クレイドル ―3―
「……なんや? ここ」
ホーキンのおっちゃんに連れられて来た建物の入り口に【Cra[i]dle】て看板が書かれとったのや。
英文は一応習ってるけど。全部が全部、単語を覚え切れとる訳やない。正直コレなんかさっぱりと読めへん。
仕方なくカバンの中から翻訳メガネを出し、掛けてそれ越しに見た。
クレ〝i〟ドル……って、なんや?
「ホーキンのおっちゃん。コレ、英文のスペルどっか間違えてへん?
なんやコレの意味がまともに表示されないからわからんわぁ~」
「ああ、それはね。こう読むんだ。《クレイドル》」
「くれい……どる?」
それこそなんの意味なんか分からへんなぁ。
「ハハ。本当はね、クレードルが正しい読みで『cradle』が正しいスペルなんだけど。
意味は同じ、ゆりかご……なんだ」
「ゆりかご……」
赤ちゃんが使う、アレかぁ~? もしかしてここって、幼稚園か保育園やろうか?
「うん。そのゆりかごの真ん中に『i』私の、i……つまり、私が居る。そして──」
そこでホーキンのおっちゃんは、自分の胸の辺りを右手で触った。
「ここの、『i』……。つまり、心の愛がある。
とまあ~そんな意味で作った造語らしいんだ。それで【Cra[i]dle】」
「ゆりかご……の中に、私が居て……愛があって……心、か。
なんや知らんけど、ちょびっと今一瞬だけ自分感動しとったわ♪」
「ハハ。そうコウ君に言って貰えると、きっとここの創設者も喜んでくれると思うよ」
そのまま連れられて中に入ってみると。自分と同じくらいか、まだ上くらいの子が中で好き勝手に遊んどった。
「あの、ここって……?」
「この子達かい?
みんなコウ君みたいに親の居ない子や。親に捨てられた子。親に暴力をふるわれ保護した子。
と……まあ~色々だよ」
「……そうなんかぁ」
その割には、なんやみんな元気そうや。楽しそうにもやってる。同じいうても、うちみたいな悲惨な環境とはほど遠いんやないのかぁ? なんや見とって、腹立ってくるなぁ。恵まれ過ぎやろ。
「ちょっとここの所長さんに、事情を話してくるから。コウ君はここでしばらく、待っててくれる?」
「うん」
おっちゃん、自分をこんなトコ連れて来て。どないするつもりやろぅ?
まさか自分と同じ境遇のモンに合わせて、慰めてるつもりかぁ?
それなら的外れな話しやど。全然、慰めになんかならへんわ。気分悪いくらいや!
それから間もなくやった。
「はいはい! みんな集まり静かに聞いてね。
今日は特別に、新しい友達を紹介します。ある事情があって、今晩一晩だけ泊まる事になった……」
こ……今晩一晩て……なんや急に!? 誰もそないなこと頼んでへんよ☆
そこまで言って、この園の所長さんらしきかっぷく良いおっちゃんが自分の方を見よった。
名前言え、言うことか?!
「あ……『あまがわ こうき』言います。今晩だけよろしくお願いします──!!」
あ……つい、流れで名前言うてしもたわ。
「よろしく──!」
「仲良くしよなぁー!」
「う、うん。よろしく……」
「早速なんかして遊ばない?」
「ほらほら早く。こっちおいでよ!」
「あ、ぅん……うん!」
な……なんや知らんけど。まぁええか……1時間も付き合ってるうちに段々と楽しくなってきたわ♪
なんや暖かい、温度とかそういうのやない心地良さってモノを自分はこの時、初めて知った気がする……。