魔王を倒した剣ですよ!没収ですか…
役所に限らず、手続きって面倒臭い。そんな事を思って書いてみました。
【第2作目】
魔王が倒れ、暗黒の雲が消えた1年後…
魔王領近くの村で療養を終えた勇者が王都へ帰還すると言う報を受け
王都の正門前には、花束を抱えた人々が集まり、今か今かと英雄の帰還を待っていた。
「勇者様ばんざーい!」
「魔王討伐おめでとうございます!」
歓声の中、長い旅路を終えた一人の男が姿を現す。
勇者アレク。
世界を救った伝説の勇者である。
背中には討伐の証としての魔王の大角。腰には精霊王から授かった聖剣。腕には古代龍の鱗で作った盾。
そして手には四魔将を封印したという七色の宝玉。
どこからどう見ても英雄の姿だった。
「やっと帰ってこれたな……」
アレクは感慨深く空を見上げた。
3年にも及ぶ戦いだった。
仲間との出会い別れもあった。
命懸けの戦いもあった。
世界の平和を守るため全てを捧げたのだ。
そんな彼の前に、門兵が立ちはだかった。
「失礼ですが、身分証をお願いします」
「……え?」
「身分証です」
「いや勇者だが?」
「勇者証をお願いします」
アレクは固まった。
「そんなものあるのか?」
「常識ですよ」
「4年前にはなかったぞ!?」
「法改正されました」
門兵は慣れた様子で答えた。
嫌な予感がした。
「と、とりあえず王様のところへ……」
「その前に持ち物検査です」
門兵が笛を吹く。
さらに五人の衛兵が現れた。
「腰の剣を提出してください」
「聖剣だぞ?」
「刃物ですね」
「伝説の聖剣だぞ!?」
「刃渡り15cmを超えています」
「世界を救った剣だぞ!?」
「銃刀法違反の疑いがあります」
アレクは目を見開いた。
「えぇぇぇぇぇっ!?」
周囲の群衆もざわついた。
「勇者様が逮捕?」
「まさかの帰還初日で?」
衛兵は無情だった。
「それと盾も提出してください」
「古代龍の盾だぞ」
「盾ですが古代竜の鱗の突起が危険物です」
「宝玉も」
「封印アイテムだぞ!?」
「分類上は爆発物になります」
「封印が解けたらどうする!」
「その時は担当部署が対応します」
「担当部署!?」
魔王軍より融通が利かなかった。
結局、アレクの装備は全て革袋に入れられた。
さらに。
「魔物素材の持ち込み許可証は?」
「ない」
「違法輸入ですね」
「はぁ!?」
「こちらの魔王の大角、検疫手続きも必要です」
「検疫とかあるの!?」
「寄生虫の可能性があります」
「魔王だぞ!?」
「だからこそです」
その日の夕方。
勇者アレクは王城ではなく役所にいた。
長蛇の列に並ばされていたのである。
受付番号は843番。
現在の呼び出し番号は594番。
「今日中に呼び出されるのか…これって…」
そう呟いた時だった。
「843番の方ー」
「早っ!?」
なぜか呼ばれた。
窓口の女性職員はにこやかだった。
「ご用件は?」
「武器返還の手続きだ」
「伝説武器ですね。では先図文化財登録が必要です。」
「何?」
「まず、鑑定に3ヵ月程度」
「長い!」
「その後、危険物審査が6ヵ月程度」
「もっと長い!」
「問題なければ展示許可証が発行されます。」
「使えないじゃないか!」
「展示目的ですので。」
「武器だぞ!?」
「今のこの平和な時代、実際に使う方は少数です。」
「魔王討伐に使ったんだが!?」
職員は首を傾げた。
「そう言われましても規則ですので」
「・・・・」
その時、王城から使者がやってきた。
「勇者アレク殿!」
「おお!」
ようやく王からの使いか。
英雄らしい待遇が始まるのだ。
そう思った。
「国王陛下から勲章授与のお知らせです!」
「よし!」
「式典は来月の仮予約になります。」
「仮予約!? 」
アレクは天を仰いだ。
苦労して倒した魔王より、制度の方が強かった。
そして何やかんやで1ヵ月後。
ようやく王城で式典が開かれた。
国王は感動した様子で立ち上がる。
「勇者アレクよ! よくぞ魔王を倒した!」
「ありがたき幸せ」
「世界は、お前を称えている!」
「ありがとうございます!」
「その功績をたたえ、金貨十万枚を与える!」
大歓声が上がる。
アレクも少し救われた気持ちになった。
だが。
翌日、財務大臣が静かに紙を差し出し言った。
「報奨金の件ですが、税金分を差し引かせていただきます」
「え?」
「所得扱いですので」
「え?」
「勇者活動による収益ですね。」
「収益じゃないだろ!」
「課税対象です。」
金貨十万枚は最終的に三万枚になった。
アレクは膝をついた。
魔王の必殺技でもここまでのダメージはなかった。
その夜、
王都の酒場でアレクは旅の途中で共に戦った仲間たちと再会した。
賢者エミリア。
戦士ガルード。
聖女リーリア。
みな疲れ切った顔をしていた。
「お前ら、どうした?」
賢者エミリアが涙目で答える。
「禁呪魔法の使用許可更新を忘れて罰金……」
「俺は大戦斧がA級危険物指定され没収された」
戦士ガルードがうなだれる。
「私は奇跡の治癒が医師免許を持っていないから医療法違反になるって……」
聖女リーリアも遠い目をしていた。
一同は沈黙した。
そして同時に思った。
魔王軍との戦いより社会制度の方が難しい。
その時だった。
酒場の扉が開く。
兵士が駆け込んでくる。
「大変です!」
全員が振り返る。
「封印保管庫から魔王軍幹部が脱走しました!」
「何!?」
「担当部署の予算削減で耐魔金庫が借りれず、宝玉を書類と一緒に机の上に放置し封印が解けたようです!」
「担当部署ぉぉぉぉ!!」
アレクは叫んだ。
そして立ち上がる。
「聖剣を持ってこい!」
「没収中です」
「返せ!」
「審査中です」
「今すぐ必要なんだ!」
「特例申請してください」
「どこに!」
「窓口Bです」
「また窓口かぁぁぁっ!」
こうして伝説の勇者は再び立ちあがった。
魔王軍残党との戦いのためではない。
まず役所の書類を攻略するために。
後に人々は語る。
世界最強の勇者でさえ倒せなかった敵がいたと。
その名は、『複雑な行政手続き』である。
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よければ、前作も見てください。
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