5話 ニート、測定する
「う、ぅぅ…………」
「お、起きたか」
再び生き返ったエリーズに駆け寄る。
エリーズは本当に大きな成果を出してくれた、これでかなり事は上手くいくだろう。
「わ、私は何を…………?」
「ありゃ、ちょっとまだ記憶が混濁としてるみたいだな」
エリーズはしばらく不思議そうに手をグーパーさせていた。
しかし、次の瞬間、ビクッと身体を震わせると顔がどんどんと青くなっていく。
「そ、そうだ、私は死んで…………」
「お、思い出してきたか、そうだな、死んじゃったな」
俺がそう言うとエリーズは顔を更に青くさせ、時よりえずくような仕草をしていた。
本当に吐きそうではあるが胃の中に何も無いため何も出てきていないのだろう。
ふむ、少し変だな。
死ぬ前はあれほど死への恐怖はなかったと言うのに今になっていきなりここまで恐怖を感じ出すとは。
催眠は前回と同じようにかけてはいたはずだ、だから今回も同じような反応をすると思っていたのだが…………。
これについての原因などを考えて居ると、そのうちにエリーズの顔色は少しずつ元に戻り始め、数分が経つ頃にはエリーズの様子はすっかり元通りとなった。
「申し訳ございません、少し取り乱してしまいました」
「あ、あぁ、別にいいが……どうしたんだ?」
「……分からないのですが、少し、起きたばかりで混乱していたのかもしれません」
「そうか…………」
今のエリーズからは恐怖などの感情も感じられないし、おそらくはこの発言は信用ができるだろう。
ただ、先程の様子は明らかに催眠が正常にかかっている状態ではなかった。
理由については検証が必要だろう、生き返った直後は催眠が効きにくいのか、それとも何度も生き返らせることによって徐々に効きにくくなっていくのか。
後者なら少々厄介だ。
烈火ちゃんを生き返らせるためにもまずはその遺体を回収する必要がある。
遺体はここからかなり離れた場所、具体的に言えば京都にある。
ここは東京なので、インフラも整っていないであろう今そこへ向かうのは少々大変だ。
その為、俺のために動いてくれる人間がある程度必要なのだ。
そこで、この催眠があればほかの感情なしに俺に従ってくれる人間ができ上がるため、この技術はかなり重要になってくる。
だが、生き返らせた人間は何度も生き返らせ続けることを想定しているため、催眠が解けてしまうとなるとかなり厄介なことになる。
人間は数億人居たとはいえその中でも死体が残っているものは少ないだろう。
………これは、1回目にしっかりと見ていなかったことが悔やまれるな。
「好葉様、私の体調はもう万全です。もう一度物資を取りに行く事は出来ますが………」
「いや、さっきかなりの量を取ってきてくれたからな、今回は少し実験がしたい」
「実験ですか?」
エリーズはいかにも予想外だという様子で聞き返してくる。
流石に何度も外に出て殺すわけにもいかない。
生き返らせるのにだって時間はかかるし、非効率的だ。
なので、今急務なのは外に出た時に俺たちの体を蝕むナニカが何なのかを特定することだ。
あれがある限り俺達は外に出ることも儘ならなくなってしまう。
俺はエリーズに向き直る。
「とりあえずもう一度外に出て欲しい、そして、この袋の中に空気を入れてきて欲しい」
そう言って俺はエリーズに1枚の袋を渡した。
空気の中に毒素が混ざっているのだとすれば、こうする事によってその中の成分が分析できる。
そこで原因を見つけることができれば対処法を考えることもできるし、見つからなかった場合逆に物体的なもの以外の要因だということが分かる。
後者だと絞れはするものの完全な特定にまでは至らない為、出来れば前者であって欲しいところだ。
「えっと、それだけでもいいのでしょうか?」
「あぁ、少し体調は悪くなってしまうかもしれないが、我慢してくれ」
「いえ、その位なら全然……」
「そうか、なら頼んだぞ」
もっときつい仕事を覚悟していたのかエリーズはキョトンとしながらも俺の命令には背かずに素直に外に出ていった。
数十秒後、エリーズは額に汗を浮かべながらも先程とは違いある程度普通の様子で戻ってきた。
「も、戻りました……」
「ありがとう、とりあえずその袋の口はしっかり縛ったままにしておいてくれ、今回復魔法をかける」
エリーズに駆け寄り、回復魔法をかける。
自分に対しての回復魔法は長い期間使い続けていた為すぐに使えるが、他人に対しては少し話が変わってくる。
そのため、エリーズの症状を完全に回復させるまでは少し時間がかかってしまった。
「はぁ、はぁ……あ、ありがとうございます」
「あぁ、構わない、実験に必要な事でもあるし……とりあえず、楽にしていてくれ、俺はこの空気を調べてくる」
俺はしっかりと封がされた袋を両手で持ち、作業台の方へと歩く。
このシェルターには、蘇生装置を作るためにバラした機器の一部を流用して作った簡易的な分析装置がある。とはいえ、測定できる成分は限られており、高精度というわけではない。
だが、それでもある程度の有害物質の特定は可能だ。
袋を慎重に開封し、ごく少量の空気をシリンジで吸い取り、分析装置に通す。
ディスプレイが淡く光り、測定が始まった。
待つこと数十秒、小さな電子音と共に、画面にいくつかの数値と警告が浮かび上がる。
「……やっぱり、何か混じってる」
そこには既知の空気に含まれている物質の他に、放射能や恐らく何かの爆発物が出したであろう有毒ガス、そして、癪気が含まれていた。