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誰ぞの花  作者: 宮内
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幸あれ

(まさかこんな死に方になるとは……)


 外宮(そとみや) 結華(ゆいか)は神社の裏手で今にも死にそうになっていた。治安の良い住み慣れた場所で見知らぬ者に腹を刺されたのだ。

 日課である食後の腹ごなしがてらの散歩、今日に限ってスマホは家に置き忘れた。神社裏は森になっており、地元民であれば足を踏み入れてはいけない場所だと知っている。その森から真夏だというのに長袖パーカーのフードを目深く被った者が一人出てきた。そこに偶然居合わせたのが結華であった。あまりにも異質な服装と雰囲気にすぐさま踵を返した結華だったが、相手の足が速く、そして躊躇いがなかった。後ろから衝撃を感じたと思ったら、腹部が濡れる感覚と熱さが同時に襲い、気付いたら結華は倒れていた。体を起こそうにも力が入らず、焦点が定まらない視界の中で歩き去るパーカー。手に持っている何かが、夕日で鈍く反射しているのが見えた。


(なんて罰当たりな……私が何したってのさ)


 今日は仕事で上司がやらかしたミスの後始末を押し付けられるわ、後始末を完遂していざ帰路につけば信号無視の車に轢かれかけるわ、ご褒美にと立ち寄ったスイーツ店が臨時休業だわと既に散々であった。トドメとばかりに厄払い参ったはずの神社でこの様である。薄暗い中、ぼやけつつある視界でも自身の腹部から漏れる赤色は良く見えた。

 小さい神社だが地元の人から親しまれ、宮司や氏子の管理あって手入れの行き届いている居心地の良い神社だ。結華も子供の頃より慣れ親しんだ大好きな場所であり、自身の血で汚してしまうのが申し訳なくてしかたがなかった。当然、結華は死にたくなかったが、神社は居住区とは離れた場所にある。日が沈みつつある時間帯では、ただでさえ往来の少ないここへ人が来る確率は極めて低いことを知っていた。


(すいませんこんなとこで死んじゃって……異臭で発見とか嫌だなぁ)


 外気は暑いのに寒気を感じるという異様な状態。死を感じさせる感覚に足掻きたくても既に思考は回らなくなり、力も全く入らなくなっていた。

 怖い感覚はいつの間にか消え去り、心地の良い暖かな空気に包まれ結華はゆっくりと目を閉じた。


『かはゆし子 あらたし世へ 生るる』


 死ぬ間際、結華は鮮やかな場所で複数に囲まれ優しく頭を撫ぜられた気がした。

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