クレイドル ―4―
「学校の方には、ワタシの方から伝えておいたからね。コウ君は心配なんかしないで、今晩はここでゆっくりと休んでなさい。
お兄さんにも、もちろん伝えておいたからね。
まあ……電話の向こうで、随分な剣幕だったんだけどさ……」
なんやその様子、簡単に想像出来るなぁ~。
「今後の事については、明日、落ち着いたら話し合う事にしよう。
コウ君がもし、[今の学校を移りたい]って希望するのであれば。それもワタシの方で、手続きをするから。何も心配なんかしなくていいからね」
て……転校か。
なんや急に、気持ちがしんみりとしてきたわ……。
「あ……そん時は、お世話になります」
「はい♪」
◇ ◇ ◇
ここに来てからもぅ、三日が経つ。一晩の筈が、延長戦もいいトコや。
普段の日は、みんなここから学校へ行ってるよって。その間、自分はまだ学校にも行ってない子のお守りや。
ここに居ると、ついこの前までの自分の生活っちゅーもんが一体なんやったんやろうかぁ?と思われてしまう。それまであった生活上の緊張の糸みたいなモンがすっかりと弛んだように、最近はなんやよう眠れる始末や。自分より小さい子に懐かれて、ちょっと面倒やけど。それでも悪い気はしないしな。年長者もみんな優しい人ばかりやし。なんや自分と苦労を分かち合える雰囲気もあって……居心地がすごく良いんよね……。
自分一人不幸やと思うてずっと生きて来たけど……そうやなかったんやなぁ……て、つくづく思うてきよるわ。
「……ホーキンのおっちゃんに、感謝やな」
「この施設はね。ローウェン・コーンという人が出資して出来た保護施設なんだよ」
「へー……」
どっかで聞いた名や。どこでやったかなぁ~?
「どんな境遇のどんな子らにも、生まれて来たからには幸せになる自由がある。ここが将来、その子らの《心の故郷》になってくれるように……と、そう願って【Cra[i]dle】って意味の名前を付けたそうなんだ」
「あ、それでクレードルをクレイドルにしたんかぁ~。なんや、つくづくええ名前やなぁー♪」
「そうだね。
まあ本人は相当な変わり者なんだけどさ。ハハ。所で、ここにはもう馴染めたかい?」
「え? まあ、それなりにな♪」
「それなりに、ですか……。何か不満とかあるの?」
「そ、そんなモンはないです!」
寧ろ、ありがた過ぎる位や!! 天国みたいや!
「ただなぁ……いつまでもここに居る、という訳にもいかんのやろ?
それで、これからどうしようかと……」
「なんだ。そんな心配してたの? 手続きさえ済ませれば、ずっとここに居ても構わないんだよ」
──えっ!!
「て……手続きって? どんな感じのですか。でも簡単やないんでしょ?」
自分、勉強とか全然苦手やから、どのみち受かる気がせぇへんわぁ~……。
「ハハ。それも心配はないよ。
言ってなかったかな? ワタシはこういう施設の保護監督をしている役所の管理者なんです。だからワタシが手続きさえしたら、それで終わりなんですよ」
――ぬわああッ☆ そ……そりゃ初耳や!
「ホ……ホンマ?! ホンマそんな簡単に?!」
「但し! 色々と制限は発生します……それを承知してくれたら、って事になるけどね」
「つ、つまり……勘兄とは、もう会えへんようになるんですか……?」
「ええ。条件付きで会うことも出来るけど。基本的には、会えなくなるんだ。
あと、屋台の店も出来ない……。この施設に入る為の条件に『自立する術がない』事が挙げられているからね。
コウ君、屋台で自立出来ちゃってるからさ。屋台辞めないと、条件を満たせないからそれはダメなんだ」
「そう……なんかぁー…」
なんやあの店に来とった汚ったないおっちゃんらの顔が、なんや急に懐かしゅう感じてきよるわ……。
そうか……もぅ……なんや不思議と寂しいモンやなぁ……。
「コウ君の場合は、この二つさえクリアしたら入所の条件はピッタリ合うからね。問題はないんだ。
それで良ければ進めちゃうけど、いいかな?」
「……。ちょっと」
「ん?」
「考えさせて貰うても……ええですか?」
「コウ君?」
考える?
何を考えるのや……。結果なんて決まっとるやないの。ここに居る方が幸せや。それは間違いない。それなのに、何を今になって悩んどるのや……自分。