雪とゴージャスランド ―3―
ゴージャスランドの乗り物ときたら「殺す気かぁあー!」て思わず叫びたくなるジェットコースターや。やたらリアルなお化け屋敷。ホーキンのおっちゃん、本気でびびっとったわ♪ 悪いとは思ったけど、思わずそれをみて指さし笑ってしまった。
ついついはしゃぎ回り、美味しいものもたくさん食べた。
それから夕方にはファンタジーな演出のアトラクションに、感動的な花火。今日はもう、夢の様なひとときで、忘れられん思い出の一日となった。
◇ ◇ ◇
お礼もなにも言わないまま、気がついたら次の日の朝を布団の中で迎えていた。
帰りの電車に乗るのまでは、なんやよぅ覚えてるような気がするのやけど……。アカン、寝落ちや。なんや最後、ホーキンのおっちゃんに悪いことしたかなぁ~?
それにしても、なんやうちの勘兄ときたら、今日は朝から不機嫌そうやなぁ~?
「なんやのアイツ。うちへ勝手に上がって来るなり、コウを寝かし付けたと思うたら。このワシに、説教なんか垂れよってからに! 家内の事に口出す、世間知らずのアホウめが……。全く迷惑な話じゃ!」
ホーキンのおっちゃん。うちの勘兄に説教してくれたんか。
ありがたいなぁー。いい気味や♪ あはは♪♪
「コウ! アイツとはもう、二度と付き合うなよ。ろくな大人にならへんからな。ワシには分かるねん」
なに言うてるのや。少なくとも勘兄よりはまっとうな大人やないの。
「それは困る」
「こ……困るて、なにがや?」
「あん人は自分にしたら、特別な上得意さんなんよ(色々な意味でな) そやから困る。それだけは、お断りや!」
「じょ……上得意て☆
この兄の……弟を心配するに余りあるこの優しさが、分からんのか? お前には!」
「よう言うわ。単に、自分が説教されたのが気に入らんで、ボヤいてるだけにしか見えへんし聞こえへん」
「ば、バカ言うな☆
大体アイツは、あることないこと適当なこと言いおってからに。デタラメな奴やど」
あることないこと?
おっかしぃなぁ~。ホーキンのおっちゃんは、そないにテキトーな人やない筈や。
「あることないことって、勘兄、具体的になに言われたの?」
「な、なにって……。
ワシが働かんと、コウにばかり働かせるとるだの……」
「あ、それは当たりや!」
しかもド真ん中射抜いとる♪ お見事や♪ なんや笑える♪♪
「──ぬあっ、なんやと?! そんな訳あるかい。ワシだってちゃんと……」
「ちゃんと、なに?」
白々しいけど、わざと聞いとこ♪
「いや……ちゃんと、アレや」
「だから、アレ、てなんやぁ?」
「さ………魚、仰山こないだ釣って来たったやろ?」
「うん……そやったなぁ」
確かに大漁で、家計的にはちょびっとだけ助かったわ。
「それだけか?」
「そ……それだけや。十分やろ? なんや文句あンの?」
「……。もうええわ」
なんや時間、メッチャ損した気分やなぁ~。生計ボキャブラ無さ過ぎやろう。
勘兄ときたら、ちょっと自分が言葉に詰まって困った時とかの対処方として、いっつも、『強気に出たら相手が黙る』て思うてるのやからな。ホンマのあほうやわ。まともに相手しとれへん。
まぁええ、さっさと学校行く準備しよ。遅刻する。
「コウ……。お兄さん、なんや不安になるやろう。なんでそこで気の利いた言葉の一つくらい出ないのや? そこでフォローするのが、人情ってもんやないんかい?
コウお前、そういうトコがダメやなぁー。人間力、ちゅう~もんがまるで未熟な証拠やど」
──に、人間力ぅー?!
一瞬、ドキリとする言葉やったけど。あ、あかん……よくよく考えたら、相変わらずの自己中トークやった。危なかったわぁー!!
まともに相手しとったら、一人アホみるだけや。
「今、勘兄と自分の二人しかココには居ないのに、フォローなんかしてどないなるんやぁ?
誰もおらんし聞いちゃおらんのやから、別に必要はないやろぅ? 今更そんなモン、必要な仲かぁ?」
「お、お前……。いつからそんな、ややこしい理屈ごねる冷たい奴になったのや。
ええからそこは、素直に『お兄さんが居てくれるだけで、ボクは幸せです♪』て言うてくれたら、それでええんじゃい!」
うへェ……そらとても有り得へん台詞やんかぁ。
「そうやな。そう言われるよう、精々努力しときぃやぁ~……」
「ちょ、ちょっと待て、コウ。それどういう意味や?!」
「……」
こんなトコで正直なこと言うたら、勘兄ジャイアンやから、何されるか分からん。知らんぷりしくが吉や。
「さあ~、どういう意味やろかなぁ~……?
それよりも自分、これから学校やから行ってくるわ。
あ、勘兄は魚でも釣っといて♪ 今晩のおかずに、また出したるよ♪ 嬉しいやろぅ?♪」
その分、晩飯代浮くから助かるしな♪
言うと勘兄は、当然とばかりにスッ──と手を出してきよった。
「……なんやの? その手」
「エサ代くれ」
「……」
──ピシッ☆
「土掘って、ミミズをエサ代わりにしたらええやろ?
ほんなら行ってくるわぁあ~~♪」
「く……クッソォ~~! なんちゅーセコい弟やあ──! そのクセ、釣った魚は『喰わせろ!』言う、自分勝手なやっちゃ!」
なに言うてるのや。誰のせいで、家が貧乏やと思ってんねん☆ 全く、つくづく不幸な家庭環境や。
はぁ~……雪なんかええから、ドラえもん降って来へんかなぁ~。
そう思い見上げる今朝の空からは、静かに雪が降り続いとった。つくづく散々やな……。