男の姿だった。雨香の視界(しかい)が割れた気がした。【消えてしまった。大切な者が全て…】そんな言葉が、雨香の頭の中をグルグルと(まわ)っていた。雨香が両手で頭を押さえてその場に座り込んでしまった。その時、今にも消えそうな声で父は雨香を呼んだ。

『う……雨…香…』

 雨香は、その言葉で、たっだ名前を呼ばれただけだけど嬉しかった。【まだ一人じゃない】そう認識できたからだ。雨香は、父の口元に顔を寄せ父の言葉を聞き逃さない様に注意して耳を澄ましていた。

『雨香…純一(じゅんいち)の、所に、行け……罪を、知ろ…過去を………強、く……』

 最後まで父は雨香になにかを伝えようとした。だが、段々声が小さくなっていった。最後の方は雨香には聞き取れなかった。雨香は涙を流しながら最後まで静かに聞いていた。

『純一…おじさんの所?』

 雨香が訊き返すと父は、口の端から血を(うっす)ら流しつつも笑顔を作り最後の力を振り(しぼ)って一回だけ小さく頷いた。雨香は父が頷いたのを確認すると泣き顔から無理矢理(むりやり)笑顔を作り『分かった』と言った。父は少し安心した様にユックリと目を閉じた。力を入れていた身体全体から力を抜いた時、寝ていても自分の思わぬ重さで笑顔が(こぼ)れそうだった。父は、(うす)れゆく意識の中で

――雨香…一人にしてしまう事を許してくれ……お前はこれから誰よりも苦しい事を知る事になるだろう。昔、俺達がやらかした罪の事も…だがお前は誰よりも強く生きなければならない、お前を成長させるのは強さだ。……純一、雨香を導いてくれ…

 雨香は、笑ってその場に倒れている父の横でずっと泣くのを我慢していた。父が笑って逝ったのに自分がここで泣いてしまったらきっと安心して天に昇れないと思ったからだ。そんな雨香の傍に堅い革靴の音がコツコツと近付いてきた。玄関にいた男が家に上がって来たのだ。男は雨香の隣に来ると、雨香と同じ目線まで身体を(かが)ませた。そして

『お前の両親を()ったのは私だ。私に両親の復讐をしに来い。(かたき)()ちに来い。私を(うら)め殺したいと思え。その憎しみでお前は今より強くなる。』

 そう言い残し男は家を出て行った。

『何なの…ねぇ…なんだったのよぉぉぉ!!』

 雨香はその場に崩れ落ち床に倒れている母と父を見た。雨香は自分の涙が枯れるまで泣いた。声も枯れ、口の中が鉄の味に満ちていた。雨香は自分の気が済むまで泣き、何かを決断した様に家を出て行った。


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