表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

episode7 -手鏡-

初めまして「あるき」と申します。

初投稿になります。

小説書くのは初めてですが、夢に見た物語が面白そうだったので書いてみました。

誤字脱字どころか日本語がおかしいところあると思いますが、ご容赦ください。



健一はひとり、懐中電灯を掲げてリビングへと足を踏み入れた。

部屋の中は湿気とカビのにおいが立ち込め、床のフローリングには黒ずみが浮かび上がっている。

ソファはすっかりカビの温床と化し、壁紙にはところどころ青緑色のコケのようなものまで生えていた。

「うわ……こっちはこっちで終わってんな」

ぼやきながら、壁の棚を開けたり、床下収納を覗いたりしていく。

だが、妖異に関する決定的な情報は見つからない。

「……くそっ、なにもないか…」

思わず拳で壁を小突く。

──バキィッ!!

「……は?」

鈍い破裂音。

直後、壁の下部からバシャァァッと水が噴き出した。

「ちょ、待て待て待て待て!!!?」


水が勢いよく床を走り、健一の足元を一瞬でびしょ濡れにする。

床の隙間からは、ひび割れた古い配管が露出していた。

「ぅわ、冷っっっっっ……!」

ずぶ濡れになったコートをつまみながら、健一は顔をしかめる。

「……初回でこれか…ツイてない……」

びちゃびちゃの靴を引きずりながら、健一は渋々廊下へと戻っていった。


「じゃあ、私は書斎を調べるね。茜ちゃんは寝室をお願い」

そう言って優里が廊下を進む。茜は無言で頷き、反対側の部屋へと向かった。

二人の足音が別々の扉に吸い込まれていく。


優里が入ったのは、重厚な扉の奥にある書斎だった。

戦後建築とはいえ、どこか大正ロマンの残る、和と洋の混ざった空間。壁際に設置された大きな書棚には、宗教や民間伝承、悪魔学に関する書物がぎっしりと詰まっていた。

「……お父さん、何を調べてたのかな」

手に取った一冊の手帳。表紙には何のタイトルも書かれていない。

中には日付ごとに丁寧に記された観察記録が並んでいた。

──『病気だった娘が少しずつ元気になってきた。』

──『快気祝いに隣町で買った手鏡をプレゼントした、元気になったらたくさんおしゃれすると意気込んでいる。娘はとても嬉しそうにしていた。』

──『また娘が体調を崩した、だが娘の様子がおかしい。鏡に向かって話すようになった』

──『目つきが違う。ときおり、何かを見ているようだ』

──『鏡の中の“何か”が、娘に取り憑いている。私はそう確信している』

ページを繰るごとに、記述は切実さを増していく。

──『娘は日に日に変わっていく。だが、それでも、私に笑いかけてくる』

──『もしかしたら、もう手遅れかもしれない』

──『だがそれでも、あの子を一人にはしない。最後まで、父親でいようと思う』

「気づいていたんだ…必ず…止めるよ。」

優里はそっと手帳を閉じ、息を飲んだ。

一方、茜は寝室に入っていた。

窓は厚手のカーテンで閉ざされ、空気はわずかに湿っている。

丁寧に整えられたベッド、その横の小さなドレッサー。

上には埃の積もっていない化粧品やブラシがあり、そこだけが妙に生々しかった。

引き出しの奥に、古びた布に包まれた日記帳を見つける。

ぱら、とページをめくると、少女の文字が現れた。

──『鏡、きれい。私よりきれい』

──『お父さん、最近あまり話してくれない』

──『でも、鏡はずっと見ててくれる。中の私は完璧。私より、私らしい』

──『“あの子”に、なりたい』

──『私の代わりに、あの子がここにいればいいのに』

日記の後半は文字の乱れが激しく、内容も支離滅裂に近い。

──『鏡の中から、声がする』

──『もう、私いらないって』

──『鏡の私は、もう笑ってない』

静かに日記を閉じた茜の表情は、変わらなかった。 

けれどその瞳は、戦うべき“何か”を確かに捉えていた。


ご覧いただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ