この世の全て猫
2月22日は大猫集会の日である。
つまり猫による百鬼夜行。
今宵は猫の日になるのだ。
「あ、キツツキさん」
いつもの散歩道に、野良猫のウシが近づいて声を掛けてきた。
「これはこれはウシさん、今日は楽しみですね」
「ということは、今夜はキツツキさんも出るんですね」
「ええ」
昨年は家主が赤ん坊を産んで、その守りの為出なかった。今は家主も回復してきて、赤ん坊も健やかなので、今年は出ることにしたのだ。
家に帰り、念入りに毛繕いをする。この日のためにとっておきの鉢巻を、屋根裏通りから調達してきた。
季節にぴったりの梅花の柄が入った鉢巻だ。特に気に入りなのは、梅花柄なのに水色だということだ。普通は白かピンクなのに。一風変わっていてそこが良い。
夜も深くなってきた。
遠くで猫だけにしか聞こえない、太鼓の音が微かに聞こえる。
まるで私を呼びかけているかのように。
「にゅー、おやすみ」
家主が赤ん坊を連れて2階の寝室に行く。それににゃーと答えながら、専用のマットで丸く寝た、フリをした。
時折、赤ん坊のぐする声と、家主の子守唄が聞こえる。リビングの時計が、カチコチ音を立てる。
そーっと、窓辺に近づく。施錠をゆっくりと外し、すっと窓を開けた。
柔らかな夜風が、顔に当たって髭がゆれる。
ベランダに出て、窓を閉める。これで夜明けまでに帰ってくれば、誰も私が出かけたことに気づかない。
ベランダの格子の隙間を潜り抜け、道路に出る。
夜の住宅街は静かだ。それでも帰りの車の振動音が聞こえる。
軒先を歩く。人よりも高い生垣が好きだ。誰にも邪魔をされないから。
空は綺麗に小粒の星々が瞬いていた。
やがて太鼓の音が近づく。
足が広場に引き寄せられていく。
屋根裏通りの広場。篝が夜に轟々と燃えている。
周囲は鉢巻を被った猫だらけだ。
ちらほらと猫又の姿もある。二階の欄干には、屋根裏通りの住人共が愉快げにこちらを見下ろす。
太鼓の音がズシンと響く。
一等大きい猫の合図と共に、夜を駆ける。
なんと言ったって今宵は猫の日。
つまりは猫による百鬼夜行。
駆ける。駆ける。駆ける。
空に響くは猫の雄叫び。
喉が枯れるまで歌い、踊り、駆けて。
「キツツキさん、こっちです。こっち」
「いやいや、これはどうも、マヌケさん」
「今宵は中々、良い百鬼夜行でしたな」
「ええ、ええ」
最後は猫の秘湯で、顔馴染みとまったり過ごした。野生の猫は百鬼夜行が終わったら帰るが、水で多少濡れても気にしなくていいのが、家猫の特権だ。
ぬるま湯のちょうどいい湯加減に身体が解ける。
水面に写る下弦の月が、ゆらゆらと揺れていた。




