【第八話】『クレイドル スペシャル!』 《カナワン・ホースキンの夢と小さな命》
今回は、『クレイドル スペシャル(最終話)』としまして、やや長編話をお送りしたいと思います。
──まだ、朝日も昇ってない時刻のこと。
「はい、コウちゃん。コレ、100軒分の配達順番を書いた紙と、牛乳300本ね!」
「うん♪ タマぁ~、コレちゃんと読んで覚えときぃー! 分かったかぁ? 責任重大やどぉー」
『ハイナぁ~♪』
タマは、記憶力だけならバツグンやから。コレでもう、完璧や♪
それにしても……。
「ハぁー! ハぁアー!!」
もう直ぐ春とはいえ、まだまだ朝は寒い。少し多めに着込んで、体を温めてる。それでも手指の冷たさはどうにもならないから。息を掛け、手指の感覚を戻し。牛乳300本分の載った台車を、タマのトコまで押して「うんしょ!」と押し引き近づけ持って来て。あとはタマがハンドアームで掴み、1ダースずつ荷台に乗せてくれていた。
「それにしても、イキナリこんなに100軒とか。本当に大丈夫なの? 無理してない??」
「大丈夫や! 心配はいらんから、安心しとってやぁ~。おっちゃん♪
そんなコトよりも、ちゃんと日払いで日当払ってよ。自分、そうやないと困るのやからな。ええかぁ?」
「ああ、分かっとる分かっとる。ガハハ! 心配症やなぁ~、コウちゃんも♪
じゃあー先に、今日の分の4千と500円な。もぅ払っとくわ♪」
「おお! ありがとなぁ~、おっちゃん♪ 助かります!」
これでかなり、家計が楽になるわ♪
タマが荷台に牛乳全部載せたのを確認して、自分も跳び箱乗りで、乗ったった。
「じゃあ、行ってきます!」
「おう! じゃあ、コウちゃん。頼んだよぅー」
「はいなぁ~♪」
それからタマと二人、スピード違反でヒュイーンと配達に向かった。
自分がこんな朝の日も昇らない、辺りも真っ暗な内から牛乳配達をするように決まったのは、つい昨晩のことやった。
「あ、あかん……今月も赤字や。しかも大赤字。ピンチや。なんとかせな……。このままやと自分、破産してしまうで、ホンマに」
客もおらんから、電卓でピピピッと計算やってそう独り呟いとったら、おっちゃんら二人が来たのや。
「コウちゃん。酒とお好み焼き、2つな♪」
「あと、イカとエビも2つずつ頼むわ♪」
「──あ、はいはい! ただいまぁあ~♪♪」
声掛けられるまで気づかんと、電卓ばっか見て、あほみたいに悩んどったから、ちょっと慌ててもうたわ。
それにしてもお客さんが二人も来てくれたのは。大助かりや♪
「それで結局、アレかぁ? その配達用のロボットが壊れたから、しばらく自分の足で配達とかもやるの?」
「まあ、大変やけどな。しゃあ~ないわなぁ……。
誰か都合よくええ人がおればええんやけど。壊れた気づいたんが、今日の昼過ぎでよぅ~っ。『まだ牛乳が来てない』て、配達先から連絡が来よってからようやく気づいたからな。残りの配達と、ロボットの修理依頼やらなんやらで。明日からの配達のこと、ついさっきまで完璧にすっかりと忘れとったのや。
もぅなぁ『あちゃー!』ってな感じやで、ホンマに」
「それはまた、大変やっちゃなぁー……」
「まあ、実際に大変なるのは、明日からや。
この年齢で100軒分の配達とか、ちょっときっついからなぁー。堪らんで、ホンマに」
そんな話を、二人して来るなりにしよる。
「なんや、おっちゃんトコの配達ロボット。壊れてしもうたんかぁ?」
「ああ、そうや。ロボットはまだ2台あるからな、残りのその2台である程度フォローする様にはしたんやけど。どうしても残りの100軒分だけは設定オーバーしちゃって。どないしようもなく、無理なんよ」
すると隣のおっちゃんが笑いながら指差して言いよる。
「それでな、コウちゃん。コイツ、明日の朝からそのロボットの代わりに、自分の足で配達することになったのや。それでこんな、泣きかぶっとるっちゅーこっちゃ♪ なっ? 笑えるやろう~?♪」
「うるさいわい! 誰も泣いてなんぞおらん……。
まあ、ロボットの修理がどのくらいかかるのか分からんけど。その間のコトやしなぁ。
ちょっと大変やけど、その間だけの辛抱や。頑張るしかないわ!」
「誰かテキトーに、頼める人とかはおらへんかったの?」
「うちの娘に頼んでみたんやけど、無視されてしもた……。
ロボットでの配達コストって、実は物凄く安いのや。実際。それやからしゃあーないわな。
修理とか、初期購入する時の初期費用は大変なモンやけど。ランニングコスト的には、毎日欠かさずのオレンジジュースの3本もあれば、どうにでもなる。
あとは定期的なメンテとか色々細かいところもあるけど。それにしたって、牛乳1本あたりの配達コストなんて、5円以下や」
「はあー。そんなモンなんかぁー」
話の細かいトコは、それこそ全然よう分からへんけど。1本あたり5円以下、ってのは安い気がするわ。
「ああ、そんなモンや。そやから人を雇うというたところで、賃金が安過ぎて誰もこん。
それやからこんなモン、よほどの知り合いか家族くらいにしか頼めんのよ。んで、唯一頼みの娘からも無視された、つぅー訳や」
「ふぅ~ん……」
5円か……。




