22.白い秋桜 または横顔の美女
学校帰りに北側の坂を下る。北の川まで来た時、なんとなく景色が変わっているように感じた。あの人の家がなくなっている。走って近づいてみると、あの人の家の跡地はきれいに整地され、一面に白い花が咲いていた。
あの人のコサージュと同じ白秋桜だった。早咲きの秋桜だ。誰かが植えなければ自生はしない花だ。あの人が植えたのだろうか。
ふと、あの人の白い横顔を思い出した。正面の顔は思い出せないのに・・・。
なんだろう。来なければよかった。
この出来事は、初恋が終わった後のエピローグにすらならない。
白秋桜を見ているうちに、小学校の頃にへんげから渡された『三重の伝承 怪異編』を思い出した。
あれ?そっくりな話があったではないか!
そうだ。へんげが聞き取ったという『横顔の美女』だ。
あの伝承は現実に基づいている?
そうだとしたら、話の出どころは?
そして、今、目の前に広がっている光景との関連は?
スマートフォンを出して、アドレス帳からへんげの電話番号を選ぶ。へんげの電話番号はすぐに見つけられた。
少し、緊張する。
だが、へんげに電話する良い口実かもしれないなとも思う。へんげなら、黄昏の怪異に取り憑かれた僕を、現実に戻してくれる力があるように思う。
いや、それは自分勝手で都合の良い理屈だ。本当は、いつも、見守ってくれているへんげの優しさに甘えたいだけかもしれない。
いやいや、今はどっちでもいい。少しだけ確かめたいことがある。
「竹内、聞いていい?」
「聞き方が、ちょっと気持ち悪いからダメかな。河合に竹内って呼ばれるのって初めてだからさ」
へんげが、前と変わらない調子で話そうとしてくれることが嬉しい。
「じゃあ、へんげ。聞いていい?」
「いいよ」
「『三重の伝承 怪異編』の中の「横顔の美女」って、へんげが聞き取った話だって言ってたよね?」
「そうだよ。でも本人からじゃないんだよ。かなりのおじいちゃんだったけど、その人のお父さんの体験だってさ」
「どのあたりに住んでる人?」
「私の家と北の川の間くらいかな。どうしてそんなことを聞くの?」
「その人の名前は?」
「個人情報保護法に抵触しない?まあ、河合だけだからいいか。松田さん、だったよ。下の名前も知りたければ、取材した時のノートを見れば分かるよ。ちょっと待っててくれる?」
「いや、大丈夫」
「どうしたの?なんだか声が怖いよ」
「松田って母さんの実家なんだよ。あの話は曾祖父の話だったんだね」




