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揺蕩うティアマト -星の戦火、地母神の見た夢-  作者: 桐沢清玄


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#04 決断の代償

 私がリハビリにすがっている間にも、世の中は回っていく。

 アルテミスでテロが起こってから、世論は急激に傾いた。


『前線基地を破壊しろ』


『地球と協力して、火星を攻撃するべきだ』


 平和と愛に酔っていた彼らの花畑は、あっさり焼け野原になったらしい。

 うちの会社に、寄付を申し出てる奴らもいるくらい。

 ええ、有効活用させていただきますとも。


 他人事じゃいられない。

 軍と評議会から作戦参加の要請が、ムーンラビットに対してひっきりなしに届いていた。

 私たちに起こった悲劇を、知らないはずがないのに。


 とはいえ、前線基地の存在は見過ごせない。

 敵HIVEの情報を軍とも共有し、対策を伝えた。

 私の専用機が地球から到着次第、作戦を実行する事が決まった。


 そして今日は作戦当日──ムーンラビットのドッグには、沢山の野次馬が集まっていた。

 目的はもちろん、ディアメーテルの見物。

 彼らの目には期待と不安、少しの恐怖が入り混じっている。


「それで、お兄さん。ディアメーテルは化石AIの方もちゃんと使えるの?」


「はい、ミカエラさん! 今まで通りの運用方法でいけます。ただ、ティアマトを使う場合、チップは抜いた方がいいですね」


「うん、それは分かってる。……しっかしまあ、かなり派手よね? このデザイン」


「めちゃくちゃカッコいいと思います! 普通のHIVEだと、カラーリングは白が基調ですからね」


 ディアメーテルを見上げる。

 黒を基調とした、攻撃的なデザイン。

 有機的なラインと曲線的なシルエットが調和していて、どこか女性らしさも感じる。


 背中に背負った羽のようなデバイス──遠隔操作の小型兵器 《シャルグ》が飛び出す。

 ただ、これは全12基の使い捨て。


 そして、1発限りの超高出力粒子砲 《ウシュムガル》。

 大口径の銃口は、まるで大型の生物が口を開けているような迫力。

 破壊力は抜群、燃費は最悪。

 電力確保のため、この機体には太陽炉に加えて核融合炉を積んでいる。


 ディアメーテルが従来のHIVEに比べてひと回り大きいのは、そういう事情がある。

 ……コクピットは大きくなってるだろうし、意外に乗りやすかったり?

 まあスペック的に、かなりのじゃじゃ馬なのは間違いない。


「ほーら、あんたらは帰った帰った! 機体チェック、チームとの連携確認とかあんでしょ!?」


 野次馬を追い出して、ムーンラビットのみんなを集めた。

 ガラじゃないけど、今回の依頼は重要だ。

 こういう時くらい、社長らしくしとくか。


「これだけは言っとく。ボリスは一旦、頭から追い出しなさい。私たちが死んだらそれで終わり。だれもあいつの事なんか、思っちゃくれないんだから」


 私の言葉に三人は頷き、強い眼差しでもって応えてみせた。

 ──いつの間にか、強くなってるじゃん。


「そんじゃあ、各自待機! ウチらは後詰めだけど、いつでも戦えるように!」


「「「了解!!」」」


 そして出撃命令が下り、アルテミスから50機のHIVEが飛び立った。

 内訳は軍が30、民間が20。

 普段偉そうにしてる軍人さん──足引っ張んないでよね、マジで。




 作戦宙域に辿り着いた私たちは、ゆっくりと攻撃目標に近づく。

 どんな異常も見逃すまいという、緊迫した空気が漂っている。

 こちらが陣形を展開していると、火星側に動きがあった。


『報告! 敵の前線基地より多数のHIVE出撃を確認! これより戦闘に入る!』


 前線の味方から無線連絡。 

 続く報告から、敵の構成はフルスペックHIVEが20、無人機が30だと分かった。

 対するこっちは軍のフルスペックHIVEが30、その他フルスペック含む民間機が20。

 

 機体の構成だけで判断すれば、こっちが有利。

 無人機だけでなく、フルスペックHIVEの撃破報告が定期的に上がってくる。


『総員、攻撃せよ! 押し込め!  このまま終わらせろ!』


 鼻息を荒くした、アルテミスの司令官。

 ムーンラビットも進軍を開始した。


「前方にフルスペックHIVE! 例の兵器が来たら、作戦通りにね!」


『了解っす!』


『ここに来て、まさか社長の得意武器が役に立つなんてな!』


 立ちはだかったのは、3機のフルスペックHIVE。

 私のディアメーテルに対し、すぐさま新型の小型兵器が襲い掛かる。

 それに対し、こちらの4機はビームショットガンを構えた。


 大昔の戦争映像で見たやつ。先人に感謝ね。

 

「一斉掃射!!」


 無事に迎撃成功。

 お返しとばかりにシャルグを飛ばした。遠隔操作はアーシャ担当。

 1機に対して3基──合計6基を使い、2機のフルスペックHIVEを黙らせた。

 機体を翻した1機に対し、リンダがライフルを構えた。


『任せてください!』


 改修により演算能力が上がったリンダのHIVEは、残る1機を難なく打ち落とす。

 思わず口笛が漏れた。私も負けてらんないわね。


「その調子よ、リンダ!」


 冷静に戦況を確認してみると、戦況は互角。

 こっちのフルスペックHIVE──軍の練度が影響していた。


(ほらやっぱり! あいつら、足引っ張りやがって。でも、ここで踏ん張れば……!!)


 そんな時、機体から警報が鳴った。

 嘘でしょ、敵の増援!?


『3時方向から敵襲!! デブリと小惑星を迂回しながら、大回りしてきたっぽいです!』


「後退しながら援護!  持ちこたえて!」


 増援の10機は、全てフルスペックHIVE。こちらの右翼を食い荒らし始めた。

 何か策は──駄目だ。ノイズがうるさい。考えがまとまらない。


『社長、システムの切り替えは!?』


『試してみる価値はあるっす!!』


「……っ、そうね。いつも通りやるわよ!」


 味方を置いて、前線から後退した。

 ……分かってる。でも戦況を変えるには、これしかない。


 エヴァンたちに囲まれる中、ディアメーテルを再起動させる。

 ヘルメットを外す。人工皮膚をめくり、チップを引き抜いた。


 静かな世界が戻ってきて──そこで一瞬、気を抜いてしまった。


「……えっ?」


 横を掠める、高出力のビーム攻撃。

 機体のフレームに振動が伝わる。


「──リンダ機、反応途絶。パイロットの生体機能、停止しました」


 アーシャの声は、冷たい現実を告げる。

 ……うそ、でしょ? あんたさっきまで、元気だったじゃない。


『社長ッ!! リンダがッ……リンダのコクピットが!!』


 振動から、狙撃用の長物なのは分かる。盾を貫通するほどの大口径。

 でも、なんで──。


『……前に逃がした無人機っすかね? 社長の情報、持ち帰られて……』


「クソがあああッ!!」


 コントロールパネルに拳を叩きつけ、思い切り叫んだ。

 あの時、ちゃんと仕留めてたら!! こうならなかったのに!!


『──敵機、前線を突破!』


 エヴァンの鋭い叫び。

 それでも、私の機体は動かない。


『……エヴァン! 社長の機体を牽いて逃げるっす!』


『なっ……お前はどうすんだよ!』


『うるせえっ! 行けっつってんだろ!』


「ピエトロ、待ちなさいっ!!」


 エヴァンに引きずられながら、戦線を離れた。 

 小惑星の影に隠れ、再起動した機体をチェックする。

 ティアマトは正常。ディアメーテルも動く。


 でも、状況は最悪。

 私たちが逃げた場所は、味方後方じゃなく戦場右側の端。

 ただこれは、エヴァンのミスじゃない。


『すいません社長、変なとこに逃げて。でもディアメーテルがこれ以上後方に逃げると、味方が混乱して総崩れになるかなって……』


「……そうね、エヴァン。私は自分の事で精一杯だったから、いい判断だったわ」


 しばらくモニターを眺めていると──ピエトロ機の信号が途絶えた。

 生体反応のサインも停止。


『……ピエトロ……お前……』


「……」


 ここまで来たら──なんとしても目的を達成しなければいけない。

 じゃないと、顔向けできない。

 私が連れて来たんだから。


『……社長! 俺はこれから、味方を助けに行きます。敵が戦線を押し上げた隙を狙って、前線基地を破壊してください。ディアメーテルなら、可能ですよね?』


 戦術としては有効だ。

 でもそれはつまり、エヴァンの死を意味する。


「……分かった。時間稼ぎをお願い。生き残ったら、一つだけ何でも言う事聞いてあげる」


『ははっ、約束ですよ? ……今度、デートに行きましょうね』


 彼は戦線に戻って──そのまま、通信は途切れた。

 私とエヴァンとピエトロ。ムーンラビットはこの三人から始まった。

 ありがとう、ここまで付いてきてくれて。

 それと……ごめんね。馬鹿な社長で。


 涙を拭ってから、操縦桿を握った。

 後は、やるべき事をやるだけ。


「……さあ、行くわよアーシャ。あいつらの仇を討とう」


「お待ちください、ミカエラ。……ある人物が、あなたと話がしたいそうです」


「……あんた、何言って──」


 操縦席から振り返ると、アーシャはヘルメットを外した。

 そして、優しく微笑んだ。


「初めまして、ミカエラ。わたしの名前はソフィ。あなたたちが《TIAMAT》と呼んでいるAI──それがわたしよ」

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