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誰ぞの花  作者: 宮内
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生誕

 結華は心地良い空間で漂っていた。

 死後直後であるのか、それとも時間が経っているのかまるでわからなかった。しかし害されることの無い安全な空間であることは何故か理解していた。

 生前、結華は連日の酷暑と繫盛期による仕事の残業続きからの度重なる不運なトラブルで順調に疲労が蓄積していた。今はそれらが嘘のように体が軽く、ひたすらに心地良い惰眠を貪っている感覚だった。しかしその時間ももうすぐ終わりがくるのだと、これもまた不思議とわかっていた。

 その予想は正しく、感覚が徐々に明瞭になっていき肌が外気に触れるのを感じた。途端、何故だか酷く焦りを感じたが、その焦りは他人事のようで結華は抗わず覚醒に身を任せた。座り込んだ状態の足に地面を感じ結華は目を開ける。


「……どこ?」


 結華はてっきり死後の世界に来るのだと思っていた。しかしこの世に自分がしっかり存在するのだと五感が告げていた。

 前世で死後の世界について深く考えることはなかったが、一般的なイメージの天国や極楽、あるいは地獄どれにも当てはまらない景色が広がっていた。その目に入ったのは木漏れ日を受けて光輝く澄んだ泉だった。次いで印象的であったのは、何気なく振り返った後ろに咲く極彩色の巨大な花。目にする全てが前世の記憶とは少しずつ異なっていると結華は不安を感じつつあった。初めて目にするものが多いが、覚醒する前と同じくこの場所は自分を害することがないということだけは確信があった。

 しばらく呆然としていた結華だったが、現状把握が必要だろうと立ち上がる。まず感じた違和感は視点の低さだった。結華は標準的な成人女性の身長だったが、見慣れた視点より明らかに低い。体の違和感にふらつきながら泉のほとりに歩み寄り、その水面を恐る恐る覗き込んだ。


「何、これは?誰これ?」

 

 水面に映る顔は前世の自分の面影など一切なかった。あまりにも完璧なパーツが完璧な比率で配置された顔面だった。

 黒髪は馴染みのあるものだが、水面を凝視している目の色は紫のように見える。前世からするとあまりにも異質な色だが、そんな突飛な色であってもこの顔だとなんら違和感ない。美醜の価値観は人それぞれとはいえ、この顔面であれば誰であろうと整っていると判断するだろう。呆然とした顔すら絵になる。

 一旦水面から顔を離したが、すぐさま次なる疑問が浮かび再度覗き込む。圧倒的な美顔に意識を取られていたが、どう見ても成人前の幼さの残る顔だ。それゆえに視点が低いのかと合点がいったが、不安が増していく一方だった。


「私は何だ……?」


 結華がここに存在する直前の記憶は、やはり死に際で終わっている。前世の記憶を持った状態で新たに生を受けたのだろうことはわかったが、それ以外が全て謎であった。

 幼くはあるが、十より上の年齢ではある。であれば、既に物心がついてる年齢に達しているはずだがその記憶も一切ない。結華は終始呆然としながら、何気なく元いた場所へと戻っていた。他にも変化がいくつかあるのだが、結華自身がその事実に気付くのはもう少し後になる。

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