異世界の新居
「うーん…」
目が覚めた。
燭台の蝋燭の日は消えている。
木の窓が空いていて、そこから光が差し込んでいるところを見るに朝なのだろう。
それにしても、不思議な夢だった。
まあ、夢じゃないんだろうけど…
創造主とかいう変な奴が色々と勝手に話を進めて行きやがったけど、
結局僕は巻き込まれた被害者じゃないだろうか?
人様の人生めちゃくちゃにしやがって…
あ、でもあいつが僕を生み出した的なこと言って…となると生命の誕生は…?ん?
意味がわからん。
さて、奴の言ってたことが正しければ、僕にもミリアさんみたいな力があるらしいんだけど、肝心の使い方の説明がよく分からなかった。
マナというのがあって、それを使って何とかするらしいけど、イメージ力次第とか言ってたな。
イメージ力、ならなんかイメージすればいいのか?
とりあえず魔法と言えば火が1番オーソドックスだろう。
僕はそう思い火をイメージする。
(火のイメージ…燃えろ…)
僕は念じ、力を込める。
しかし何も起きない。
(おかしい!あの創造主嘘ついたわけじゃないだろうな?)
僕はベットから起き上がり。
記憶の中にある魔法使いのやってそうなポーズを片っ端から試しながら、火をイメージし続けた。
しかし一向に何かが起きる気配はない。
「ファイアー!」
あまりに何も起きないので叫び声を出してしまった。
しまった、ここは人の家なのだ、気をつけなければ。色々と誤解を産んでしまう。
と思ったが時すでに遅し。
ドタドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえた。
そしてガチャリと扉が開く。
「大丈夫ですか!?」
ミリアさんだ。
「あーえっとー…大丈夫です」
「大きな音がしたので…大丈夫ならいいのですが…」
無駄に迷惑を聞けてしまったようで申し訳ない。
「ちょうど良かったです。朝食の用意ができそうなので、降りてきてください」
「分かりました」
僕はそう言って彼女の後ろをついて行く。
予想通りと言うべきか、家の造りは洋風の木造だ。
とは言ってもそこまで広い訳ではなく。見たところ2階に2部屋下に大きめの部屋ひとつと言った感じだ。
僕は階段を降りて食卓の椅子に腰をかける。
しばらくしてミリアさんが湯気の経つ食事を持ってきてくれた。
「今日は普通のスープとパンです、どうぞ」
「ありがとうございます」
ミリアさんも座り二人向かい合って食事を取るのだが、とても気まずい。
それはミリアさんも同じようで、全く会話が始まらなかった。
(やばい、気まずすぎる。何か聞かないと…)
「えっと、ミリアさんは一人でここに住んでいるんですか?」
「はい」
「昨日はベットを、使ってし待ってすみません」
「いえ、あれは私の父のものだったので。私のは別にありますからお気になさらずに」
「その、お父さんと言うのは今どちらに?お世話になったのでご挨拶くらい…」
「父は5年前に冒険者の依頼の途中に龍に襲われて…」
彼女が悲しそうに俯いた。これは多分聞いてはいけないやつだったんだろう。
「すみません、朝からこんな話をさせてしまって」
「いえ、もう前のことですから…」
僕の配慮のない質問のせいでもっと気まずくなった。
なんか明るい話題ないだろうか、と言ってもこの世界のことよく分からないし…
僕が困っていると彼女が話しかけてきた。
「えっと、ヒロマサさんはどちらからいらっしゃった方なのですか?その、元の服装も見たことの無いものでしたし、どこか異国の方でしょうか?」
彼女のといに対して僕は少し困った。
異国…確かに異国なんだろうけど、どうやらこの世界に日本という国は無いらしいし、会ったとしても異世界の日本が僕の知る日本である可能性は低い。
気づいたら草原にいました。というのが本当のことなんだけど、それはなんというか非現実的な話になってしまう。
だが、逆にすぐそこですみたいなことを言ってしまうと、間違いなく。僕はこの家という保護施設を失うことになる。
それは困る。
誤魔化そう。
「遠いところから来ました」
「遠い?フェール公国の方ですか?それともグラマン帝国でしょうか?」
知らん。そんな国名知らない。聞いたことすらないぞ。
「いえ、どちらも違います。遠くです」
「確かにあの衣服は見たことがありませんね、国を教えてくれませんか?」
「それは…」
普通なら日本と答えておしまいなのだが、この世界に日本は無いらしいから困るな…
もしも僕が魔法の絨毯で飛ぶ王子だったら、今頃ランプの住人が助けてくれるんだろうけど
そんな住人いないしな…
僕が口ごもっているとミリアさんがグイグイという効果音と共に迫ってきた。
「教えてください、私異国の文化に興味があるんです!」
先程までの雰囲気と変わり、好奇心旺盛なのは良いのだが、これは困る。
うーん…そうだ滅んだことにしよう。
「僕の国はもうありません。ニホンという国だったのですが、滅んでしまいました」
「え…」
「新天地を求めて一人旅をしていたんですが、道中色々あって一文無し。やっとの思いでここまで来たんです。笑えますね…」
「…」
僕が少し悲しめに言ったせいだろうか。
彼女は黙ってしまった。我ながら素晴らしい程のクオリティの話だ。
もしかしたら小説家になれたかもしれない。
その場しのぎのつもりだったが、このまま話を進めた方が色々と都合がいい気がする。
「すみませんね、なんだかさっきからこんな話ばかりで」
「いえ、私が聞いたのですから…」
「それよりも僕は見ての通り1文無しなので、出来れば仕事が欲しいのですが…何かありませんか」
「仕事ですか…失礼ですがヒロマサさんのギフトはどういったものでしょうか?」
ギフト…?ああ、能力的なやつか。結局使い方分からないかったしな…
「たぶん、あるにはあるんですが、使い方が分からなくて…」
「もしかして、一度も使った事が無いんですか?!」
「はい…」
「なるほど…それならちょうど良かっです。ここは王都なので神殿に行けば鑑定のギフトを持った方がいらっしゃるので、その方に聞いてみましょう」
鑑定…そんな能力もあるのか…
というか、ここ王都だったんだ…てっきり辺境だと思ってたんだけどな。
「分かりました。それと住む場所が…」
「それならここに住むのはどうですか?」
「え?」
「ちょうど部屋も余ってますし、たまたまこうなったのもなにかの縁です。遠慮はいりません」
うーん…話自体はとても嬉しいし助かるんだが、でもどうなんだろう。この歳の男女が二人きりで暮らす。この世界はどうかは分からないけど、前の世界なら中々にアウトな話だ。
しかしながら、これ断っても一文無しがどうやって住む場所見つけるんだ?って話になりかねない。ここはありがく甘えよう。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「はい、じゃあ家事は分担でお願いしますね」
家事…家事…僕、皿洗い位しかできないんですが…
「分かりました。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
こうして、僕は異世界で衣食住を確保したのだが、この先不安しかないのは何故なんだろうか…
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朝食の後家事やら家のルールやら色々と話したのだが、僕はとりあえず皿洗いと掃除だけで良いという事になった。ありがたい。
ミリアさんが色々と教えてくれた。
この世界の成人は15歳。国によって違うらしいが少し若いなと感じる。ちなみにミリアさんは14。僕と同じな訳だが、どう考えても精神年齢に明らかな差がある。
なんでも、幼い頃に母親を無くし、その後父親を亡くし、しばらくは父親の遺産で1人生きてきたというのだから、精神年齢、家事能力に関しては納得ができる。
今は貯金が危なくなってきた為に、駆け出しの冒険者として日々頑張っているのだそうだ。
で、貯金が危ないということは僕も働かないと行けないのだ。
僕をすんなり受け入れてくれた理由だが、それも貯金にあるらしい。駆け出しの冒険者一人では税金やらなんやら色々賄いきれないそうだ。
僕としても、そういう理由がある方が後ろめたさを感じずに暮らせるのでありがたい。
この世界の職業だが、だいたいは生まれた時から決められているようなものらしい。だいたいの人はギフトと相性の良い仕事を選んでその道を極めるのだとか…
似た系統のギフトでも強弱があり、それはある種才能的なものだと思う。
で、驚いたのがミリアさんのギフト。なんと水系の最上級らしい。
使い方は頭の中で感覚的に考えらしいんだけど、その感覚が分からないので僕はまだ使えない。
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そんなわけで僕の仕事を決めるため、ミリアさんと二人神殿へ行くため、家を出たのだが。ヤバい。
石畳の道。少し古びたようなレンガの屋根の家が並んでいる。
家のあるところは街外れだったようで、少し歩くと一気に人が増えた。
「ここが朝市ですね」
行き交う人々と店に客を呼び込もうと躍起になる商人達の声がごちゃごちゃとした、それでも楽しい市場の雰囲気を生み出していた。
立ち並ぶ屋台の商品を見ながらミリアさんについて行くのだが、屋台に並んでいるものがなんというか真新しい物ばかりで、ついついそちらに集中してはぐれてしまいそうになる。
(時間が出来たらゆっくり来よう)
しばらく市場の人混みを歩くとそこをぬけた先は噴水のある広場だった。
「見てください、あそこにあるのが王城ですよ」
家を出てからミリアさんが案内をしてくれているのだが、何も知らない僕を気遣っての事だろう。
ミリアさんが指を指した先を見る。遠目からだがやはり城というのは大きい。
いつだったか僕もああいう城に住んでみたいと思ったことがあった。まあ、固定資産税ヤバそうだけど…
それでそのまま真っ直ぐ行ったところに、神殿はあった。
外見はギリシャの神殿みたいな感じだが、現役で使われているから、外装は綺麗な白色だ。でもギリシャのって実は青色とか、結構カラフルだったと聞いたことがあったような…
まあいいや。
僕達は神殿の中へ入っていった。