情報をください
結局まともな情報交換はできずじまいで、疲れ切った状態ではまともに頭も働かないだろうと一旦休息を取ることになった。ユイカは警戒心の欠片もなく、巨大花の元にいる銀狼の懐を寝床代わりにぐっすり眠った。対してルムカとミストルは交代で仮眠したものの、警戒を解けない状態が続いているためまともに疲れが取れていなかった。
(あの二人の反応が普通なんだよね多分……やっぱ違う世界なんだな)
この地で覚醒した瞬間から気付きはしていたが、銀狼という何故か喋るわけでもないのに意思疎通できる獣の存在、そしてルムカとミストルから知り得た貴族制度や魔法の存在にそう結論付けるほかなかった。休息したはずが、出会った先刻より確実に草臥れている二人を見て、ユイカは申し訳なくなった。
「どうしたもんかなぁ」
生い茂る木々の隙間から僅かに漏れる朝の光を眺めながらユイカは思案する。二人は貴族というのもあって年齢よりはるかに聡明であるだろうが、子供であることに変わりはない。前世大人であったユイカとしては何とか助けになりたいと思うが手詰まりの状態だった。この地で初邂逅した知的生命体である銀狼にも既に色々な疑問をぶつけてはみたが、どれも的を得ない回答とも言えないものしか返ってこなかった。人の世は知らん、お前は機が熟すまでここを出るべきでないと銀狼はそればかりだった。一体どうやって情報を得ればいいのか?ユイカがそう強く思った時、自然とその目は極彩色の巨大花へと向いていた。
花を眺めるユイカを少し離れた場所でルムカとミストルは黙って見ていた。
「あの少女、一体何者でしょうね」
「さぁな」
ユイカは顔のせいで平民とは思えないが、かといって貴族のような雰囲気もない。貴族ともなれば、演技でもない限り雰囲気で何となく出自がわかるものだ。こちらと協力する姿勢からみて悪者ではないだろうが、手放しで信頼できるというわけでもない。ルムカとミストルとしても、ユイカとの距離を測りかねていた。警戒するのが馬鹿らしくなってきた二人だったが、何の前触れもなく起きた衝撃的な光景に唖然とした。花を眺めていたユイカが、その花にまるで喰われるかのように頭を花弁で覆われてしまったのだ。
「ユイカ!」
一拍遅れてルムカが駆け付ける。しかし銀狼の尾で寄るなと軽く払われてしまった。尻もちをついたルムカが再び駆け寄ろうと立ち上がると同時に、ユイカを飲み込んだ状態で花が光り出した。あまりの眩さと高濃度の魔力に近寄ることができなかった。眩むような光が収束すると花は元の状態に戻っており、花弁に喰われる前の状態のままのユイカがいた。頭のもげていないユイカを見て、ルムカとミストルは安堵の息を吐いた。だが安堵したのもつかの間、ユイカは目を開き直立したまま後ろへと倒れていく。慌てる二人を尻目に、銀狼が豊かな尾でユイカを受け止めた。微かにユイカが発光しているような気がするが、ルムカもミストル共にとっくにキャパオーバーしていた。頭がもう何も考えたくないと拒絶していた。
「ルムカ様、俺達本当に生きてるんでしょうか」
「俺が知りたいくらいだ……もういい、寝よう」
「……そうですね」
十数年という人生の中で、一度も経験したことの無い事が次から次へと起こりすぎている。いっそ夢であってくれと、計らずも二人は同じことを願って目を瞑った。




