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【命廻龍】レーヴェン〜その龍、守護神にして死神なり〜  作者: 蛇ノ目
第一章 其は遍く生命を統べる龍である
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第十五話 力の使い方ー参ー

『……で、自分に魂魄操作の権能を使い、その姿となったと』

『はい…』

『全く……』


 レーヴェンが龍人化して数時間後。

 呆れた表情のバハムートの視線の先には、レーヴェンが正座しながら申し訳なさそうな表情と共に説教を受けていた。

 疲れきった様子のバハムートはため息をひとつ零すと、改めてレーヴェンの方に視線を移した。


『(魂の形を弄る……その様な事が、本当に可能なのか?)』


 レーヴェンが告げた、彼の権能……それは、魂を通して肉体に影響を及ぼすというものであるという。

 肉体の治療以外の効果は、結局実践せねば分からぬ事もあり、何を思ったか自分に権能を掛け……

 ……その結果、七メートル程はあったレーヴェンの体躯は、約二メートル程度に縮み、彼の骨格もまた、人に近いものとなっていた。


『レーヴェン。権能を自力で解き明かせとは言ったが、何も儂を頼るなとは言っとらんぞ。もしその過程でお前さんの身に何かあった時、シュトルムに───』


 バハムートはそこで言葉を詰まらせる。

 兄弟であるシュトルムに合わせる顔がない、と口にしようとしたのだが……バハムートからシュトルムに会いに行く事は叶わない。そもそも、シュトルム含めた“帝”龍達は、バハムートの存在を記憶しているのかが分からないのだから。

 一拍置き、改めて口を開いては告げる。シュトルムに申し訳ない…と。


 レーヴェンは思う。父との会話をする時、いつもバハムートは悲しそうにしている事が、ずっと気になって仕方ない。


 だが、それを言及する事はなかった。するだけの勇気が、まだなかった。







 半年後。

 龍脈の最奥、バハムートの支配域にレーヴェンがやって来てからというもの、レーヴェンの実力は見違えていた。

 権能の制御。純粋な身体捌き。反応速度や立ち回り方。

 その全てが常軌を逸する程に磨かれ、洗練されていて、少し前のレーヴェンと同一人物とは思えない。

 特に龍人の姿となった今の彼は、龍の姿よりも遥かに強くなっている。

 元が人間だった事もあって、龍の時よりも精密に身体を動作できる上、権能のエネルギーを全身に循環させる事による身体強化。

 更には独学で体術の類も身に付け始め、いよいよ隙が無くなった。


 ───何より、バハムートが恐れ慄いたのは……


『(反則じゃろう……触れただけで(・・・・・・)命無き人形を殺すなど……!)』


 レーヴェンの権能は、魂に基く全てに干渉するもの。

 つまりそれは、本来ならば生体にしか作用しない訳だが……レーヴェンはこの半年間で、ある裏技を見出していた。


 それは、生物・非生物の活動を支えるものを魂と仮定し、干渉するというもの。


 例えば、レーヴェンを模した青い龍人形はバハムートの権能により生み出された核を中心に活動している。

 彼はそれを魂と“定義”し、干渉、停止させる事を半年もの間で可能にした。

 レーヴェン曰く、個の根源である魂に触れるより、肉体の中心部……心臓や脳を魂と仮定して干渉し、止める方が効率がいいそうだ。


 即ちそれは……命無きもの、終わりなきものすらも殺せる事を意味していた。


 だが、バハムートが目を見張るのはそこだけではない。

 レーヴェンの権能も凄まじい上恐ろしいが、レーヴェン“本人”もまた、目覚ましい程に成長していたのだから。




『(数は……十五)』


 バハムートが生み出した、レーヴェンの龍の姿を模した無数の人形。龍人の姿であるレーヴェンは相対する敵の数を把握しながら、何時でも動ける様に身構える。


『───始め』


 バハムートの宣言を合図に、無数の龍人形がレーヴェンへと殺到する。

 半年前までまともに倒す事が出来なかったそれを前に、レーヴェンは焦る様子もなく佇んでいた。


『(権能に宿る莫大なエネルギー……その一部を、掌から先に剣の形(・・・)で循環…!)』


 レーヴェンが思い描いた形に権能の力が流れ巡り、レーヴェンの中に還っていく。

 途端、手刀の様に形作られていたレーヴェンの手から金色の光が剣の様に形を成していく。しかもそれが…両手。

 光……権能のエネルギーが剣の形となったのと同時に踏み込んだレーヴェンは、既に己の間合いに踏み込んでいた無数の龍人形の内、先頭にいた龍人形の頸を刎ねる。

 次いで突進してきた人形を跳躍しながら身体を捻り、下方向に右手の剣による斬撃。

 頭蓋の真ん中からパックリ割れ、地面を転がるのも厭わず、他の龍人形は億さずレーヴェンに向かっていく。

 それをレーヴェンは権能の身体強化により、常軌を逸する速度で放たれる光の剣の乱舞。

 不運にも、その間合いに巻き込まれた五~六体程の龍人形達はあっさりバラバラになってしまう。


 それからも突っ込んでくる龍人形達も同じだった。何もさせて貰えず、レーヴェンの光の剣がバラバラに切り裂いてしまったからだ。


『……そこまで。お前さん、半年前と見違えたな。まさか権能のエネルギーを武器に変えるなど、儂でも思い付かん』

『なんか出来そうな気がして。やってみたら出来ちゃいました』

『……普通、やろうと思っても出来んからな?』


 バハムートは関心すると同時に恐れの念を抱く。

 龍人の姿に変身できる様になってからというもの、レーヴェンの権能の扱いは当初とは比べ物にならぬ程に飛躍していた。

 まるで、生まれ落ちたその瞬間から権能を使えていたのではと錯覚する程の練度だ。


『その姿の方はどうだ? 違和感は無いか?』

『全然大丈夫です。この脚の感覚にも慣れてきましたし』


 動物の後ろ脚の様な形状の脚も、最初こそ慣れなかった訳だが、変身してから早三日で感覚を掴み、今や歩くのも走るのも問題なくなっている。


『……もうお前さんはひとりでもやっていけそうであるな。権能もすっかりモノにしている上、儂が想像する以上に強うなっとるからの』


 バハムートの独白に、レーヴェンは少し嬉しくなった。レーヴェンの方も実力がついた実感がある事もあり、尚更。

 だが…バハムートが纏う雰囲気には、どこか寂しさが浮かんでいて、レーヴェンもまたそれを感じ取ってしまう。それを言及しようとするも、遮る様にバハムートが話し掛けた。


『地上に……お前さんの身体に戻るのなら、早い方がいい。今し方上を見たが、何やら人間共がお前さんの身体を弄っとる様じゃしの』

『えっ、なんでそんな事……』

『分からん。だが、取り返しが着かなくなる前に戻るといい。お前さんの権能ならば、己が魂を肉体に還す事など容易いだろう。……そろそろお別れだな、レーヴェン』


 今度は隠す事なく、寂しいという感情を顕にしながら呟く。

 バハムートはレーヴェンを止める事はない。彼にはやらねばならない使命がある。それは今後のバハムートにも関わる事であり、足止めする事がこの先の未来にどんな影響を及ぼすのか計り知れない。

 対してレーヴェンは、バハムートという師でもあり叔父との別れが近付いている事実に、同じ様に悲しそうにする……を通り越して、目頭から涙を零していた。


『ああ、泣くな泣くな。儂まで泣いてしまうであろう』

『ッ……また……会えますか?』

『……分からん。…だが…きっと、会えるさ』


 寂しそうに呟いては、レーヴェンにまた会えると伝える。

 ……だが、バハムートには嫌という程理解している事がある。どれだけ再会を願っても、シュトルムや他の帝龍達の様に、会う事すらも叶わず、皆が皆バハムートの存在を忘れ、自分の役割を全うして生きている。

 それでも……それを妨げる権利も、意味も、バハムートにはない。

 例え忘れられてしまったとしても、兄弟皆が幸せであれば、バハムートにとっても幸福なのだから。

 ……そう、なのだ。


『……また、必ず会いに来ます。その時は…必ず父さんを連れてきますから』

『…無理は、せんでよいのだぞ? ここに来るのは一朝一夕ではない』

『魂だけでも、バハムートさんの所に来れたんだ……絶対、また来れますよ! ……それに』


 涙を拭いながら、少しだけ頬を赤く染めたレーヴェンは、バハムートから顔を逸らしながら、言葉を続ける。


『次……次会った時……バハムートさんの事、バハムート叔父さんって…呼んでもいいですか?』


 その言葉に、バハムートは目を見開き……四つの眼から、比喩でもなんでもない涙の大滝を流した。


『ああ…! 幾らでも呼んでくれ! ───また…またここに来るのを楽しみに待っておるぞ、レーヴェン…!』


 嬉しい。不思議と甥っ子(レーヴェン)ならば、またここに来てくれるという確信があった。そう思うと、まだ送り出してもいないのに、楽しみで仕方ない。


『じゃあ……行ってきます!』

『ああ! 行ってらっしゃい、レーヴェン!』


 お別れは涙ではなく、笑顔で。

 レーヴェンの権能が、彼の魂をあるべき場所へと送り返していく。

 彼の姿が光の粒子となって消え、その一粒が消えるまで、バハムートは静かに見守っていた。


『……ああ…次は、いつあの子に会えるのだろうなあ。楽しみで仕方ないわい』


 また、自分以外に誰もいないこの場所で、独りきり。

 だが、不思議と寂しさは感じなかった。

 何故なら最愛の甥っ子が、いずれ兄弟を引き連れて会いに来てくれる日が来るからだ。

 それまで、自分もまた己が役割に勤しまねば。

 甥っ子に、情けない姿は見せられない。

 【地脈龍】バハムートは、次また甥がやってくるその日を密かな楽しみとし、今日も龍脈を制御する。


 それが彼に課せられた、唯一無二の役割であるから。

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