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14歳のボクとマドンナ

Muscat Blanc à Petits Grainsや,Muscat HamburgよりBlack Muscatでもなく,Muscat OttonelやMorio-MuskattやMoscatoでもなく,やっぱMuscat of Alexandriaでしょう.

ピオーネも巨峰も安芸クイーンも瀬戸ジャイアンツも藤みのりもあづましずくもルビーロマンもDelawareもNiagaraもVidal Blancも素晴らしいでしょう.

でも,Muscat of Alexandriaでしょう.

あ,それと犬大好き.

199×年4月某日,ボクは中学2年に進級した.

春休みが明け,最初の登校の日.

ボクは14歳になった.


ここ岩佐県は温暖な気候に恵まれ,果物の栽培が有名である.

中でもボクの住む多田市大家町はマスカット農家が多く,町の主要な産業となっている.

しかし,とてつもないド田舎である.

コンビニなんてもちろん町内には1つもない.

だって信号すらないのだから.

唯一の商店は小さな駄菓子や雑貨を売ってる店が小学校の前にあるだけだ.


そんなド田舎の宿命.

子供の数が少ないのだ.

ボクが通ってた大家町立大家小学校は学年全体で1桁の児童しかおらず,全校でも30人程度の規模であった.

今はもっと少なくなっているだろう.


多田市も市とはいえ,田舎の市であり,面積は広いが人口は少ない.

大家町を含め,15の町から成り立っている.

中学校は市内に3校あり,その内の1つ多田中学校に通っている.

家から自転車で15分程の距離にある.

ただし,学校から家に帰るには1時間かかる.

行きは長い下り坂,帰りは絶望的な上り坂.

山の頂上と麓を行き来する毎日なのである.



今日は珍しく近所に住む同級生と一緒に登校することになった.

一緒に登校というよりはどちらが速く坂を下れるかの競争だが.


どれほどの時速が出てただろう.


強烈な風圧にも負けず,ボクが勝利した.



「あー!悔しい!!!シンリに負けちまった!!!」


「これでヒデとの対決はボクの15勝58敗だな.最近調子いいぞ.」


ボクの名前は板野心理,周りはシンリって呼ばれている.

友人の名は秋元英明.通称ヒデ.ヒデは野球部で1年生からレギュラー起用されている運動神経抜群なスポーツマンだ.

背はそこまで高くなく,身体の線も細いが,ボクのようなもやしには見えない.

多田中学校は必ずどこかの部に在籍しなくてはならないため,ボクも一応吹奏楽部に在籍ということになっているが正統派の幽霊部員で帰宅部員なのだ.


「クラス替え楽しみだなぁ.晴れて隔離棟から卒業できるし.」

ヒデがニヤニヤしながら話しかけてくる.


「ボクらのクラスだけ,不当な扱い受けてたからね,この1年間.」


多田中学校では校舎の老朽化や勢いを増す少子化に伴い改築工事が行われていた.

教室棟を1つ壊して,何かを作るらしい.

そのため去年は教室棟が1つしか使えなかった.

教室数の関係上,ボク達の学年から1クラスだけが特別教室がある棟に教室が置かれることとなった.

他のクラスの同級生達とは部活か何かの行事でしか顔を合わせることがない,まさに隔離された状態のクラスだったのだ.


「かわいい子と一緒のクラスになれたらいいなぁ.」

ヒデがニヤケ顔をさらにニヤケさせている.


「噂のマドンナ松井さんとかね.」


「おうおう,マドンナはおれのもんだぜーーー!!ほんとなんであんな娘がこんな田舎にいるんだってくらいすげぇ美人だよなぁ.」


「ヒデは近くから見たことあるんだよねぇ.ボクは遠くからしか見たことないんだよね.それでも1人だけオーラが違うってわかる,あれは芸能人レベル.」


「おいおい,いつもは朝練組くらいしかこの時間に登校してないのに今日は人が多いな.もう駐輪場がいっぱいだ.」

今日から新学期ということもあり,部活の朝練はない.ただしボク達含め,皆新しいクラスが気になるんだろう,早い時間に登校する生徒が非常に多い.



「シンリ,ダッシュでいくぞ!」


帰宅部のおれに無茶な要求をするもんだな.

とはいえ,ボクも早く自分の新クラスが知りたいのでダッシュで2年生のクラスがあると思われる教室棟の2階へ向かって全速力で走った.



教室前にはたくさんの人だかりができていた.

貼り出される予定のクラス名簿を今か今かと待ちわびている.

人だかりをかきわけて先生がやってきた.


順々に名簿が貼り出されていく.

と同時に生徒も移動していく.

ボクとヒデも生徒の波にのまれながらも順々に1組の名簿から見ていく.




名簿に名前があったことを確認した生徒達が騒ぎながら教室に入っていく.

だんだんと生徒の波が小さくなっていく.

ボクもヒデも名簿に名前がなく進み,結局2人とも2年5組ということになった.


そしてその名簿の中にマドンナの名前があることを確認し,2人で奇声を発して喜んだ.


「うぃえ,ヴェエエエ,シャラメッポー!!!!!!」


「ま,ま,ま,マスカットーーーーーーーー!!!!!」


言葉では言い表せない嬉しさと,これからの1年間に対する無限大の期待に胸を膨らませていた.




「お前ら,何騒いでんだ,さっさと教室に入れ!」

体育教師の菊池が怒鳴った.


ということは,この粗暴な教師がボク達の担任なのか….

まぁそんな些細なことはどうでもいいか.



ボクは教室に入り,全体を見渡した.


マドンナの姿は見当たらない.



席は指定されているようで,名簿に書いてある指定された数字の席へ着席した.



ヒデは野球部仲間と談笑している.


ボクはまっさらな教科書を机にしまったり,ロッカーに荷物を片付けたりしていた.

一通り準備終わったので席に着こうとした時,男子生徒の重厚なため息と一部奇声が教室全体を包んだ.



全男子生徒の視線が教室の入口に集まっていた.




そう,遂にマドンナがボクらの教室に入ってきたのである.




「ぬうふふううう!!!!!」


ボクも自然と声にならない声を発した.



マドンナは全男子生徒の様々な思いが入った視線を気にせず,スタスタと自分の席に向かって歩いた.


そして立ち止まった席は,なんとボクの隣の席だったのだ.




ボクは神様を信じていなかったが,これは神様と仏様からの誕生日プレゼントなんだと解釈した.

人生で最も喜びが溢れた瞬間でこれ以上の喜びはないものだと思った.



ボクのバラ色の中学生活が始まるんだ.

そう思っていた.




この日を境にボクの人生が大きく変わることなど,当たり前だが微塵にも思わなかった.

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