散らばるパーツ
朝方に寝てしまった三人が起きたのは、既に日が落ちた後だった。
投げやりに寝入ったルムカとミストルはわりかしスッキリと目覚めたようだが、今度はユイカが酷く草臥れていた。
「大丈夫か?花に喰われたように見えたが」
「……大丈夫ではないかも」
「どこか異常が?」
「鈍器で延々と殴られてるのかってくらい頭が痛いね」
言葉の通り、ユイカはかなり強い頭痛に襲われていた。
その原因は十中八九あの花であるが説明が難しかった。
端的に言えば、花から莫大な情報群を頭の中に無理くり詰め込まれたのだ。
恐らくは魔法の類で譲渡されたのだろうが、それらの情報が何一つ整理されていない。
棚の中いっぱいにぎっちり詰め込まれた本は、ジャンルどころか本のページ、更には文章までもが取っ散らかっている状態だ。
ユイカの説明にルムカとミストルは顔を見合わせるしかなかった。
「花がそういう媒体の機能でもあるんでしょうか……?ちなみに今説明できそうな情報はありますか?」
「この森は禁足地で間違いないってことかな」
「そうか、やはり危険な場所なのか」
「……それは違うかな」
「禁足地なのに危なくないのですか?」
「うーん、ちょっと待って……人によるのかな?血筋?この森自体は比較的安全だけど、入ることのできる人が限られてる?みたいな」
「そうすると、僕達はたまたまその入れる血筋だったという事でしょうか」
「禁足地は国……王族が管理している。俺は父、ミストルは母親が王の系譜だから有り得ない話じゃない」
ユイカから、正確には花からもたらされた情報はルムカとミストルにとってかなり有益なものだった。
そして新たな可能性も見出されることとなる。
「禁足地の情報を正しく知っている者がいるとしたら……俺達をここに連れて来たのも謀でなく保護という線もあるのか?」
ルムカの言う可能性にミストルは表情を曇らせる。
二人には何やら思い当たることがあるようだった。
そんな推測を聞く傍ら、ユイカは頭痛に苛まれながらも有益な情報はないかと与えられた情報に意識を向けていた。
頭の中を延々と無造作に巡る情報の中にはルムカにそっくりな男を見たが肝心の名前がわからず、この世界の地図らしきものもあったが現在地もわからず。
手掛かりが掴めそうで掴めないもどかしさにユイカの顔は段々とくしゃくしゃになっていく。
「役立たずめがっ!」
「わぁ!ビックリした……」
「いきなりどうした」
突如叱責を飛ばし黒い艶髪をかき回すユイカに二人は僅かに身を引いた。
「情報が乱雑すぎて役に立たない!使えない!」
「そんな自分を責めなくても」
「俺達は十分助かっているがな。それに森の外へ出る方法を知れたところで真っ直ぐ家に帰れるかどうかも怪しいところだ」
禁足地の断片的な情報だけであっても、ルムカとミストルにとっては何かを汲み取るには十分だったようだ。
暗い顔のままの二人にユイカは感じていた疑問をそのまま問う。
「誰かに狙われでもしてるの?」
「……それが分かっていたら、ここに来ることもなかったんじゃないですかね」
「何にしても分からないことが多い。とにかく、今はユイカの得た情報だけが頼りだ。俺達もできる範囲で協力する。力を貸してくれるか?」
真剣な表情のルムカとミストルにユイカは何を今更とカラッと笑ってみせた。
「私こそ二人に会えて助かってるんだよ。一人だったら多分色々遠回りしてそうだったし。二人が森を安全に出れるよう協力するからさ、二人も私にこの世界について色々教えてくれないかな?」
「僕達にできる範囲であれば喜んで!ね、ルムカ様」
「あぁ、もちろんだ。よろしく頼むユイカ」
ユイカはルムカとミストル両方と握手を交わした。
こうして森の中で三人の物語は動き始めた。