第25章 – 銃声の火花
この章は前の章より少し長くなっていますが、物語をもっと進めるためです。お楽しみください!
廊下の時間が止まったように凍りついた。
ダイスケが不敵に笑い、引き金を引いた瞬間——。
だが、その弾丸はサトミには当たらなかった。
「サトミ!」
ジンの声が響き渡る。彼は飛び込み、サトミを押し倒した。銃弾は背後の壁を砕き、石膏が飛び散った。
ほんの一瞬、ジンの腕がサトミを包み込み、震える手が彼女の頬を撫でながら顔を確かめる。
「大丈夫か? どこかに当たってないか——」
サトミは大きく目を見開き、すぐに首を振った。
「平気…」
脈が速く打ち鳴らされているのは恐怖のせいじゃない。彼が自分の前に立ってくれたこと、ブロンドに染めた髪が目にかかり、低くて切実な声が自分だけに向けられたことが原因だった。
警備員たちは待たなかった。
黒いスーツの手下が十数人、廊下を埋め尽くし雪崩れ込む。
ジンの表情が一瞬で鋭利な刃に変わる。
「後ろにいろ。」
彼に武器は必要なかった。
拳と脚が嵐となる。
肘が顎を砕き、回し蹴りが二人を壁へ叩きつけ、さらに360度の回転蹴りで別の男が床に沈む。
サトミはもう無力じゃなかった。
ジンから渡されたスタンガンを握りしめ、 guard の一人を感電させる。男は悲鳴をあげて崩れ落ちた。
続けざまにもう一人の腹を蹴り飛ばす。公園でのジンのレッスンを思い出して。
「ナイス——」ジンは拳を叩き込み、膝蹴りを食らわせながら短く言った。
アドレナリンが体中を駆け巡る。
サトミは振り向きざま、女の手下の頬を思いきり張った。乾いた音が響く。
「私を怖がらせた分よ!」
反撃を試みた女の腕をサトミは素早く潜って絡め取り、ジンに教わった通りに床へ叩きつけた。
「やった!」思わず叫び、興奮のあまり笑いそうになる。
だが混乱の中でも、視線は自然とダイスケへと向かう。
名ばかりの夫。沈黙しか与えなかった男。
そして今、彼女は真実を見た。エピソード1でジンを傷つけたのも、この男だったのだ。
血が煮えたぎるように熱くなる。
ジンがダイスケに飛びかかる。
ダイスケは空になった銃を投げ捨て、冷たい笑みを浮かべて拳を構えた。
「ようやくか。退屈しない戦いになりそうだ。」
激突は苛烈だった。
ダイスケの拳は重く、鋭く、暴力の年季が刻まれている。
一撃のジャブがジンの唇を裂き、血が顎を伝った。
ジンはよろめくが、瞳は狩人の炎で狭まる。
反撃は稲妻のように速い。
ジャブの連打、回し蹴り、足払い。
二人は獲物を狙う獣同士のようにぶつかり合い、壁に反響する衝撃音に押され、周囲の手下たちが思わず後退した。
ジンは血を拭い、苦痛の中でもわずかに口角を上げる。
「弁護士って肩書きの割に、いいパンチだな。」
ダイスケは低く笑った。
「だが噂ほどじゃないな。お前は案外、弱ぇ。」
読んでいただき、ありがとうございました!感想をコメントでいただけると嬉しいです。次回もお楽しみに!




