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3話 ニート、実験する

 アナフィラキシーショックはアレルゲンを含むものを摂取することなどにより起こる免疫の過剰反応だ。

 これは一般的に食べ物や花粉、毒物などを摂取することなどにより体内で大量に作られた免疫がその次にそのものを摂取した時に過剰に反応し起こるものだ。


 さて、何故俺がそれを怖がっているかと言うと、もしかしたら外に舞っている塵には何らかの毒素が含まれているのではないかと考えたからだ。

 さっき外に出た時、俺は激しい吐き気や咳などの症状に見舞われた。

 あの時吸い込んだ塵に何らかの毒のようなものが含まれていたとすれば、もう一度外に出た時にその毒を再度吸い込むことによりアナフィラキシーショックが起こる可能性もある。


 回復魔法は基本的に体の回復力を高めることによって怪我や病気を治すのだ。

 故に、それを使った後では普通なら数週間かけて作られる免疫がすぐに作られていてもおかしくない。


 いくら回復魔法が優れていたとしても急速に進む症状に対処しきれるかは分からない。

 俺が死んでしまえば烈火ちゃんを生き返らせる事が出来る人もいなくなってしまう、それだけは避けなければならない。


 だが、どうすればいいのだろうか?


 辺りを見渡して目につくのは床一面に広がる資料や部品、そしてその真ん中に異色の雰囲気を放つ蘇生装置…………。


「そうだ、これだ!」


 俺は先程の残りの食料品を持って蘇生装置の元に向かう。

 俺が外に出ることが出来ないのならば他の者に向かわせればいい、なんとも簡単なことだ。

 ここには俺以外の人間は居ない。

 だが、それを作ることは出来る。


 その術こそが、この俺の努力の結晶である。


 初めに先程持ってきた頭蓋骨を薬品に漬け、DNAを抽出する。

 それと同時に残った食料品を使い、肉体を構成するための材料を作成する。


 それからその工程の待ち時間に他の魔法的なものの準備を行う。

 簡単な魔法とは違い蘇生というのはある程度の準備をこなしてからでなければなかなか出来るものでは無いのだ。


 それらの全てを全て終わらせ、その次にクローンの元となる第一の細胞を作り出す。

 人類の科学の集大成なだけあってこれは滞り無く進む。

 そして、これからは魔法的な力を使用してその動きを高速化させる。


 そこから約1日程かけ、その細胞を増やしそれを人間の形にしていく。

 材料が少し足りていないためか体の大きさは少し……いや、かなり小さくなってしまってはいるが、まぁ、きっと大丈夫だろう。


 一抹の不安を残しつつも俺は残りの作業をこなした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「Toux, toux... O-où suis-je ?」

「いよぉっしっ! 成功だっ!」


 俺は戸惑う少女をよそに勢いよくガッツポーズをとる。

 その様子に少女はさらに困惑した様子を見せる。


 金髪にスっとした輪郭、存在感を放つ大きく丸みを帯びた蒼眼は少なくとも日本人のようには見えない。

 10歳程度……恐らく今の俺と同じくらいの年齢程度の体までは成長してくれているようだ。

 そこまではいいのだが…………少しサイズに問題がある。


 体のバランスは悪くない、ただ1つ…………身長が50cm位しかない。

 その為本当にしっかりと動いてくれるかどうか不安だったが、どうやら大丈夫みたいだ。


「あぁ、混乱してるよな、無理もない、とりあえず状況を説明するから少し落ち着いて…………」

「Ah…………あ、え、えっと、ま、まさか、好葉様?」

「…………んん?」


 あれ、ちょっと待て、今こいつ俺の名前を呼んだか?

 いや、それに、明らかに日本語を使ってるし…………。


「えっと、わ、分かりますか? 私です、()()()()です!」

「エリーズ…………エリーズ? んー、申し訳ないが、分からないな」

「そんな……確かに最後にお会いしてからかなりの時間が経ちましたが、私の見た目はそんなに変わって…………って、え?」


 エリーズと名乗る少女は自分の手を見て非常に驚いた様子だった。

 カメラでその姿を写真に撮って見せると、信じられないという様子で目を丸くしていた。

 

 うぅむ、やはりこの子も幼児化してしまっているのだろうか?

 俺もこんな姿になってしまったし、もしかしたら死んだ時の姿ではなくその人物が幼かった頃の姿にでもなってしまうのだろうか。

 いや、だが俺は生まれた頃から完全に男だったし…………。


「あ、えっと、好葉様?」

「あぁ、ちょっと考え事をしてた、とりあえずどうしてこんな状況になっているのか簡単に説明するよ」

「は、はい……」


 エリーズは不安そうな表情をしながらも一旦俺の話を聞いてくれるようだ。

 それから俺は俺が数十年引きこもって蘇生装置を開発していたこと、そしてそれの実験のために外に出てたまたま瓦礫に埋もれていたエリーズの骨を拾い、それを使って蘇生したことなどを事細かに説明していった。


「やはり、私は死んでいたのですね」

「あぁ、覚えているのか?」

「はい、屋敷が崩れるのと同時に私もそれに押しつぶされてしまい…………思い出すだけでも身震いしてしまいます」

「そうか……」


 これは一つ収穫だな、もしかしたら生き返られるとそれまでの記憶を失ってしまったりするかとも思ったが、かなり鮮明に覚えているようだ。


「それで、エリーズはなんであそこに居たんだ? メイドか何かだったのか?」

「えぇ、一応貴方の幼少期のお世話係を任されていたのですが…………覚えていないですかね?」

「んー? いや、けど俺のお世話係はおばあさんで、こんな…………」


 そこで気がついた。

 俺のお世話をしてくれていた人物は確かフランス人のおばあさんで茶髪で細目の人物であった。

 幼少期の記憶でも金髪の人物などどこにも居なかったのでエリーズの事を見ても誰とも結びついていなかった。

 だが、金髪だとしても歳をとって色素が抜けていけば茶髪にもなるだろうし、蒼眼だったとしても細目の場合は特に印象にも残らないだろう。

 つまり…………


「お前、まさかあのおばあさんなのか!?」

「思い出しましたか、少し寂しかったですよ? あれだけ一緒に居たのにもう忘れられてしまったのかと…………まぁ、かなり見た目も変わってしまったみたいですし、しょうがないでしょうけどね」


 エリーズは少し寂しそうに目を伏せる。

 これは本当に分からなくてもしょうがないだろう、あのおばあさんとこの美少女が同一人物だなんて考えることの出来る人など居ないだろう。

 これはたまげた…………

 

「あぁ…………だけど、俺のことはよく分かったな、俺もなんというか結構可愛らしい感じになってるんだが…………」

「ええ、それは当たり前ですよ、言ってしまえば私が1番長くすごしたのはその姿の時ですから」

「え、いやいや、この姿って完全に女の子だろ? 俺は普通に男だが!?」

「いえ、多少女の子のような顔付きにはなっていますけどそこまで変わりは無いですよ?」

「そんなはずは…………」


 なんと否定するために俺がちょうど今の体くらいの年齢の時のことを思い出すが、その当時といえば自分の容姿に対して関心の薄い時期である、その頃の俺は鏡などでまじまじと自分の容姿を観察したりなどもしていなかったし、自分の容姿がどんなものだったかなどほとんど覚えていない。


「ま、まぁいいさ、そんな事より、さっき説明した通り外に行って物資を取ってきてくれ」

「ふふ、勿論です」


 エリーズはにこやかに笑う。

 その所作は子供と言うには大人びており、その人物がやはりあの時のおばあさんだということを如実に物語っている。


「それじゃ、頼んだぞ」

「あ、けどその前に一つお願いが」

「…………なんだ?」


 まさか、魔法に不備でもあったか?


「えっと…………何か服か何かを頂けますか? 流石に裸のままはちょっと…………」


 ………………忘れてた。

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