クレイドル ―2―
何とか学校では誰にも会わずに済んだんはええんやけど。明日から学校にはもぅ……よう行けへんわ。
自分も勘兄の様なロクでもない大人にこのままなるんやろうかぁ……。
トボトボとそんな事を考えながら帰っていると、家の前に誰かがおった。
うげ、先生や!!
「──あ! 天川くん!!」
冗談やない! こんなの想定外や! 今、先生に顔なんか合わせられへん!!
全力猛ダッシュで先生を振り切り、家から十五分程離れた河川敷で時間を潰すことに決めた。もう今日は、店開く元気もどの道ないしなぁ。お客はんにこんな顔、見せられへんもん。
しかも先生が家におったということは、勘兄に今日の出来事を知られた、って事やろうしなぁ……。
なんやもぅ家にさえ帰りとうなくなってきたわ……。
段々と見上げる空に星が見え始めてきた。寒さもあって、体がぶるぶると震えて来よる。お腹も減ったし。これからどないしたらええんやろうかぁ……。このまま死ぬのかもしれへんな? まあ、それでも構まへんわ……。生きとっても、何もええことなんかあらへん。そんな気がするもん。
そう思い、突っ伏してると。誰かが急に、暖かいオーバーを自分の体全体を覆うかのようにそっと掛けてきた。顔を上げ誰やろうと思うて見上げてみてみると、そこにはホーキンのおっちゃんがおった。
「一体どうしたの? こんなトコで……」
「……ぅ」
ホーキンのおっちゃんの自然な優しさが、なんや知らんけど身に染みた。自然に受け入れられた。
自分、気付かんうちにしがみついて、恥ずかしいくらいにワーワーと子供みたいに泣いてとった──。
◇ ◇ ◇
「……そっか、そんなことが」
「ぅん……。
自分、もぅ学校行けへんわ。ウソつきやって、もうみんなからそう思われてるやろうし。明日学校行ったら、みんなから罵られるだけやろうし。もぅ行きとうない……。
ホーキンのおっちゃんも自分のこと、最低な奴やと思うたやろぅ?」
「ううん、全然」
エラい、あっさり言うなぁ~。
「ウソや☆ ホーキンのおっちゃんも、大嘘つきや! テキトー過ぎや★」
「お、おいおい。
コウ君が思ってるほど。みんなもそこまで根深く思ってはないと思うんだけどなぁ~……。
嘘ついたことにしたって、もう十分反省しているみたいだし。すごく懲りてるんでしょ?」
「ん……ぅん」
「取り敢えず明日、学校へ行ってみんなには謝れば済むんじゃないの? それで罵って来る子が居たら、いつものコウ君らしくやっつけたらいい! だってコウ君。強いじゃない!」
「……」
こっちの気持ちも知らんと、簡単に言うてくれるわ。
「……今はそんな元気も勇気もない。あるように見えたかぁ~?」
「……そっかぁ。じゃあ……ン―そうだなぁ~……」
なんやホーキンのおっちゃんも頼りにならんなぁ~……。
思わず頬杖をついて、ため息や。
「……自分、勘兄みたいに。その内なるんかなぁ……兄弟やし、仕方ないんかな?」
「……あの例のお兄さんか。
コウ君があのお兄さんみたいになるとは、自分にはとても思えないけど……。
──よしっ!」
「よし?」
「ちょっと自分に付き合って貰えないかな? 直ぐそこだからさ」
「……ぅん」




