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4話 ニート、歓喜する


「……それじゃ、頼んだ」

「はい、全力を尽くします」


 エリーズには元々俺が来ていたシャツを動きやすいように切り取ったものを着せている。

 裁縫などはエリーズができるみたいだが、そういった道具はこの場所にはないため、体に沿うように上手く布を結んだりしてなんとか身を隠すようにしている。

 そこに関しては流石というべきかエリーズは慣れたような手つきで着ていた。


 一応外に有毒な塵などが舞っていると仮定し、息ができる程度に厚くした布を顔に巻き、できるだけ息をしないようにしてもらう事にしている。

 また、それをしたとしても体調が悪くなった場合はできる限り急いで物資を取ってきて、余裕を持って帰るように指示をした。


 今回の作戦で一番恐れている事はエリーズが外で死んでしまいここに帰って来れなくなることだ。

 もちろん折角生き返ったエリーズに死んで欲しくないという気持ちもある。


 だが、ぶっちゃけそんなのはどうでもいい!

 俺が気になっているのは材料が無くなってしまうことだ!

 エリーズが帰って来なければこのシェルター内に次の生き返らせる人間の為の材料は一切無くなる。

 アナフィラキシーショックの危険性を考えて外に出ることの出来ない今、そんな事が起こってしまえば状況が著しく悪化するというのは明らかだ。


 そのため、エリーズには絶対に生き残ってもらわなくてはいけない。


「…………あ、そうだ、ちょっと待っててくれ!」


 ある事を思い出し、シェルターの奥にある物置に向かい、あるものを取り出す。


「これは…………触媒兵装(カタリスト・アームズ)ですか?」

「あぁ、昔俺が少し使っていたものだ」


 俺が持ってきたのは1つの靴のような物だ。

 触媒兵装(カタリスト・アームズ)には様々な物があり、全身を覆う形状のものや自分より遥かに大きなもの、武器のような形状のものや今俺が取りだした装備品や装飾品のようなものなど用途に応じてどんな使い方をすることも出来るように作られている。

 

 今回の靴は俺のような頭の回転が遅い人間だとしても使えるレベルの物で、装備するだけで下半身が強化される。

 触媒兵装(カタリスト・アームズ)を俺が使うことなんてまず無かったので頭から抜け落ちていたが、こう言った戦闘以外で使う物ならそこまでの頭の回転は必要が無いし、使えるのだったら使った方が良い。


 俺がそれを手渡すと、エリーズは少し困ったようにする。


「わ、私なんかがこんな物を頂いてもよろしいのでしょうか?」

「あぁ、エリーズには絶対に生きて帰ってきて欲しいからな、生存率が上がるなら何だってするさ」

「……分かりました、ありがとうございます」


 エリーズは嬉しそうに微笑み、靴を履いた。

 触媒兵装(カタリスト・アームズ)は装備者に合わせて大きさを変え、エリーズのその小さな足に完全にフィットした。


「では、行ってきます」


 そう呟き、エリーズは先程の俺と同じように外へと出ていった。


 シェルター内には俺一人となり、やることが無くなった俺は少しでもエネルギー消費を抑える為に先程までエリーズが寝ていたベッドに寝転がる。

 こうなってしまえば俺に出来ることは精々エリーズの無事を祈ることぐらいだ。

 通信機器なども蘇生装置を作るために粗方バラしてしまっているし、連絡を取る手段も無い。

 俺が外に出ることも出来ないし、もう本当にできることは無い。


 にしても、エリーズがあんな美少女だったとは驚きだ。

 まぁ、俺がこんなにも可愛い姿になっているのだからもしかしたらエリーズも多少美化されたりしているのかもしれないけどな。


 それから数分が経つと、シェルターの扉から再び開閉音が鳴り出す。

 俺はそれと同時にエリーズの安否の確認のため扉へと向かった。


「た、ただいま戻りました…………」

「っ、だ、大丈夫か!?」


 俺は思わずエリーズに駆け寄る。

 エリーズの顔は真っ青になっており、時より体は痙攣している、明らかにマズイ状態だ。

 ……先程まで顔に付けていた布が取られている、ということは、息を吸わなかったとしても症状は出てしまったということか。

 それなら今すぐにでも回復魔法を…………!


 慌てて手を伸ばすとエリーズは弱々しく首を横に振った。


「だ、大丈夫です、もう症状も進行してしまっていますし、治すのも大変でしょう。私はもう……死にます。なので好葉様は()()()の準備をお願いします…………!」

「っ!? そ、そんな…………」


 そんな考え狂っている。

 死というものはそんなに簡単なものではない。

 多大な苦痛を伴い、人間なら誰しもが忌避感を感じ、何としてでも避けようとするもののはずだ。

 それをエリーズは……軽軽しいことのように話している。


「そ、それよりもこれを……!」

「これは……」


 エリーズは俺に向かって何か布に包まれたものを手渡してくる。

 その布はどうやらエリーズの顔に巻かれていたものらしく、その中には大量の食料品が詰められていた。

 

「…………エリーズ」

「……は、い……なんで……しょう」


 エリーズの症状は進行し、声も絶え絶えになりながらも俺の声に笑顔で反応する。


 俺は…………()()()()()()()


「ありがとう、実験は大成功だっ!」

「…………?」

「まさか、ここまで効くとは…………」


 俺の発言にエリーズは少し困惑している様だったが、その表情も次第に薄れ、遂には体の痙攣も収まっていく。


 あぁ、最高の気分だ、まさかここまで事が上手く運ぶとは思っていなかった!


 エリーズが何故ここまで軽々しく命を捨てることが出来たのか、それには理由がある。

 それは、俺が催眠をかけたからだ。


 元々催眠というものは相手の精神力が強く、且つ正常であればあるほど掛かりにくいものである。

 なので、相手が寝ている時や精神的に弱っている時にかけると効果が高い。

 だが、今回の俺はどうだろうか。

 言ってしまえば擬似的に誕生の体験をもう一度行っているのだ、その時に強い催眠を細胞や魂に対して行えばどうなるか…………。


 それは、今のこのエリーズを見れば分かるだろう!


 俺の目の前で息絶えているエリーズを抱え、蘇生装置の前に持っていく。


「ありがとう、ありがとうエリーズ! 君は本当に最高だ!」


 エリーズのおかげでこの仮説は完全に立証された。

 そう、蘇生段階でかけた催眠は自分の命をかなぐり捨てることが出来る程度までには強くする事が出来るのだ!


 俺はエリーズに感謝を続けながら、エリーズから不要な布を剥ぎ取り、その身体をこの前食料品にしたように次のエリーズの材料にしていく。


「ありがとう、エリーズ、早く生き返らせてあげるからな!」


 なおも俺の口元には笑みが浮かんでいた。

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