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『クレイドル』 ―少年コウの物語―  作者: みゃも
【第六話】 ゲショ鯛とシンゴ兄ちゃん
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ゲショ鯛とシンゴ兄ちゃん ―3―


「──おっ! うわああぁあッ!!?」

 釣れたぁ──! と思ったら、竿が真ん中辺りから一気にグニャリと曲がって、自分の体ごと川の中に引き込まれそうになってしまう。

 まさかの大物や!!

「ちょっ! ちょっ! よりによって、なんでやッ!!? いらん!」

 大物なんか釣れたって、上げ切れんのやから意味あらへんし迷惑なばっかなんやど!!? というか、このままやと釣り竿ごと川の中にポチャリ☆や!! ヤバイ!

 ――し、死ぬッ!!

「タ、タマ! し、死ぬ!! このままやと、ヤバイ!! なんとかしたってぇ──☆」

『その竿、放たったらええんやないの? どうせ勘兄のやでぇ。さっさと放たったら?』

 こっちは焦っとるのに、タマの奴ぅ、なんとも能天気な反応ぶりや。

「あ、アホ言わんといて! コレ、勘兄が買ったモンやけど。コレ、めっちゃ高い竿やったんは、自分、よう知ってるのや! 

大体がそもそも元は、自分の金なんやど! もったいないやないか────って、うわああぁああッ!!」

 そうこう言うてる内に、片足が川の中にまで入ってしもうた。なんつぅー引きの強さや!?

 く、くやしいけど……タマの言う通りや。さすがに命には代えられへんもんなぁ。

 そう思って、竿を放そうとした矢先───。


「よっ!!」

 誰かが竿を掴んで、一緒にグイッと引っ張ってくれよった。よく見たら、勘兄の数少ない友人の一人で、(いずみ) 真吾(しんご)の兄さんや。見掛けは痩身な感じでなんや頼りないのに、力は物凄いあった。流石に勘兄の友人だけあって、釣りも上手く。引いたり戻したりして、相手を弱らせてから少しずつ手繰り寄せ、最後はたも網を使って陸に上げた。

 なんと1メートルは軽く越えとる大物やった。

 こん魚の名前は、ゲショ鯛。陸に上げると、『ゲショ ゲショ』と鳴くので、こんなヘンテコな名前になったそうや。

 顔がまたブサイクな奴なんやけど。味は最高の高級食材やった。

「やあー。これは大物だ! わはは♪」

「シンゴ兄ちゃん、あんがとな♪ お陰で助かったわ」

「いやいや。なんの、なんの♪

それにしてもコウの大将が釣りなんて珍しいね? 勘はカゼでも引いてんの?」

 シンゴ兄ちゃんは、自分のことを『コウの大将』といつも呼ぶ。いつからそう呼ばれるようになったんかは、もう忘れたけど。多分、自分が鉄板始めるようになってからやと思うわ。

「勘兄なら、アホやからカゼなんか引かへんで♪ カゼの方が、『アホうつされる』言うて逃げよるわぁあ~♪」

「わはは♪ そう言うと思った」

「まあね♪ 相変わらず家の中で元気にテレビみとるよ。

シンゴ兄ちゃん、今晩うちに来るんかぁ?」

 シンゴ兄ちゃんも職を転々とし、定職に着いてない人やけど。それでもまだ、ちゃんと自立はして生活しとるから、勘兄よりは遥かに大人なお人や。

 たまに家に来て、ご飯だけ食べてくことも多かったけどな。給料前とかは特にや。お金がなくてのことなんやろうけどなぁ……?

 まあ、あの勘兄の友人なんや。欠点の一つやふたつくらい気にせんわ。

 多めにみといたる。

「うーん。そうだなぁ~……」

「この大物は、シンゴ兄ちゃんが釣り上げたようなモンなんやから。遠慮なんか要らへんでぇ♪ うちに来て、一緒に食べよ、食べよ♪」

「うん。じゃあ、そうさせてもらうか。

でも、夕方から今日も仕事いくんだろ? コウの大将は」

「もちろん行くよ。生活あるからな、しゃあ~ない。だから勘兄と二人して、先に食べててやぁ。自分、コレの一部だけもろうて鉄板で勝手に食べとくから」

「なんだかそれって、悪い気がしちゃうな……」

「ナハハ。そんなシンゴ兄ちゃんの十分の一でも、勘兄に思いやり的な優しさっちゅ~もんがあれば、自分、こんなにも悲惨な苦労せんで済んだかもしれへんのになぁ~」

「わはは♪ まあまあー、そう言うなって」

「ん……ぅん…」

 これ以上、言ったところで。シンゴ兄ちゃんは勘兄の悪口みたいな話には乗って来ないお人や。自分と勘兄としたら、シンゴ兄ちゃんは勘兄側にいつも立つお人やからな。

 そこは自分もよう理解しとる。なんや癪な話やけどな。シンゴ兄ちゃんは、勘兄の友人なんやからしゃあ~ないのや。

 

 ゲショ鯛をシンゴ兄ちゃんが軽々とタマの荷台に乗せて。それから家へたったの1分足らずでつき、ゲショ鯛を同じくシンゴ兄ちゃんが降ろすと。仕入れもあるから、自分はそのまま。

「ほいじゃ、またなぁー♪」

と言って、シンゴ兄ちゃんと別れた。

「わはは♪ ああ、また今晩。あとでなぁ──!」






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