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誰ぞの花  作者: 宮内
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誰に似る

 シャエディアは宿で待機させ、ユイカは1人シュバタフの店へやって来た。夕飯時も過ぎた今、すでに閉店しており明かりもついていない。店前でしょんぼりしているユイカに、近付く者がいた。


「お前……その不用心さをどうにかしろ」

「あれ、シェオさんだ。こんばんは」


 呑気に挨拶をしてくるユイカにシェオは遠い目をした。ローエインは比較的治安の良い街ではあるが、大抵ならず者はどの地にもいるものだ。おまけにユイカの着ている上質なローブは換金すればそれなりの額になるし格好の的である。説教するか放っておくか、どちらにしようか考えているシェオの後ろから1人の女性が顔を出した。


「珍し。シェオが女の子に声かけるなんて」

「客の知り合いだ」

「ふぅん?」

「あの、あなたは?」

「私は中級冒険者のイザオラ・ペイネッシ。よろしくね」


 薄暗い街灯の明かりだけでも鮮やかさのわかる赤髪が印象的な女性だ。ニヤニヤしながらシェオを小突いている。とんでもないことをするなとユイカは恐々としながら自らも名乗った。シェオが鬱陶しそうに女性の手を払いユイカを睨みつける。


「爺さんに用があるなら三日後にしろ」

「三日後……今はいないんですか?」

「お前と別れた後、隣町に行った。あの爺さんは基本的に休まねぇ」

(な、なんだって……!)


 唯一の頼みの綱であるシュバタフはまさかの不在で、しかも会えるのは三日後ときた。ユイカは早々に手詰まりとなり心が折れそうになる。項垂れるユイカに女性が明るい声で提案を持ち掛けてきた。


「急ぎの用があるならコイツに送ってもらえばいいじゃない。転移陣使えば隣町なんてあっという間よ」

「お前、余計なこと言うんじゃねぇ」

「いーじゃない!減るもんでもなし。まぁ領主様にお願いしないといけないけど、あんたなら夜中でも会ってくれるでしょ」


 転移陣と聞いてユイカの頭の中に記憶が浮かび上がる。全ての地に設置されているわけではないが、主に緊急時の稼働であれば使用されることが許されている。転移陣は領主の管理下にあるため、許可がなければ使うことはできない。その許可を得る伝手がシェオにはあるという。一筋の光にユイカは身を乗り出した。


「領主様の許可はすぐに取れますか?実は王都に行きたいんです」

「ニリアスに?それはまた随分と遠い目的地ね」

「俺が使えるのは隣町のやつだけだ。王都の転移陣なんてあるかも知らねぇ。あったとしても貴族以外使えねぇだろ」

「うぅ……犯罪者は嫌だ……死ぬのも嫌だ……」

「てめぇは何を言ってんだ?」


 唐突に不穏なことをぼやくユイカにシェオが胡乱な目を向ける。自身の現状を説明するためには、まずシャエディアという不可思議極まりない存在の説明をせねばならない。そして流れでユイカ自身の出自も話す羽目になる可能性が高い。銀狼はもちろんのこと、ルムカとミストルの二人からも、ユイカという存在自体を無暗に広めるべきでないと釘を刺されている。ここで助力を得られなければ、シャエディアの浮遊魔法――人間界での名称:高速飛行――で王都まで飛んで不法入国するという方法しかない。この浮遊はシャエディアだからこそ使えるものであって、人間に近く魔法も未熟なユイカが耐えられる可能性は極めて低い。どの方法を選択しようが、ユイカはシェオに護衛の依頼をするつもりでいる。諸々の事情を全て隠しながら護衛についてもらうことは難しいだろう。ユイカは腹を括るしかなかった。


「その、王都の知り合いが大変困ってる状況でして……」

「それで助けに行きたいってわけね」

「王都へ入国するにはどうすれば……?税の支払いだけでは無理ですよね?」

「余程の無法地帯でなければ入国には身分証が必要だ。お前がこの国に入れたのは、あの爺さんに規格外の伝手があるお陰だ」

「つまり、シュバタフさんに聞いてみるのが一番いい案ってわけ」


 そうと決まれば領主に転移陣の使用許可を得なければならない。転移陣を使えないとしてもユイカの身分証明をしてくれる、あるいはユイカの代わりにシュバタフに事情を伝えてくれる者が必要だ。ユイカはシェオとイザオラに向かって勢いよく頭を下げた。


「お二方どうかお願いします!助けてください!」


 清々しいまでの要請を受け呆気に取られるイザオラだったが、ユイカが不安げに頭を上げると楽しそうな笑い声をあげた。シェオは変わらず珍獣でも見るような目を向けている。二人の反応に戸惑うユイカに、シェオが手を差し出す。


「これは?」

「爺さんに感謝するんだな。お前が困ってたら渡すように頼まれてんだ」

「そういう頼み聞くのねぇあんた」

「依頼として受けてんだよ」


 シェオから渡されたのはシュバタフからの手紙だった。天秤印の封蝋がされた手紙を開けると、身分証明と入国許可に際する手順が記されてあった。同梱されている紹介状を使えば、比較的スムーズに入国手続きが可能であるようだ。その手厚さにユイカの涙腺は崩壊寸前であった。イザオラが口を引き結ぶユイカの背を励ますように叩く。


「さ、急ぐんでしょ?お次は領主様のとこに行こう」

「断られる場合もある。ほかの手も考えておけ」

「……お二人とも付き合っていただけるんですか?」

「あんたには悪いけど、なんか楽しそうだしね。依頼料はくれるんだろ?」

「もちろんです!シェオさんも、」

「俺は爺さんからもらってんだよ。早く行くぞ」


 シュバタフは手紙だけでなく、先を見越してか護衛としての依頼も込みでシェオに依頼をしていた。ユイカにとっては大変に有難いことではあるが、ここまで至れり尽くせりだと流石に不安も湧いてくる。


「今日出会ったばかりなのに……何でここまで良くしてくれるんでしょう」

「えぇ?シュバタフさんとユイカは今日が初めましてだったの?」

「そうなんです。だから不思議で」


 何か裏があるのではないのだろうかと、失礼にあたるとしてもユイカは聞かずにおれなかった。シェオもその点は依頼を受けた時に疑問に思い同じようなことを聞いていたようだ。


「昔の知り合いに似てるんだと。あの爺さんいよいよボケてきたのかもな」


 顔も見てねぇのにと続けるシェオに、シュバタフへの疑念は深まるばかりだった。

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