表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『クレイドル』 ―少年コウの物語―  作者: みゃも
【第五話】 クレイドル
18/38

クレイドル ―6―


「……気がついたか?」

 次に気付くと、自分は家の中におって、勘兄が世話してくれとった。

「良かったわぁ~。家帰ったらコウが倒れとるやろ。顔は腫れとるし、ワシもうびっくりしたったわい!」

「……勘兄が世話してくれたんかぁ?」

「そうや。当たり前やろ?」

 なんや今日の勘兄、いやに優しいな……かえって気味悪いわぁ。

「お前は、今日はもうこのまま寝とけ。ワシはこれから、タマと商売やってくるよってな」


 ──えっ?! し、しょうばい??!


「勘兄! 鉄板やるんか??」

「そんなん当たり前やろ。喰ってかなあかんのじゃい! 

コウが働けん分、ワシが働く。兄が弟の為に働く。これ即ち、《兄弟愛》って奴やな!」


 ……なんや自分、まだ夢でも見とるんとちゃうんやろかぁ?

 うちのジャイアンな勘兄が、こないなこと言うやなんて……信じられへん、おとぎ話や。

「それじゃあーな、行ってくるから。コウは大人しゅう~ここで寝とるんやど。わかったな?」

「ぅ……うん」

 勘兄が出て行って急に家の中が静かになった……。タマが出て行くとき、やたら嫌がっとったけどな……。


「あ……まさかタマを、もぅから売りに行ったんやないやろうなぁ?」

 なんや無性に心配なって来たわ。

「勘兄だけに、十分あり得る……ちょっと見に行ってこよ」

 起き出し、体を起こすと「イテテ……」まだあっちこっち痛かった。

「ターメルのドあほ、本気でやりよってからに……」

 入所する・しない関係なしに、心配せんでも仕返しはしたるわい!! 

 そんな文句をぶつぶつといいながら這いつくばり向かった。

 


 いつもの出店のトコに来ると、勘兄がなんや頑張っとった。

「ホンマ、真面目に商売やっとるなぁ……意外過ぎて、感動するのを忘れてしまうほどに驚きや」

 勘兄らしい、なんやテキトーな感じやけど……それなりに巧いことやってるみたいや。

「なんや……やればやれるんでないの」

 今まで一人頑張って来たのが、尚さらアホらしゅう思えてくるわ。

 そやけど……勘兄がああして働いとったら。自分、働かんで、今まで通りの生活が送れるんやないやろうかぁ? そしたらなんも入所なんか無理してせぇへんでもええやんか……。

 入所なんか…………せんでも…。


「……あ」

 ホーキンのおっちゃんや。

「コウ君、探したよ。こんな所に居たんだね。早く帰ろう。クレイドルでみんな心配しているよ」

「ん…ぅん……」

 今はちょっと、考えたいことがあったから。ホーキンのおっちゃんとは、まだ会いたくなかったのになぁ……。神様はなんて意地悪をするのや。

「あれ……? お兄さん。働き始めたんだね?」

「ん、そうみたい……。

あ! もしかしておっちゃんが、勘兄に何か言ってくれたんか?」

「ああ、昨日ちょっとだけね」

 そっか……ホーキンのおっちゃんが…。


「それでやろうかぁ……。

今まで自分が何を言うてもジャイアンやったのに、ホーキンのおっちゃんの一言だけで言うこときくなんてなぁ……。

ホーキンのおっちゃんてホンマに、大したもんやなぁ……。驚くわ」

 代わりに、これまでの自分が情けなく思えてくるけどなぁ。


「ハハ。さあ~、それはどうなんだろうね?」

「さあ、て……。現にああして働いてるんよ」

「それはきっと、『コウ君を失う』と思ったからなんじゃないのかな?」


 ──……え? 自分を失う?  それ、どういうこと??


「ワタシはねお兄さんに、実はこう言ったんだ。

『今までみたいなヤクザなことやっていたら、コウ君を取り上げますよ』ってね。そしたらコウ君のお兄さん、それはもう~青ざめていたよ」

「……そうなんかぁ? でも、それは意外や……。

自分、失いたくない為に、あんなにも働くのを嫌がっとった勘兄が、ああして働くなんてなぁ……。

なんや裏があるんやないやろうかぁ? そう思えてしまうわ」

「いや、それだけ大事に思っているんじゃない?」

「え? なにを??」

「だからコウ君の事をさ♪」

「……。そぅ、やろうか……」

 ホンマにそうやとええんやけど……なんや……照れるモンやな。ホンマ、顔が赤らんで来たわ。


 自分……もう少しだけ、ここに居たい気がしてきた。

 この時の感情は……後で思い出す度に、自分でも不思議な感覚のものだった。

「ン?」

 なんやホーキンのおっちゃんが、何とも締まらん顔で自分の方を見て、口を開いて来よった。

「……。それで、コウ君としては結局。どうしたいんだい?」

「どうするて?」

「戻るかい? それとも……〝帰る〟かい?」

「……」


 それはきっと、二つの意味を持った言葉なのだと分かった。

 少しだけ……悩んだけど。もぅ……うん、もう今決めたわ!


「急に自分が居らんようになったら、タマが悲しむからな! ホーキンのおっちゃんには悪いけど……やっぱり自分、元の家に〝帰る〟ことにするわ♪ 

あ、言うとくけど自分。勘兄のあの姿を見て決めたんやないでぇー!」

「ハハ。わかった、わかった。

クレイドルのみんなにも、そう伝えておくよ」

「うん! 頼みます」

 それで自分は帰ることに決めた。

 あとになって、バカな選択をしたなぁ~て、思う日もあるのかも知れへんけど。まあええわ♪


 その後、ホーキンのおっちゃんは屋台の方を見てこう零しとったそうや。

 後で地獄耳のタマから聞かされたのや。


「……もしかするとここが……コウ君にとっての《クレイドル》なのかもしれないな……」

て、なんやホーキンのおっちゃんもキザやなぁー♪







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ