episode7 -手鏡-
初めまして「あるき」と申します。
初投稿になります。
小説書くのは初めてですが、夢に見た物語が面白そうだったので書いてみました。
誤字脱字どころか日本語がおかしいところあると思いますが、ご容赦ください。
健一はひとり、懐中電灯を掲げてリビングへと足を踏み入れた。
部屋の中は湿気とカビのにおいが立ち込め、床のフローリングには黒ずみが浮かび上がっている。
ソファはすっかりカビの温床と化し、壁紙にはところどころ青緑色のコケのようなものまで生えていた。
「うわ……こっちはこっちで終わってんな」
ぼやきながら、壁の棚を開けたり、床下収納を覗いたりしていく。
だが、妖異に関する決定的な情報は見つからない。
「……くそっ、なにもないか…」
思わず拳で壁を小突く。
──バキィッ!!
「……は?」
鈍い破裂音。
直後、壁の下部からバシャァァッと水が噴き出した。
「ちょ、待て待て待て待て!!!?」
水が勢いよく床を走り、健一の足元を一瞬でびしょ濡れにする。
床の隙間からは、ひび割れた古い配管が露出していた。
「ぅわ、冷っっっっっ……!」
ずぶ濡れになったコートをつまみながら、健一は顔をしかめる。
「……初回でこれか…ツイてない……」
びちゃびちゃの靴を引きずりながら、健一は渋々廊下へと戻っていった。
「じゃあ、私は書斎を調べるね。茜ちゃんは寝室をお願い」
そう言って優里が廊下を進む。茜は無言で頷き、反対側の部屋へと向かった。
二人の足音が別々の扉に吸い込まれていく。
優里が入ったのは、重厚な扉の奥にある書斎だった。
戦後建築とはいえ、どこか大正ロマンの残る、和と洋の混ざった空間。壁際に設置された大きな書棚には、宗教や民間伝承、悪魔学に関する書物がぎっしりと詰まっていた。
「……お父さん、何を調べてたのかな」
手に取った一冊の手帳。表紙には何のタイトルも書かれていない。
中には日付ごとに丁寧に記された観察記録が並んでいた。
──『病気だった娘が少しずつ元気になってきた。』
──『快気祝いに隣町で買った手鏡をプレゼントした、元気になったらたくさんおしゃれすると意気込んでいる。娘はとても嬉しそうにしていた。』
──『また娘が体調を崩した、だが娘の様子がおかしい。鏡に向かって話すようになった』
──『目つきが違う。ときおり、何かを見ているようだ』
──『鏡の中の“何か”が、娘に取り憑いている。私はそう確信している』
ページを繰るごとに、記述は切実さを増していく。
──『娘は日に日に変わっていく。だが、それでも、私に笑いかけてくる』
──『もしかしたら、もう手遅れかもしれない』
──『だがそれでも、あの子を一人にはしない。最後まで、父親でいようと思う』
「気づいていたんだ…必ず…止めるよ。」
優里はそっと手帳を閉じ、息を飲んだ。
*
一方、茜は寝室に入っていた。
窓は厚手のカーテンで閉ざされ、空気はわずかに湿っている。
丁寧に整えられたベッド、その横の小さなドレッサー。
上には埃の積もっていない化粧品やブラシがあり、そこだけが妙に生々しかった。
引き出しの奥に、古びた布に包まれた日記帳を見つける。
ぱら、とページをめくると、少女の文字が現れた。
──『鏡、きれい。私よりきれい』
──『お父さん、最近あまり話してくれない』
──『でも、鏡はずっと見ててくれる。中の私は完璧。私より、私らしい』
──『“あの子”に、なりたい』
──『私の代わりに、あの子がここにいればいいのに』
日記の後半は文字の乱れが激しく、内容も支離滅裂に近い。
──『鏡の中から、声がする』
──『もう、私いらないって』
──『鏡の私は、もう笑ってない』
静かに日記を閉じた茜の表情は、変わらなかった。
けれどその瞳は、戦うべき“何か”を確かに捉えていた。
ご覧いただきありがとうございました!