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『クレイドル』 ―少年コウの物語―  作者: みゃも
【第六話】 ゲショ鯛とシンゴ兄ちゃん
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ゲショ鯛とシンゴ兄ちゃん ―2―


 家から河川敷まで、自分の足で走って十五分ほどの距離にある。タマとだと、一分も掛からんかった。相変わらずのスピード違反ぶりや。

「タマ。ええ加減にしとかんと、ホンマにその内。連合警察に捕まってしまうど」

『テヘ♪ ついつい、昔の血が騒いじゃって♪』

「なんの血やねん? タマん中、ジュースくらいしか流れとらへんやないのかぁ?」

『それもそうやな♪』

「タマ……。相変わらずテキトーな言い訳ばっかしてると、終いにゃ自分から《タマ勘》て言われてしまうでぇ~♪」

 タマと勘兄をかけ合わせて、《タマ勘》や♪

 なんや悲惨なネーミングやなぁ、コレは。

『タマ勘!? それだけは、ちょっと……なんか、イヤ!(><。。』

「ナハハハハ♪ そうやろぅなぁあ~」

 そう言うて、タマの荷台から勘兄の釣竿と仕掛け一式を降ろしたった。

『それ、勘兄のやないのか?』

「そうや。勘兄の竿と仕掛け一式や」

『ええんかぁ、勝手に? あとで本人から、ゴネられるんやないの??』

「別にたまにならええやろ。コレも元は、自分が稼いだ金を勘兄が黙ってくすねて貯めて買いよったシロモンやからな。〝所有権〟って意味じゃ、そもそも自分のモンやろ♪ 

勘兄はそうなるとアレやな、単なる〝使用者〟って奴になってしまうな♪ ナハハ」

『なんや、ごっつい難しいコトバ知ってるモンやなぁ??』

「ホーキンのおっちゃんに、この前この話したらな。そう教えてくれたのや。

ホーキンのおっちゃん、ホンに頭ええお人やからなぁ~♪ 〝ほうりつ〟とか言うのにとにかく、ごっつい詳しいのや!」

『大したモンやな♪』

「ホンに、まったくや♪ さあー! 今日は大物、釣ったるどぉ──♪」

 腕をブンブンと振り回しながら、気合を入れて、川岸まで来た。タマもそのあとをノタクタと着いて来よる。

 ちゃんとした舗装されたトコやないと、タマの推進器はこんなモンや。たちまち不安定になりよるモンな。不便なやっちゃで。

 ここの川は広くて、向こう岸まで300メートルはある。水深も結構あって、一番深いトコやと十メートルもある。海も割りと近いから、その満ち引きによってはたまに海に居る大物が釣れるコトもある。まあ、自分がそないなモン釣ったところで釣り上げきらんけどな♪


「──よっ! ……なんやぁ。また、エサだけ取られてしもたわ。なかなか上手くいかんモンやなぁ」

『うまくいかんモンやなぁ~』

「勘兄なんか。年がら年中、こんなコトばっかしとるからやろかぁ。プロ並に上手いモンなんやけどなー」

『それ、褒めてみたんかぁ?♪』

「今の、そないな風に聞こえたかぁ~、タマ?」

『全然、そないな風には不思議と聞こえへんかったな♪』

「やっぱりそう? ナハハ♪ なんとも困った話やなぁー。同じ言葉でも、相手次第でこうも違って意味が伝わるのやからな、世の中って不思議なモンやで、ホンマに」


 気を取り直し「──とおっ!」と遠投したら、二十メートルくらいのトコで浮きがポチャン☆と立った。

 今日、一番の飛距離や!

『なんや、うまくなったんやないの??』

「なんでも、慣れ、ってことなんやろうね♪」

 そう言うてから、ふと対岸へ目をやると、沢山のビルが霞んで並んどるのが見える……。

これだけの街中でも川の水が綺麗なのは、浄化装置のお陰やけど。それでもここの川の魚を釣って食べようなんて人はあんまりおらん。ここで釣りをするのは、あくまでも趣味みたいなモンなのが普通で一般的な話や。

でも自分たちはそんな普通いうモンなんか気にせんで、家に持って帰って、それこそ普通に食べよる。

衛生的にどうこうなんて言うんは、所詮、裕福な家のモンがゴネとる理屈に過ぎんやろぅて自分には思える。今日、明日の食べモンも不安定な自分らからしたら、なんや贅沢な考えにしか思えへんモンな。

 他の細かい理屈なんか知らへんわぁ。考えるだけ面倒なだけや。

 その時間を使うて鉄板やっといた方が、まだ生産的でええ気がする。





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