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黄昏の秋桜  作者: 蒼野 壮太


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18.ランクアップ または二度と戻れない日々の始まり 

 それからも、何か進展があるわけでもなく、向かいの校舎で見かけて、たまにこっちを見てくれて・・・、一体あの人と僕はどういう関係なんだろう。

「どういう関係なんだと思う?」

「河合、俺に聞くなよ。知らねーよ。しかし、なんか、普通じゃないってことがますます分かるようになった」

「そうだよね。でも、はっきりどこが変なんだか、言葉に出来ないんだよ」

「お前は当事者だからな。外側からお前の話を聞く限りでは、お前と『あの人』の関係も、『あの人』も、普通じゃない。あ、お前もだった。つまり全てが普通じゃない」

「あの人にとっては、僕は喋るペットみたいな感じなのかな?あ、ロボットみたいって言われたこともあるから、実体のあるチャットGPTとか生成AIとかかな?」

「でも、ストーカーよりはランクアップじゃねぇの」


 会えないのに終わって欲しくなかった冬休みが過ぎ、最後の学期が始まった。あの人の卒業も迫ってきた。

 僕の中学生活からあの人がいなくなる。

 それが終わりなのだろうか?

 そこで僕の初恋の全てが終わるのだろうか?

 どんな終わり方をするのだろう?

「それで、終わりでいいのかな?」沢田と登校時に一緒になるのもひさしぶりだ。

「河合。俺達のような平凡な中学生には、中学校という狭いコミュニティが、世界や生活のほぼ全てだよな?」

「え!?」

「なんだよ?」

「いや、沢田が、最初から真面目な顔で、真面目な受け答えをしてくれたことに少し驚いただけだよ」

「ふん。たまにはな。それで、その世界からお前の『あの人』がいなくなるわけだ」

「まあ・・・そうだね」

「普通は、そこで、終わりだな。残念ながら、俺達はまだ、そんなレベルの世界しか持っていない。でもまだ、お前の『あの人』が、本当はお前をどう見ているかはわからない。万が一、数千万分の一、もしかしたらってこともあるかもしれない」

「どうせ僕は、喋るペットなんじゃないの?」

「まあまあ、そう拗ねずに聞けって。俺んちは、母親のほうが父親よりふたつ年上なんだ。でもさ、やっぱり、中学とか高校時代は、年下の男は子供にしか見えなかったって、おふくろが言ってたよ。さらに、高校生から見た中学生なら、なおさらだろうな」

「なんか絶望的な気分にさせようとしてる?」、「それはともかく、そりゃ、そうでしょ?僕らの年代の学年や年齢差って大きいよ。どうしても、僕もあの人を年上の女性(ひと)って感じで見ちゃうし、向こうも子供扱いしている様子もあるし・・・」

「河合。まえにもっと積極的に出たらどうだと、お前に言ったことがあったよな?もちろん、今もそう思っているが」

「いやいや、あの人は、僕の中で理想の初恋像になりすぎていて、積極的になんて、とても出れない気がする。その上、知り合いであることすら辞められてしまったら、残りの人生、ゾンビ状態になっちゃうよ」

「今でも、十分ゾンビみたいだけどな」


 そういえば、僕もやっとスマートフォンを持つようになった。沢田はいまだに持っていない。まあ、それはどうでもいいことだ。

 でももし、中学1年生の最初から持っていたら、また別の季節が訪れたのだろうか?そう思えるほど、こんな長方形の道具に運命を握られ始めている。

 そんな道具があろうとなかろうと、あの人の仕草や態度に一喜一憂する日々は変わらず続いているのが現実だ。だが、よく考えてみるとあの人の態度に一喜一憂するのは、あの人の態度に一貫性がないからだ。クラスメートの視線を気にしたり、そのくせ僕の傘に入ってきたり・・・。

 それが、あの人の経験した挫折と再チャレンジに揺れる心の不安定さからきていたのだとすると、僕はやっぱり、ちょうどよい場所とタイミングで現れた喋るペットか、実体のあるAIのようなものなのだろう。結局、あの人の興味は、僕という人間にはないという、考えたくない結論に、また、たどり着いてしまう。

 でも、仮にその結論を受け入れたとして、なにかが変わるのだろうか?

 なにも変わらないんじゃないのか?


「河合。中学一年になったばかりの頃、目の前を飛んていったのが蝶かコウモリかで言い争いになったことがあったのを覚えているか?」

「沢田がコウモリで、僕が蝶って言ったやつだよね。お互い譲らずに、沢田からくたくたにされたのを覚えてるよ。非生産的な会話だった」

「俺は、お前にくたくたにされたと思っているがそこはいい。結局、どっちでも良かったんじゃないか?」

「どういう意味?」

「お前には蝶が見えた。俺がそれをどう見えたとかじゃなく、お前は蝶を見たんだよ」

「うん。そうだね」

「何が言いたいかというと、河合。お前はお前の『あの人』との初恋を、お前自身としてどう見たいんだ?」

「え?」

「コミュニティや年齢による制約なんて関係ない。お前の臆病さもこの際、関係ない。お前の『あの人』の真意も関係ないし、俺のおふくろの話のような周りの見方や声も関係ない。お前が見たい結末は、河合秋というお前自身がしっかりと作って見るべきだ」

「あは、・・・あ、沢田、ごめん。これは照れ隠しの笑い。どういう話になるのかなと思っていたら、清々しいほど君らしい説教だった」

「そうだ。俺だってお前のことを応援してるし、心配してるんだよ。俺は、できればお前が傷つくところは見たくない。だが、傷つくことを恐れて目をつぶったまま、ただ通り過ぎるようなこともしてほしくない。傷ついたのなら手当てくらいはしてやるつもりだ」、「あ、でも誤解するなよ。傷つく前提で話をしているわけじゃないぞ」

「ありがとう」

「あれ?泣いてんじゃねぇのか?久しぶりに」

「うるっとはきたけど、たぶん泣いてないね。でもさ、僕は君が友人であることに心の底から感謝する。沢田の部屋の中で、一番の宝は君だったよ」

「・・・」

「あれ、沢田、泣いてる?」

「うるっとはきたかもな」


 僕はあの人とのこれ以上の進展を、本当に望んでいるのだろうか?

 ただ、切なさや喜び、痛みや美しさ、そういったものを運んでくるあの人の仕草や表情、香りや声、横顔や柔らかそうできれいな髪、そのすべての瞬間や時間を記憶にとどめておきたいだけなのではないだろうか?

 どうであれ、二度と戻れない日々はとっくに始まっている。

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