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誰ぞの花  作者: 宮内
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選択肢と光

「本当に何から何までお世話になってばかりですみません……ありがとうございます」

「いいえ、困った時はお互い様ですから」


 すっかり日も沈み門が閉まる間際であったが、ユイカはシュバタフの口添えあってヘティア国主要都市ローエインへ無事入国することができた。シュバタフはローエインに限らず、ヘティア国内で信頼のおける商人として名が知られているようだ。そのお陰か門番もユイカに対して然程警戒しておらず、実にあっけないほど簡単な入国だった。入国前と入国後、馬車に乗せてもらった礼を払おうとしたが、シュバタフとシェオどちらとも受け取ってはくれなかった。シュバタフは完全に親切心からだろうが、シェオは明らかにユイカと縁付くことを避けていた。あまりの露骨さにさすがに悲しくなったユイカだが、シェオの気持ちも十分わかるためお礼の言葉に留めておいた。入国後、お礼と共に頭を下げるユイカにシェオは何とも言い難い表情をしていた。どういう感情なのだと聞く間もなくシェオは去って行った。シュバタフ曰くいつものことのようだ。


「都合の良い時に遠慮なく私の店にいらしてください。それとユイカさん、繰り返し言いますがお金をあのように袋ごと見せてはなりませんよ」

「はぃ……」


 別れ際、シュバタフにしっかり釘を刺されつつ、ユイカはおすすめしてもらった宿屋で今後の方針を考えることにした。ヘティア国の知識は管理者の記憶から知ることはできたが、ここローエインへ訪れた管理者はいないようだ。それもあって今のところ頼れるのはシュバタフだけであり、シュバタフ自身もそれがわかっているのか、ユイカが言い出す前に助力を申し出てくれた。大変ありがたいし遠慮なく乗っかる気満々のユイカだが、それにしても大まかな行動方針は決めるべきだろうと相談は後日改めることにした。想定外の事態への対処はもちろんのことながら、管理者の記憶があてになる可能性は低い。その都度タメになる情報を得られはしても、それを活かせるかどうかは当人次第だ。今のユイカが置かれている状況と同じような体験をした管理者は当然のことながら存在しない。そうした想定外を見越してか、対処法を授けてくれたのは銀狼だった。言葉足らずで理解できないこともあったが、圧倒的に助けられたことが多い。そういった経緯から、ユイカは銀狼を先生と呼び慕っていた。


(先生とニクは今頃どうしてんだろな。元気にやってるといいけど)


 宿屋のベッドに腰かけながら二者に思いを馳せると同時に念じるように呼び掛けてみるも、やはり一向に返答はない。ユイカは項垂れながら、ここに来るまでの間に何度も思い浮かんだ銀狼(先生)の言っていた対処法の1つを口に出していた。


「森の外で困った時は寄る辺を探すべし……」


 森の管理者について知る者はアルロ国の王族だけではない。この世界には魔聖域(ませいいき)という土地を有する国が数か所あり、そこを治める者こそ管理者を知る守り人である。それはおそらく今も変わらず、管理者が困った時に身を寄せる場所として在り続けている。そしてヘティア国はその寄る辺の内の1つであった。であればシュバタフに相談するまでもないのだが、ユイカが渋る要因があった。


「王宮て……こんな庶民丸出しの奴が行っていいとこじゃないて……」


 ヘティア国の魔聖域は王都だった。何代か前の王は管理者によって呪いを解呪してもらったという大恩もあることから、最大級のもてなしを受けるのが通例であるようだ。過去の管理者は新王即位の式典に来賓として招待されたこともある。そういった過去の記憶が問題なく引き継がれていれば、後任の管理者は伝手を駆使して貴族社会を学び自然と対応できるようになる。しかしユイカがその情報を得たのはつい最近のことであり、伝手を活かす間もなく今に至る。この状況で礼儀云々の心配など些細なことであろうとわかっていても、過去の記憶が見せる王宮での管理者の在り方があまりにも神格化されており気が引けて仕方がなかった。何より、ユイカは現時点で完全なる管理者と言えないことが一番の不安要素だ。過去、ヘティアの王都を訪れた管理者は皆一様にその隣には守護獣がいた。守護獣もまた管理者と同じようなもてなしを受けていたし、それが普通のこととして受け入れられていた。


「記憶も肝心なとこがない……ニクもいない……」


 さらにはニクが守護獣として認めてもらえるかすら怪しい。前任の管理者を知るヘティア王家だからこそ、ユイカは不安しかなかった。記憶によれば、管理者と偽れば極刑もあるようだ。王都へ行って助力を願うにはあまりにも不安要素が多い。魔聖域の守り人に管理者である証明をする必要があるわけだが、よりにもよってその記憶もない。自身が森の管理者と胸を張って言える時はいったいいつになるのか。あまりにも前途多難な状況にユイカは唸りながらベッドに倒れ込んだ。


「寝よう」


 濃い一日を過ごしたユイカは心身共に疲れ果てていた。寝支度を始めるユイカだったが、不意に視線を感じ窓へと目を向けた。


「どちら様ぁ……」


 窓の外に発光する人型の何かがいた。かろうじて見える口元の微笑みも相まって神々しさよりも不気味さが勝っていた。引き気味で問うユイカに答えることなく、人型は窓をすり抜け室内へ入って来た。


「新しき主、なぜ1人?盾はいずこ?」

「へぇ?何のことです?その、あなたはどちら様で?」

「まぁ、何てことかしら!私を知らない!そんなこと初めて!」

「なんか、ごめんなさい」

「まぁあ!主が謝ったわ!(しもべ)に!」

「うぅん……」


 ユイカが発言する度に驚く人型はどうやら敵ではないようだった。しかし一向に進まない会話にユイカは疲労もあって泣きそうになっていた。日を改めてくれないだろうかと提案してみたものの即刻却下されてしまった。


「お疲れなのね。お可哀想。でもね、駄目なのよ。すぐに行くの、そして綺麗にするの。寄る辺は大切なのよ」

「寄る辺……王都、ニリアスのことですか?」

「そうよ、ニリアスの子が苦しんでいる。このままじゃ死んでしまう。真っ黒よ、駄目なのよ」

「……駄目だ何もわかんない」


 人型の言うことが何1つとして理解できず諦めてしまそうなユイカだが、焦っている様子に思い留まり会話を試みる。切っ掛けとなる言葉さえあれば、自然と導くように記憶は開かれる。


「まず、あなたの名前を教えてくれませんか?」

「主が名付けたのに?あら、主なぜ泣きそうなの?泣いては嫌よ。私はあなたの光よ、シャエディアよ」

「シャエディアさん」

「!?シャエディアは用無しなの?もう光はいらないの?悲しい、そんなの嫌よ」

「どうしてぇ……何でぇ……」


 一歩前進したかと思いきや、すぐに壁にぶち当たる。その度にユイカの顔はしわくちゃになっていった。

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