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1話 次代の契約者

短編版がご好評をいただけたので、連載化してみました!

短編部分も大きく加筆修正したので、そちらも楽しんでいただければ幸いです!

是非ブックマーク登録をよろしくお願いします!

「ふんふふふ~ん♪ シヴァン様、喜んでくださるかな~♪」


 背中まで届く柔らかな桃色の髪を靡かせ、鼻歌を歌いながら歩く美しい少女。

 雲一つない青空の下で優しい太陽の光を浴びながら、その胸に抱えたリボン付きの小包を大事そうに抱え、想い人のことを考えながら先へ進む。

 彼女の名は、ミルファ・ヴェンディア。

 王都のすぐ近くに領土を持つ伯爵家の令嬢であり、お菓子作りを趣味とするごく普通の17歳の少女だ。

 かわいらしく装飾された小包の中身は、彼女の想い人が好物とするお菓子が入っている。

 お菓子作りは甘いもの好きな彼のためにたくさん練習したので、味と見た目にはかなりの自信がある。


「わ、かわいい猫さん! 首輪ついてないけど、野良なのかな?」


 待ち合わせの場所に到着した彼女の眼に入ったのは、路地裏でこちらを訝し気に見つめる一匹の猫だった。

 彼女は動物も大好きなので、是非仲良くなりたいと思って近づいてみるも、猫は警戒心をむき出しにして勢いよく去ってしまった。


「あぁ……ざんねん。お友達が増えると思ったのになぁ……」


 少し悲しそうな顔をしながらも、今回は縁がなかったと諦めることにした。

 ミルファの実家には、彼女が拾ってきた様々な動物が飼われており、彼らの世話をすることが彼女の生きがいの一つでもあった。

 もっとも、彼女はあらゆるところから野良の動物を連れ帰ってくるので、流石に少しは控えろと父に言われているのだが……


「でも楽しみだなぁ~! 今日は3か月ぶりのデートなんだから!」


 ミルファの想い人であるシヴァンは、その立場から多忙でなかなか会う機会を得られない。

 それでも最低1か月に1度は会ってデートをする仲だったのだが、何故かここ最近は頻度が落ち、今回は遂に前回から3ヶ月もの機関が開いてしまった。

 だが、そんな事でミルファの想いが薄れるはずもなく、今日は特別な日だと気合いを入れていつもよりも見た目に気を使い、プレゼントまで用意してきたのだ。

 

「早く会いたいなぁ。楽しみだな~♪」


 そのプレゼントが、ミルファ自身に最悪の結末を(もたら)すことを、彼女はまだ知らなかった。


 ♢♢♢


「次代の守護獣様の契約者の名は――ミルファ・ヴェンディア。私の命が尽きる前に、彼女を守護獣様の下へと召喚願います」


 荘厳なる結界の間。

 狼とも、虎ともとれる巨大な獣の像を前に祈りを捧げる老婆と、それを見守る者たち。

 左右の壁の奥から小さな滝のように流れ出て、この場を囲うように敷かれた水路に落ちる音が、静寂の間に響く。

 老婆はこの神聖なる場所において最も重要な存在である守護獣の使いであり、長きにわたって守護獣の像に祈りを捧げ続けてこの国を守護してきた偉大なる存在だ。


 彼女を前にしては、たとえ国王であろうとその存在を邪険に扱うことは許されない。

 だからこそ、現国王であるヴィシュル3世は、彼女が発した言葉を重く受け止めていた。

 守護獣――それは建国の祖である初代国王が契約を結んだ神獣であり、およそ1000年に渡ってこの国の繁栄を支えた者である。

 守護獣は初代国王の死後、その身を石像と化し、この国を外敵から護る結界を張り続けてきた。

 そのお陰で王国は世界から隔離され、あらゆる外敵の被害を受けることなく今日まで発展し続けた。 

 そして守護獣はこの国に住まう者一人を契約者として指名し、王国に大きな問題が生じた際には契約者を通じてあらゆる知恵を授け、解決に導いた。

 

 だが、当代の契約者である老婆の命の灯火はもう間もなく消えてしまう。

 故に守護獣は、新たな契約者に相応しい人間を探し出し、その名を伝えた。


「ミルファ・ヴェンディアか。世の記憶が正しければ、ヴェンディア伯爵家の娘であったと思うのだが、大臣、どうだ」

「はっ、陛下のお言葉通り、ヴェンディア伯爵家にはミルファという娘がいたはずでございます」

「そうか、それならば話が早い。すぐに彼女をここへ呼ぶとしよう」


 次代の契約者は、ヴェンディア伯爵家の次女――ミルファ・ヴェンディア。

 彼女が召喚するにあたって平民よりも都合の良い貴族令嬢であることは、国王にとって好ましい事実であった。

 これで向こう数十年は安泰だ。この場にいたほぼすべての人間は安堵し、緊張を解いていた。

 ただ一人、顔を引き攣らせ、冷や汗を流す現国王の第一子を除いては、だが。

 

「おお、そうだシヴァンよ」

「は、はいっ!!?」

「確か、お前はミルファ嬢と親しくしておったはずだな。確か月に一度ほどの頻度で逢瀬しているとの噂が余の耳にも届いておるぞ」

「あっ、い、いえ、それほどでもないのですが……」

「本来ならば伯爵家の娘との交際など認めるわけがないのだが、今回に限ってはちょうど良い。お前の口から彼女にこのことを伝えて欲しい。頼めるか」

「うっ、そ、それは……」


 父王の言葉を聞いた王太子――シヴァンの顔が見る見るうちに青ざめていく。

 親しくしていたのであれば、新たな守護獣の使いに選ばれたことを伝えてこの場へと召喚することはさほど難しくはないだろう。

 シヴァンは王族。それも王位継承権第一位の男だ。

 伯爵令嬢であるミルファに命令すれば、彼女が断れるはずもない。


「――どうした。何か不都合がありそうな顔だが」

「い、いえ、そういう訳では……」


 そう。これまで通り親しくしていたのならば、何一つ問題はなかったのだ。

 彼の脳裏に浮かぶのは、膝を落とし、深く絶望したミルファの顔。

 正式な形ではないものの、いずれ婚約者として迎え入れ、結婚し、生涯愛し続けると誓ったはずのミルファを、つい先日、彼は裏切ってしまったのだ。


 その理由は単純にして明快。シヴァンは別のもっと身分が高い女性を好きになってしまったのだ。

 もう既にミルファへの想いは冷め、すっかりその女性に夢中になってしまったシヴァンは、何かと理由を付けて逢瀬の頻度を減らし、ついにはそれすらも面倒になり、つい先日、彼女に対して婚約の予定を破棄すると宣言してしまった。

 しかも同時に秘密裏に付き合っていたミルファの存在は既にバレかけていてこのままでは厄介なことになると考えたシヴァンは、口封じも兼ねて彼女に対してありもしない罪をでっちあげて国外追放を言い渡してしまっていた。


(マズいマズいマズいッ……!! なんでこのタイミングでミルファが選ばれるんだ!? 神は僕を見捨てたのか!?)


 完全なる自己都合。理不尽極まりない宣告をしておきながら、彼はミルファを選んだ守護獣に対して怒りを覚えた。

 だが、今そのようなことを吐き出すわけにはいかず、止まらない汗を流しながらうつむくことしかできなかった。

 しかし、いつまでも沈黙を許してくれるような状況ではない。

 目をそらし続けても、父王から何か喋れという圧が彼にかかり続けていた。


「――承知いたしました。彼女を……ミルファをこの場へと連れてまいります」

「ああ、任せたぞ」


 これは非常にマズいことになった。

 早急にミルファを探し出して和解しなければ。

 破裂しそうな心臓を抑えながら、それを悟られる前に玉座を背に歩き出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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