連合公務員のおっちゃん ―2―
今日も商売は上々や♪
うちに来る客には色々とおる。
「全く上の連中と来たらよ! 業務が上手く行けば自分の手柄で独り占め。業務が上手く行かなければ『そこはみんなでフォローしましょう!』なんて、自分らに都合の良いことばっかり良いやがってよぉ~。
オレら貧乏クジ引かされてばっか。やってられるか、ってなぁー」
「ああ全くだ! まあー飲め飲め!」
「おう! 今日はトコトン、飲んだるどー!」
「コウちゃん酒、追加や!」
「はあーい」
こン人らは、近くの大企業工場の正社員や。
うちの常連客で、上お得意様♪
「しっかし、コウちゃんまだ十一なんやろ?」
「ハズレ。九歳や!」
「あ……九歳やったか?」
「昨日は別のおっちゃんも同じ間違いやってたわ♪ みんなお疲れなんやね?」
「お陰さんで、もう人生にヘトヘト疲れ切っ取とるわ……。
しっかしホンマ、コウちゃんは大したモンやなぁー。エライもんやで!」
「生きてく為にしてることや。なんもエライことなんて、あらへんで」
するとお客さん二人はそこで急に顔を見合わせて、
「……だってよ」
「オレ達も、コウちゃん見習わんといかんのかなぁ……」
て言ってる。自分の何を見習うんやろかぁ?
なんやよう、分からへんなぁ~。
「毎度おおきにぃ~♪」
今日はまた、ええお客さん来てくれて儲けたわ♪
時間は……と。
「まだ二十一時か……。けど、そろそろ今日は閉めたるかなぁ~。
なんや最近疲れとるし。丁度、お客も途切れて切りもエエしなぁ♪」
さっきのお客を見送りながらなんやそう思い、呟いとったら背後から、
「すまないけど酒、一杯だけ貰えるかな?」
またお客さんがのれんを上げとる最中に来よった。
しかも初めて来るお客さんや!
「あ、はあーい! ただいまぁあ~!!」
新規の客や! ここは愛想良くや! サービスもようして、常連客にする。
自分、商売の天才やなぁあ~♪
サッとコップを用意し、酒をなみなみと注ぎ、ツマミも、
「これサービスしとく♪」
と焼いて出したった。
「ああ、これは気前がいいなー」と嬉しそうや。
ここまでは上手くいっとる♪♪
ふと見ると……胸にキラリと光るバッチが目にとまった。
それ見て自分、半歩ほど、思わず後退る!☆
「お、おっちゃん。それ……もしかして、《連合公務員》なんか??」
「え? なんでそれが分かったんだい?」
「い、いや、その胸のバッチ……自分よう知ってるねん! 前にも来てた人たちもそれとおんなじモン付けとったから!」
九歳でこういう商売をやっとったら、前に連合公務員のおっちゃんらが数えるのも飽きるほどに来よってからに。一度、厳しい注意勧告を受けたことがあったのや。
なんや法に違反しとるとかで、ホントはこんな所に、しかも九歳で店なんか出したらダメなんやと。
こっちは生きてく為にやっとるのに、大きなお世話や! っちゅーねん。
「うあ? ああ……これはつい、外すのを忘れていた。
しかし凄い観察眼をもってるね。まだ子供なのに、大したモンだ」
そりゃあ~、こっちは生きるのに必死やからな。当然や! 公職でのうのうと暮らしてるそっちとは、生きとる状況っちゅ~モンが全く違うのや。
ところが、そのおっちゃんはバッチを外し、それを上着のポケットの中へと入れた。
「……なんや、おっちゃん。自分を取り締まりに来たんと違うの?」
「え? なんでワタシが君を取り締まらないといけないの?」
「…………」
案外な返答ぶりに、思わず気絶しそうや。
「いや……そうじゃないのなら、ええんやぁ。あはは!」
『ええ』というよりも、助かったわぁあ~♪
また取締りとかやられたら、堪らんからなぁ~。
「ん……ああ……ここはもしかしてアレかい?
本当は出店とか出してはダメな区域……とかなの? そういえば……この屋台のご主人が見当たらないようだけど……」
──う、うっわあああッー?!
「ちょっ!! お、おっちゃん! じ、じつは今日はもの凄くええ、イカが入ってるんよ!! これも特別にサービスしといたるわぁあー♪☆
ちょっと待っときぃー! 直ぐに焼いたるさかいになぁ~!♪」
「おお! それは楽しみだ♪」
ヤっバいわ! 気付いて、『やっぱり気が変わったから取り締まろ』なんてやられたらたまらん!
前回もそれで一週間も営業出来んかったんや!!
とにかくサービスをようして、ここは切り抜けるしかあらへん!
うわあぁああぁああぁああああ──!
今日は大損! 大赤字やああぁあ~★