“書けた”という経験
……や、やりやがったあ!
「さて。説明してもらおうか」
俺は半ばガッカリしていた。
「うん! じゃあどっから話そっか! 面白かった??」
面白かった?? じゃねーよ!
「いやあのさ、こんなテキトーなのって……」
「ダメ?」
「ダメっつーかギャグじゃん」
「そうだね。でも“書けた”よ」
「いやあ〜これは裏切りだわ完全に!」
「えーいいじゃん。こういう小説あっても」
「はあ期待しちゃったよフツーに」
「でもさ、なによりも“シンちゃんが”書けたじゃん!」
「うわーもしかして初めっからそういうつもりで?」
「いやいやそういうわけじゃないけど! でもお姉ちゃんも真剣に考えたからね」
「これで?」
「ひどーい! でも面白いでしょ?」
「うーん……ちょっと、いやかなり強引だけど」
「でしょ!」
「でもさ、キャラクターに背景があった方がもっと面白くなったと思うんだよね」
「背景?」
「うん。関係性とか、性格の書き分けとかがさ、もっと詳細に書かれてたら感情移入できるし、そしたら最後の展開ももっとカタルシスが得られて最高だったと思うんだけど」
「思う!! すごいねシンちゃん! じゃあそこを足してかないとね」
あら。ずいぶん素直に……。
「ま、タイトルは掛かってて上手いかも?」
「どーゆーこと?」
「あ、ほら、ショッキングなピンク=モモっていう意味もあるんだろ?」
「え? あ、イイねそれ!! それも入れよう!」
え、違ったのかよ?
「じゃ次、シンちゃんのやつね!」
「あ、うーん」
ああ……。
「なんていうか、いかにもシンちゃんの好きそうな感じだよね〜」
「うん……」
「正直に言うと、雰囲気はめっちゃあるけど、微妙に伝わんない感じ?」
「ああ、確かに」
「ちょっと説明不足すぎるっていうか、もっとハッキリ教えて欲しかったりする」
「俺としては謎めいた感じにしたいから、なるべく書かないようにしたんだ」
「あ〜。結局訊いちゃうけど、どーゆー話なの??」
つ、伝わってないのか……!
「え、えーと。要は、慕ってた上の者だか仲間だかを殺ったから、自分の属する組織にも外部の組織……警察とかにも追われる羽目になって」
「あ、それがもしかして蟻?」
そこは伝わってんのかい。
「そうそう。で、結局自分自身も後悔していて、病んだところに追手が来て、死ぬことに救いを得るみたいな」
うわ、自分の作った話を説明するとか……恥ずかしすぎる!!
「幸福がカタカナなのは?」
お手上げのジェスチャーで
「降伏、みたいな」
「あ〜!!」
いちいち訊くなって!
「男に名前がないのは?」
「別に、要らないかなって。それに、この男の素性がどういうヤツかってより、この男の陥っている環境の方に重きを置いてるっていうか」
「ふ〜んなるほどねえー」
お、おう……。にしても色々訊いてくるなあ。
「それで、なんで『陰を追う犬』なの?」
「あー……殺す側の人間が殺される側にまわるから、自分の尻尾の陰を追う犬みたいに、少しマヌケで、巡り巡ってるみたいな、うん……」
「はあ!!!」
もういいって。
「いっぱいこだわって作ってんだね〜」
「姉ちゃんはさ、俺がこうしたらって言ったらすんなり受け入れたけど、こだわりはないの?」
「うーん、なくはないけど、その方が良いっていうなら柔軟に取り入れた方がイイじゃん」
「そうだけど、ここは譲れないみたいなさ、ここはどうしてもこうしたかったんだっていう」
「たぶんシンちゃんがつまずいてる部分はそこなんだと思うのよね」
「え?」
「自分のこだわりはさ、確かに大事なんだけど、そこにこだわりすぎて書かないんだったら、それは意味がないわけでしょ?」
「た、確かに……」
「結局、シンちゃんは小説が“書けない”んじゃなくって、“書いてない”だけだったと思うの」
なんか言い得てるけど、言いくるめられてもいる??
「まずは書いてさ、それがど〜してもっ! 気に入らなくても仕上げてさ、そっからガンガン修正してけばいいって、お姉ちゃんはそう思うの」
でも言ってることはその通りだ。
「いま姉ちゃんが言ったような感じの苦労ってしたことある?」
「あるよ! そりゃあ。例えば……ま、これはちょっと違うかもだけど、好きなモデルさんのインスタを見てて、“私もこれマネしたいっ!”って思ったとするでしょ? でもそのモデルさんはシュッとしててクールな感じが似合ってるけど、お姉ちゃんは丸顔だからまんまマネすると似合ってなくてヘンになっちゃう。だからまったくおんなじにしたいところ、あえて特徴的なハットをやめて、自分の似合うようにニットに変えたわけ」
わかるような、わからないような……?
「ま、とにかく! 納得いかなくてもいくように捩じ曲げるところに個性は出るんだからさ!!」
「なんか良いようにまとめられちゃってるような」
「お姉ちゃんは〜、シンちゃんが小説を書けたっていうことを経験させてあげたんだからね? 感謝しなきゃだよ??」
あら!! 恩着せがましいっ。
「じゃとりあえず書いてみろってことかあ?」
「そう!」
満面の笑みで頷く姉。
なーんか乗せられちゃった感はあるが、悪い気はしない。
いっつもこうだ。どうにも憎めない。
今までがそうだったように今後もそうであろう。
俺は礼儀正しく、しっかりと丁寧な口調で、感謝を述べた。
「ありがとう」
え? って顔で止まり、すぐにわかって
「あ、ね!」
とピースした。
やはり満面の笑みだ。なにがそんなに嬉しい??
脳内で一連の出来事をリプレイする——。
「じゃチョコパイで乾杯か?」
「お〜!」
じゃこの“経験”ってやつを、小説としてしたためてみちゃったりするか〜!
俺は、ペンを執った。
小説なんてチョー簡単!! ……な、わけねえ!




