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誰ぞの花  作者: 宮内
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子供達の邂逅

 結華が新たな生に呆然としてる最中、二人の子供が森の中を彷徨っていた。薄汚れてはいるが、どちらも平民では到底手にすることのない上質な服を身に纏っている。


「ルムカ様、もう無理です……僕はお捨てください」

「それで捨てたらお前は恨むだろうが」

「そんなこと……いや、そうですね、恨みます多分」

「はぁ、運が良いことにこの森はおそらく静寂期だ。希望を捨てるにはまだ早い」


 ルムカは後ろで項垂れる従者ミストルを呆れつつ励ます。よく弱音を口にする幼馴染だが、実は強かな男であることをルムカはよく知っていた。知ってはいるものの、実のところルムカ自身も弱音を吐きたくなる程度には疲弊していた。両者共に日々鍛錬を積んでいるため、そこらの子供よりは体力はある。しかし安全の確保できない森の中を不安と共に一晩中歩き回っていれば当然疲れる。しかも二人の放り込まれたこの森は禁足地であった。脱出しようにも、“この森には足を踏み入れてはならない”という事以外一切情報がなく手詰まりの状態であった。


「ミストル、何度も聞いてすまないがこうなる直前の記憶はどこまでだ」

「ん~やっぱりダンス直後までです」

「そうか……」


 二人はルムカの腹違いの兄であるロランの婚約パーティーに参加していた。


 夫人同士、大変仲が悪いため茶会やパーティーは大抵ルムカ側が欠席する。しかし今回は一族嫡男の婚約お披露目であり、さすがに不参加とはいかない。両者の母同様、ルムカとロランの仲も良いとは言えず、気は進まないながらも参加したパーティーだった。エスパル家は王族の血脈から最も近しい公爵家であり、王族エフリム家も参列した盛大な婚約パーティーだった。当然、警備もいつも以上に厳重であった。にもかかわらず、二人は何故かダンス直後の記憶がなく気付いたらこの森にいた。持ち物は護身用のナイフのみだったが、二人は幸運なことに魔法の才に恵まれていたため、魔獣や獣が跋扈する見知らぬ森でも何とか凌ぐことができていた。場所の特定が即座にできたのは、辺り一面を覆う黒い幹に紺色の葉を持つ巨木は禁足地の森にしかない種であると知っていたためだ。二人がランプ代わりにしている魔法光によって照らされる森は、得も言えぬ不気味さがあった。


「とりあえあず身の落ち着ける場所を探すぞ」

「あるんですかそんな場所?ルムカ様知ってます?ここ禁足地ですよ?」

「一々突っかかるなめんどくさい。何も情報がないんだ。可能性はゼロじゃないだろ」

「はぁ、何でそんな前向きに生きてけるんだろ」

「お前が後ろ向きなだけだろ」


 小言の応酬ができる今の内に何とかしなければとルムカは急いていた。ミストルの言う事は最もだ。何もない場所が禁足地にされるわけがない。実際、森の中は一切の方角が分からず魔獣の気配もある。今のところ二人でも倒すことのできるレベルの魔獣や獣の襲撃で済んでいるが、それも疲弊していけばままならなくなる。好転の兆しがないまま、何も起きてくれるなと祈るルムカであったが、ふと足を止めた。


「ルムカ様?何かありました?」

「……気のせい、ではないか」


 ルムカの感じ取った微かな気配は気のせいではなく、二人の元にナニカが物凄い速さで近付いてきていた。いよいよ無視できなくなった気配にルムカがいち早く気付いたが、迎え撃つには遅すぎた。


「ミストル!逃げろ!」

「うわぁ!?」


 咄嗟にミストルを力一杯押し、ルムカは衝撃に備えた。しかし予想外の静寂にルムカはいつの間にか瞑ってしまっていた目を開け、そして驚愕に固まった。二人に迫ってきていたナニカは見たことのない生き物だった。白銀の毛の神々しい巨大な狼と、その背に乗る人外離れした美しさを持つ子供。


「え?子供だ」


 今の状況にそぐわぬ間の抜けた声だった。しかしそのお陰で、おそらく喰われはしないだろうとルムカとミストルは肩の力を抜いた。

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