脱皮
朝の光が差し込む寝室で、僕は自分の抜け殻を見つめた。
ベッドの上に散らばるそれは、正しく昨日までの僕の皮膚だった。触れるとぽろぽろと崩れ、かすかな土の匂いが鼻をかすめた。
ここ数日、春の柔らかい陽気が過ぎ去り、まるで初夏のような日差しが窓を満たしていた。僕はようやく、完全な黒い肌に脱皮できたらしい。
一週間も前に、環境適応の早いクラスメイトが黄色い肌を脱いでいたのを羨ましく思っていた僕は、抜け殻の一部をそっと持ち上げ、リビングへと駆け出した。
「母さんおはよう!見て!脱皮終わった!」
母はキッチンで朝食を作りながら、にっこり笑う。
「おはよう!良かったわねえ。今年は特に日差しが辛かったでしょう」
父もダイニングテーブルから笑いながら手を振る。
「お前、冬は白くなるのが早いのに、夏の衣替えは相変わらず苦手だな」
僕は鏡の前に立つ。どの角度から見ても真っ黒に輝く肌に昨日までの黄色がかった柔らかな色合いは欠片も見当たらない。
光を反射し、触れるとまだほんの少し突っ張っているような感触がある。このなんとも言えない触り心地はいつだってどこかわくわくするものだった。
◆
学校へ向かう道すがら、僕の肌は徐々に馴染み、昨日までの皮膚と同じように違和感が溶けていく。
「今日は特に日差しが強いな」と友人が言う。
「うん、でもこの色ならもう大丈夫」と僕は笑う。
しかし、街の一角では、旧世代の大人たちが僕たちをちらりと見て、眉をひそめている。
彼らにとって、肌の色の変化は理解の範疇を超えていた。
「どうして同じ人間なのに、色が毎日変わるんだ」とつぶやく老人もいた。
僕はその視線を感じながらも、足を止めることはない。
僕たちは自然に適応し、肌の色で価値を決められる存在ではない。それだけで、生きる上で大きな利点がある。
◆
教室に入ると、すでにクラスメイトたちの肌が様々な色で揺れていた。
黒、黄色、白、褐色――すべてが同じ空間で共存している。
僕は窓際の席に座り外の光に顔を向けた。昨日までは酷く眩しく、刺すような暑さだったのに、今日はむしろ心地よく感じられる。
強い日光がまるで暖かな布団のように感じられて思わず小さく欠伸が漏れた。




