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誰ぞの花  作者: 宮内
2/11

生誕

 結華は心地良い空間で漂っていた。

死後直後であるのか、それとも時間が経っているのかはまるでわからなかったが、害されることの無い安全な空間であると不思議と分かっていた。

生前、連日の酷暑と繫盛期による仕事の残業続きで順調に疲労が蓄積していた結華であったが、今はそれらが嘘のように体が軽く、ひたすらに心地良い惰眠を貪っている感覚だった。

しかしその時間ももうすぐ終わりがくるのだと、これもまた不思議と分かっていた。

その予想は正しく、感覚が徐々に明瞭になっていき肌が外気に触れるのを感じた。

途端、何故だか酷く焦りを感じたが、その焦りは他人事のようで結華は抗わず覚醒に身を任せた。

座り込んだ状態の足に地面を感じ結華は目を開ける。


「……どこ?」


 結華はてっきり死後の世界に来るのだと思っていた。

しかしこの世に自分がしっかり存在するのだと五感が告げていた。

前世で死後の世界について深く考えることはなかったが、一般的なイメージの天国や極楽、あるいは地獄どれにも当てはまらない景色が広がっていた。

真っ先に目に入ったのは木漏れ日を受けて光輝く澄んだ泉だ。

次いで印象的であったのは、何気なく振り返った後ろに咲く極彩色の巨大な花。

目にする全てが前世の記憶とは少しずつ違っていると結華は不安を感じつつあった。

しかしこの場所は覚醒する前と同じく、自分を害することがないという事だけは何故か確信があった。

しばらく呆然としていた結華だったが、まずは現状把握が必要だろうと立ち上がった。

立ち上がって感じた違和感は視点の低さだった。

結華は標準的な成人女性の身長だったが、見慣れた視点より明らかに低かった。

体の違和感にふらつきながらも泉のほとりに歩み寄り、恐る恐る覗き込む。


「何、これは?誰これ?」

 

 水面に映る顔は前世の自分の面影など一切なかった。

あまりにも完璧なパーツが完璧な比率で配置された顔面だった。

美醜の価値観は人それぞれとは言えども、この顔面であれば誰であろうとも整っていると判断するだろう。

呆然とした顔も絵になる。

一旦水面から顔を離したが、いや待てよと再度覗き込む。

圧倒的な美顔に意識を取られていたが、どう見ても成人前の幼さの残る顔だ。

それゆえに視点が低いのかと合点がいったが、不安が増していく一方だった。


「私は何なんだ……?」


 結華がここに存在する直前の記憶は、やはり死に際で終わっている。

前世の記憶を持った状態で新たに生を受けたのだろうことは分かったが、それ以外が全て謎であった。

幼くはあるが、十より上の年齢ではある。であれば、数年前に既に物心ついてる年齢に達しているはずなのにその記憶も一切ない。

結華は終始呆然としながら、何気なく元いた場所へと戻っていた。

他にも変化がいくつかあるのだが、結華自身がその事実に気付くのはもう少し後になる。

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