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黄昏の秋桜  作者: 蒼野 壮太


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17/23

17.アイスクリーム または語られた思い

 11月が近づいてきた、肌寒い日。

 下校時間の、向かい校舎の廊下からあの人が珍しくこちらを見ていた。そして、校門の方を指さしている。

 校門で待っている、または待ってて、という意味だろうか。

 どちらでもいい。

 すぐに、僕は教室を出て、下駄箱で靴を履いて、早足で校門ヘ向かった。少し遅れてあの人がやってきた。そのまま、ちらっと僕の方を横目で見ると、髪を揺らしながら僕の横を通り過ぎて先に歩き出してしまった。

 あれ?さっきの合図は僕にじゃなかったのか・・・。

 だが、時折振り返って僕が着いてきているか確認している様子だ。そうして、北側の坂のあたりで、やっと立ち止まった。

 桜の葉が、赤や茶色に色づき、風に舞いながら地面に降り積もる。あの人の周りを桜の葉は弧を描くように舞い、あの人の柔らかな髪をゆったりと揺らしている。

 その様子は完成されすぎていて、僕は胸が苦しくなる。切ない気持ちが湧き出てくることに逆らえなくなってしまう。 

 あの人には、あの人自身がどう見えているのだろう?

 どうして、あんなふうに、僕の痛みに気づく様子もなく、風の中に立っていられるのだろう?

「ごめんね。同じクラスの子がいたんだ。河合くんと待ち合わせしているのがバレると後がうるさいからさ」

「ダメなんですか?」

「ダメだよ。言ったでしょ?君って人気あるんだよ」

「全く、そんな気配は感じたことがありませんけど」

「君は、繊細そうでいて、ちょっと鈍いというか、そんなところがあるよね」そういって軽やかに笑って続けた。

「それよりも、今日は久しぶりのチートデイなの」

「また、チーズケーキですか?いいですよ。あっ、お金持ってたかな?」

 財布を見てみる。

「いくら持ってる?」

「1500円くらいです」

「十分だね。私、4000円持ってるから、飲み物代はお願いしていい?」

「はい。いいですよ」

「アイスクリーム好き?」

「大好きです」

「この間のケーキ屋を通り過ぎて、少し遠回りするとね。自家製のアイスクリーム屋さんがあるの。毎月新作フレーバーが出るんだけどさ。今月はミントチェリーとアールグレイショコラなんだ。私的にはちょっと外せなくて」そう言いながら、今まで見たことのない無邪気な顔をして微笑んでいる。

「あ、定番ものもたくさん種類があって、どれも美味しいの」

「こんな楽しそうな川野さんを見たのは初めてですね」

「何種類食べたい?」

「つまり、大人食いですか?」

「そうだよ。チートデイだもん」

「川野さんのチートデイってどんな周期なんです?」

「お互い別々の種類をクアトロで頼んでさ。半分こしながら食べようよ。でもミントチェリーとアールグレイは半分こしないかな」

 僕の質問は無視されたようだ。

「はい。わかりました。川野さんとアイスクリームが食べられるだけで幸せです」

「ふふっ!君は時々ロボットみたいな話し方になるんだね」

 この日のあの人は、またいつもと違う顔を見せる。どれが本当の顔なんだろうか?もしかすると、実は双子で時々入れ替わっているんじゃないかとさえ思えてしまう。

「どう?」テーブルを挟んだあの人が尋ねてくる。

「スーパーのカップアイスより、全然美味しくてびっくりしました」

「この店、材料にこだわってるって言っててさ。 それがキャッチコピーなんだけど、ほんとに美味しいんだよね」

「で、どうして今日がチートデイなんですか?」

「話を戻しちゃったね。今日はダイエットとは関係なくて、・・・決めた日っていうのかな。前に話したことあるでしょ?挫折したことがあるって」

「音楽関係ですよね。ピアノですか?バイオリンですか?フルートですか?」

「君、そういうのって自然にやってるの?前と全く同じセリフじゃない?」

「いえ、今のは川野さんに笑ってほしくて」

「ふふっ!そうなんだね。でも、優しいような、残酷なような」

「あ、気を悪くされたのならすみません!」

「してないよ。大丈夫。それでね。今日、決めたの。もう一度チャレンジしてみるって。でも、これ以上は言わないし、河合くんも誰にも言わないでね」

「はい。約束します」

「これ以上、口に出しちゃうとさ、何かが薄れてしまうような気がするから」

 今の言葉や少し緊張したような表情が本当のあの人なのだろうか?

 本当のあの人の中に僕の居場所はあるのだろうか?


「ふぅ・・・満足しすぎちゃったね。ちょっとクアトロは無理があったかな。どうだった?」

「体が冷えて寒くなりましたね」

「飲み物はホットにした方がいいよって言ったじゃない?」

「僕、猫舌なんです」

 いつもどおりあの人は軽やかに笑うと、すっと背を向けた。

「今日はつきあってくれて、ありがとう。じゃあ、さようなら」

 そういって、いつもどおり振り返らずに歩いて行った。

 あの人から誘っておいて、さんざん無邪気に笑って、真面目な顔で話をして、最後は「さようなら」か・・・。そういった一つ一つに対する僕の役割って何なんだ?あの人に聞いてみたくなるが、そんな勇気があるはずもない。

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