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この世の全て猫

作者: 月蜜慈雨
掲載日:2026/03/19

 




 2月22日は大猫集会の日である。

 つまり猫による百鬼夜行。

 今宵は猫の日になるのだ。



「あ、キツツキさん」



 いつもの散歩道に、野良猫のウシが近づいて声を掛けてきた。



「これはこれはウシさん、今日は楽しみですね」


「ということは、今夜はキツツキさんも出るんですね」


「ええ」



 昨年は家主が赤ん坊を産んで、その守りの為出なかった。今は家主も回復してきて、赤ん坊も健やかなので、今年は出ることにしたのだ。

 家に帰り、念入りに毛繕いをする。この日のためにとっておきの鉢巻を、屋根裏通りから調達してきた。

 季節にぴったりの梅花の柄が入った鉢巻だ。特に気に入りなのは、梅花柄なのに水色だということだ。普通は白かピンクなのに。一風変わっていてそこが良い。

 夜も深くなってきた。

 遠くで猫だけにしか聞こえない、太鼓の音が微かに聞こえる。

 まるで私を呼びかけているかのように。



「にゅー、おやすみ」



 家主が赤ん坊を連れて2階の寝室に行く。それににゃーと答えながら、専用のマットで丸く寝た、フリをした。

 時折、赤ん坊のぐする声と、家主の子守唄が聞こえる。リビングの時計が、カチコチ音を立てる。

 そーっと、窓辺に近づく。施錠をゆっくりと外し、すっと窓を開けた。

 柔らかな夜風が、顔に当たって髭がゆれる。

 ベランダに出て、窓を閉める。これで夜明けまでに帰ってくれば、誰も私が出かけたことに気づかない。

 ベランダの格子の隙間を潜り抜け、道路に出る。

 夜の住宅街は静かだ。それでも帰りの車の振動音が聞こえる。

 軒先を歩く。人よりも高い生垣が好きだ。誰にも邪魔をされないから。

 空は綺麗に小粒の星々が瞬いていた。

 やがて太鼓の音が近づく。

 足が広場に引き寄せられていく。



 屋根裏通りの広場。篝が夜に轟々と燃えている。

 周囲は鉢巻を被った猫だらけだ。

 ちらほらと猫又の姿もある。二階の欄干には、屋根裏通りの住人共が愉快げにこちらを見下ろす。

 太鼓の音がズシンと響く。

 一等大きい猫の合図と共に、夜を駆ける。

 なんと言ったって今宵は猫の日。

 つまりは猫による百鬼夜行。



 駆ける。駆ける。駆ける。

 空に響くは猫の雄叫び。

 喉が枯れるまで歌い、踊り、駆けて。



「キツツキさん、こっちです。こっち」


「いやいや、これはどうも、マヌケさん」


「今宵は中々、良い百鬼夜行でしたな」


「ええ、ええ」



 最後は猫の秘湯で、顔馴染みとまったり過ごした。野生の猫は百鬼夜行が終わったら帰るが、水で多少濡れても気にしなくていいのが、家猫の特権だ。

 ぬるま湯のちょうどいい湯加減に身体が解ける。

 水面に写る下弦の月が、ゆらゆらと揺れていた。





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