天国へ行きたいのなら――
ある日。
不意に全人類の頭に言葉が響いた。
『あなた達の寿命は一日に固定されました』
あんまりの言葉に皆が絶句する。
『天国へ行きたいのならそれなりのことをしなさい』
人々は大慌てで善行を始めた。
他者を助ける者も居た。
自然や動物を愛する者も居た。
自らの技術を用いて怪我や病気を治す者も、自らの立場を用いて戦を止めた者も――とにかく皆が思い思いの善行を成した。
そして、翌日。
多くの人々は普通に生きていた。
「どういうことだ?」
「集団幻覚? いや、幻聴か?」
いずれにせよ、命を失わなかったことで半数近くの人類が善行を辞めてしまった。
しかし、残りの半数は何か分からないままに善行を続けた。
そして、さらに翌日。
善行を辞めた者は死に、続けた者はまだ生きていた。
「どういうことだ?」
「一体何が起こっている?」
人々は絶望しながらも、それでも生きるために残った者達は善行を始めた。
何となしに善行をし続けなければ死んでしまうと理解したから。
*
さて。
神様は天国を見つめて満足げに呟いた。
「善行が満ち始めている。結構結構」
皮肉なことに人々の多くが初日に頭に響いた言葉の後半を忘れてしまっていた。
「人間に汚された『天国』は少しずつ本来の姿を取り戻し始めているな」
――さて。
人間達が必死に生きている世界が『天国』であったと気づくのにあとどれだけの時間が必要であろうか。




