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黄昏の秋桜  作者: 蒼野 壮太


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8.へんげと僕

「交換日記?」

「そうなんだよ」

「河合。それって、お前」

「なに?」

「それって、お前。付き合ってるってことじゃね?」

「へんげと僕が?そういうことなの?」

「いや、そういうことだぞ。ちょっと前までは中学生カップルの定番品だったはずだぞ。どっちから告白したんだ?」

「あれが告白だったのかな。へんげが自分に対する印象を聞かせてって言うから、思ったままに答えたんだけど。客観的には褒めちぎったように聞こえたかも」

「まあ、へんげは可愛いといえば可愛いし、性格も悪くない。いいんじゃないか」

「沢田。そんなことより交換日記だよ。何を書けばいいのかさっぱりわからなくてさ」

「俺だって知らないよ。やったことないからさ。その日あったこととか、へんげの良いところとかを褒めちぎって書けばいいんじゃないの?」

 翌日の昼休みのことだ。交換日記というものがよくわからなくて沢田に相談したのだが、「泣き虫のお前が交換日記かぁ」と妙な納得をされて話が終わった。

 交換日記の記念すべき1ページ目には、血液型や誕生日、好きな音楽とアーティスト、そして『あらためてよろしく』という言葉が、へんげの丁寧な字で綴られていた。

 僕は2ページ目に好きな小説の題名や作家を並べ立てて『あらためてよろしく』と書いて、放課後の校門前で待ち合わせをしていたへんげに渡した。

 その時、交換日記は誰かに軽々しく話してはいけないものなのだと、自然に理解できた。

 沢田には話してしまった。これはへんげには秘密にしておこう。

 学校のある日はその繰り返しで、お互いなにか特別な用事がない限り、一緒に下校することが日常になった。

 交換日記をすることが付き合っているということなら、お互いがお互いに恋をしているということなのだろうか?

 そもそも恋とはどんな気持ちになることなのだろうか?

 これは初恋と呼べるものなのだろうか?

 例えば小学校1年生の頃、隣の席の女の子からほっぺたにキスをされたことがある。特に嬉しくもなかったが嫌でもなかった。

 もはや名前も顔も思い出せない。ずっと同じ小学校にいたのかすらわからない。

 でも、その子は僕に恋をしていたのだろうか?

 その恋は、女の子にドキドキを与えていたのだろうか?そして、そのドキドキがほっぺたにキスをしたいという衝動として現れたのだろうか?それとも、僕の無防備な状況を狙ってキスするという風変わりなゲームだったのだろうか?

 キスをされて嫌がりもしなかった僕は、その子に恋をしていたのだろうか?

 しかし、あの受け身の状況を初恋だとは断じて認めたくない。

 へんげと話をするのは楽しい。交換日記も楽しい。時間をかけて自分の手で鉛筆を持って、へんげに伝えたいことを書く、という行為が楽しい。同じように書いたであろうへんげの一日の出来事を読むのも楽しい。

 なにより、二人きりの世界という特別感を感じられるのが嬉しい。これが恋なのだろうか。

 考えてもわからないのは、きっと時間が過ぎなければ実感できないからだろう。何年か経ったあとに、忘れられない記憶として残るものなのだろう。

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