20.ネームプレート
次の日の学校での僕は抜け殻だった。
空っぽになった向かいの校舎を眺めながら、気がつくと一日が終わって、放課後になっていた。
惨めな初恋だと思っていたものが、最後は美しく変わったのか、惨めなままだったのか、部分部分の切り取り方によって違う印象になる。
ただ、全体としては痛みの多い経験だった。あの人は本当にいたのだろうか?僕の心が作り出した幻だったのではないだろうか?
では、スマートフォンに残されたあの人の横顔は?昨日吹いた風は?
「これ、やるよ」
突然、沢田の声が頭の上から聞こえた。顔を上げると、その手には「川野」と書かれたネームプレートがあった。僕の中学校では、椅子の背のフォルダーにネームプレートを差し込むことが義務付けられている。ネームプレートは、もちろん自筆だ。
「昨日、うちのクラスが会場の片付けだったじゃん?俺は3−Cの片付け担当だったんだけどさ。もう、急いで3−Bの場所に行って抜き取ってきたよ。周りから、何だあいつって目で見られたけどさ」
「やっぱり本当にいたんだ」
「あ?何言ってんの?その様子じゃ大丈夫じゃないだろうとは思ってたけどさ。絆創膏程度にはなるだろ」
「いや、ありがとう」
少しくたびれた白い厚紙のネームプレート。あの人と1年間を一緒に過ごしたネームプレートだ。
「お前、ほんとに泣き虫だな」
「え?泣いてる?あ、ほんとだ」沢田に言われるまで頬に涙が伝っているのに気づくことすらできなかった。
「でも、いいんじゃねえか。初恋って痛みなんだろ?痛いんなら泣いてもいいんじゃねぇか?」
「ばかやろう」
「河合とは思えない、汚い言葉だな」
「君の僕を思ってくれた行動に感激したんだよ」
「そうか。それでもいいんじゃねぇの」




