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第三話

「…うぅぅ…………“風刃”!」


 白い体毛に覆われた龍、レーヴェンが何やら念じた後、何かの技らしきものの名を叫ぶが、何も起きない。

 その様子を隻眼の黒龍シュトルムが微笑ましそうに見つめていた。


「……うぅ…なんで使えないんだ……?」

「どうやら、我と同じ系統には適性がない様だな」

「えぇ……そんなぁ」


 魔法には炎、水、風、地、聖、冥、空間、時間の八属性がある。シュトルムはその中でも風の系統を極め抜いており、微細な風から全てを吹き飛ばす嵐まで、自在に操る事が出来る。

 そんな父と同一の系統が使えない。その事実にレーヴェンは分かりやすく落ち込み、力無く地面に倒れ伏す。


「(……そもそもレーヴェン……お前に魔力がないなど、口が裂けても言えん)」


 シュトルムだけが気付いた事実。息子のレーヴェンには、何故か魔力がない。

 本来龍族は莫大な魔力を宿している。シュトルムの様な“帝”の名を冠する龍の血筋ならば、それ相応の魔力を備えていても何ら不思議ではない。

 ……であるというのに、レーヴェンは魔力を備えていない。理由こそ分からぬが、これに関しては仕方のない事だとシュトルムは割り切っている。…が、レーヴェンは別だろう。

 父たるシュトルムに憧れの念を抱いている事もあり、こんな残酷な真実を教えてしまったら、立ち直れないだろう。


「(これはどうすべきか……魔法の鍛練は続けても意味がないであろうし…であれば体術でも教えるか? …しかしそれだけを続けてしまえば、逆に怪しまれるであろうし…うぅむ……)」

「痛っ」


 レーヴェンを鍛える事に悩みを募らせていた中、レーヴェンからそんな声が聞こえてきた。

 視線を移すと、レーヴェンの尾から一筋の血が流れていた。

 話を聞くと、何とか魔法を使えないか色々試し、身体をめいっぱい動かした結果、木の枝に尻尾を引っ掛けたらしい。


「全く何をやっておるのだ。……ほら、おいで。今治してやる」

「ごめんなさい……」

「気にするな。だが、周りをよく見てから動くのだぞ。お前の毛と鱗は、まだ柔らかいのだから」


 龍鱗と同等の硬度を持つ龍毛。本来この程度で怪我をする事などないのだが、レーヴェンはまだ二十歳。身体が龍の基準でまだまだ幼い為、些細な事でも傷を負ってしまう。


「(……情けないなあ。こんな事で怪我しちゃうなんて)」


 レーヴェンは密かに焦りを募らせていた。

 確証は無いが、いずれレーヴェンは父の…シュトルムの跡を継ぐ事になるだろう。

 人間の感覚が抜け切っていないレーヴェンにとって、二十年はもう大人だ。前世と合算するとそれなりの年齢だが、そこは割愛する。

 そんな自分は二十年経っても録に魔法が使えず、父の足を引っ張ってばかり。


「(せめて…こんな傷くらい治せる力があったら……)」


 ある筈もない力を思い浮かべ、レーヴェンはため息が零れそうな程に気分は下回っていた。


「……レーヴェン」

「…? どうしたの、父さん」

「お前……今何かしたか?」


 へ、と素っ頓狂な声を漏らしながら首を傾げるレーヴェン。その様子に、困惑の念を含んだ視線をレーヴェンの尾に移したシュトルムに続き、レーヴェンも自身の尾へと視線を移す。

 先程誤って負ったレーヴェンの傷は、すっかり塞がっていた。


「あ。ごめん…ありがとう父さん」

「いや、違う。……我は()()()使()()()()()()


 レーヴェンは言葉を失う。

 使ってない、と言ったか。その言葉の意味を理解するまでに時間が掛かって硬直する中、シュトルムは続ける。


「使おうとした瞬間、お前の傷口が瞬く間に塞がった。……本当に、何をしたのだ?」

「…………分かんない」


 理由も由来も分からずに行った、傷の治療。

 不可解な出来事に、双方見つめ合って硬直する。…何とも気まずい雰囲気を伴いながら、今日のところは住処に帰る事にしたのだった。

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