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悪魔食いの悪鬼~第二幕(前編)~  作者: 橋本ダイスケ
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少女、情報屋と出会う

読み切りのつもりだったんですが、続きを書けと言われまして……(笑)

めちゃくちゃ必死に考えた続編です。

「のうリーザ……もうえぇじゃろ?」

「ダ…ダメです陣介さん……!」

「わしゃもう我慢の限界じゃ……!!行くぞ……!」

「ダメッ!!まだ……まだ準備が……!」


 夜とは思えない熱を帯びた熱帯夜、目が血走り、息も荒く制止の聞かない様子の男は、ソレに無我夢中でむしゃぶり付いた。


「あっ……!ダメ……!!」


「……ぐえぇぇぇぇ!!不味い!!しかも口の中がしゅわしゅわするぞコレ!?」

「だからまだ準備があるって言ったじゃ無いですか……。ガルダトカゲの肉は焼いてしばらくは臭みが凄いんで香辛料で臭いを取らないと……肉汁も毒なんですから、じっくり焼いて落とさないと食べれないですよ」

「ぐぬぬ……リーザぁ……わしゃもう限界じゃあ……」

「はいはい、あと少しだから待っててくださいね」


 私の名前はリーザ・クライン。先程から干物の様に干からびてる男、九条陣介(くじょうじんすけ)と共に旅をしている。


 私の故郷の街は自警団に支配されており、生き地獄そのものの様な街だったのだが、陣介が街を訪れた事により自警団は壊滅。呪縛から解放された私は、陣介と共に旅をする事を選んだのだ。

 自らの意志で人を殺す事を選んだ私は街には居られないし、何よりも陣介の旅を見届けたい。その気持ちが一番強かったのだ。

 最も、私が見届けたい恩人の男は、今そこで私の忠告を無視して毒を摂取して痺れている情けない男でもあるのだが……。


「いやぁ……待たされた割にはあんまり美味く無いトカゲじゃったの……」

「元より食用じゃないんですよ、ガルダトカゲは……。それよりも、もう動ける陣介さんの方がどうかしてますよ……」

「毒を喰い過ぎたからかの?耐性が付いてるのかも知らんな!はっはっは!」

「いったい今までどんな旅してたんですか、まったく……」


 能天気且つ豪快に笑う陣介だが、彼の過去は凄惨なモノである。彼は共に修行に励んだ兄弟弟子を殺す為にこの旅を行っている。兄弟弟子に殺された婚約者の仇を討つ為に……。

 婚約者の形見である刀は肌身離さず常に持ち歩いており、時折刀を見つめるその眼は、絶望とも悲しみとも取れる、吸い込まれそうな深い闇を帯びている。


「しかし……なかなか人の居そうな街が出てこんのぉ……」

「えぇ、もう何日も歩いているのに、人の気配もありませんね」


 そろそろ野宿での体力の回復は限界に来ている。寝床だけの問題ではない。一息つくと言う行為をしない事には、私は動けなくなってしまうだろう。そうすれば、陣介は容赦なく私を見捨てる。

 ”子守はしない”。私と旅に出る際に陣介はこう言った。これは嘘偽りなく、そのままの意味なのだろう。旅の邪魔となるのであれば、私はその場に置き去りにされる。そうなれば私の今までの旅は何の意味も成さなくなってしまう。

 陣介の旅を見届ける。この鬼の生きる道の結末を見る。それだけが私の今を生きる理由なのだ。早く街を見つけて休まないと……。


「だったら、僕が連れて行ってあげるのに」


 その時だった。どこからともなく声が聞こえた。人の気配なんて全く無かったのにだ。一体どこから?慌てる私とは対照的に、陣介は落ち着いている様子だった。

 いつもの様子で寝転ぶ陣介の隣……何もない空間が突然歪む。何が起こっている?空間が歪む?疲れが溜まり過ぎて幻覚でも視ているのか?

 その歪んだ空間からは腰の辺りまで伸びた艶やかな金髪を靡かせた長身の美女が出てきた。やっぱり夢でも見ているんだろう。現実にこんな事が起こる訳がない。


「まーたお前か。ほっとけといつも言っておろうが」

「つれないなぁ。僕はこんなにも陣介くんが大好きなのに」

「お前とは商売だけの間柄じゃ。それ以上の世話にはならん」

「キミが望むなら、僕は何でもしてあげるのに。そんな頑固なところも好きなんだけどね」


 私の事など最初から存在しないかの様に、一瞥もくれる事無く陣介に纏わりつく長身の女。まるで娼婦の様に陣介にベタベタとひっついては、陣介に無視されている。

 別に私と陣介はそういった仲ではない。それはそれとして、何だか腹立だしい。私はあまりこの女が好きではない。本能がそれを告げている。


「あれ……?キミは?」

「わ、私はリーザ・クライン。陣介さんと共に旅をしている者です」

 私の存在にようやく気付いた女が私に話しかける。


「あはは、そんなに怖い顔しないでよ、お嬢さん。僕がどれだけアプローチしても、陣介くんは見向きもしてくれないんだからさ。陣介くんを取られる心配は無いよ」

「な……!」

「それにしても意外だったね。陣介くんは所謂控えめな体型が好みなのかな?だから僕には振り向いてくれないのかい?」

「ななな……!!」

「勝手に付いて来とるだけじゃ。お前にもリーザにもそっちの方の興味はありゃせん」

「なーーーーー!!!!」


 いや、わかってる。陣介にそんな気は更々無い事は重々承知の上だ。だが、こちらを見ずに真っ向から否定されるのは話が違う。非常に腹立だしい。それに誰が控えめな体型だ。確かにそっちは規格外な大きさをしているが……何なんだこのデリカシーの無い生き物達は。


「怒ると可愛い顔が台無しだよ?紹介が遅れたね。僕の名前はレス。情報屋稼業をしている者さ」

「情報屋……?」

 茶化している部分は無視して、私は疑問をレスと名乗った女にぶつけた。


「そう、情報屋。この世の中だと知りたい事を知ったり、伝えてもらったりする手段が無いだろう?だから僕の様な人間が必要になるのさ。僕は【空間転移】のロストテクノロジーを持っているからね。欲しい情報をクライアントに即座にお届け。僕は報酬を貰って、相手は情報を貰って万々歳……って事さ」

「知りたい情報……?どういう事ですか?」

「そうだね、例えば今から街を襲いに来る野盗の集団が来るぞって街の人達に教えてあげたり」

「野盗に女や資源が多く、襲いやすい街の地図を売ってあげたり、殺しがしたい人に集落の場所を教えてあげたりね」

「な……!?」


 私は絶句した。この女はニコニコとした顔で、悪人に協力していると言ったのだ。


「あなた、何を考えてるんですか!?野盗に協力するだなんて!!」

「何を怒ってるんだい?僕はクライアントが求めた情報を売って対価を貰っている。それだけの事さ」

「でも、そんなこと……!!」

「それに関しちゃレスが正しい」


 今まで黙って寝転んでいた陣介が口を開いた。


「今の世の中はとにかく生きる事が先決の世の中じゃ。レスにとってはそれが生きる方法なんじゃ」

「流石、陣介くんは僕の事をよくわかってくれてるね。そういうところが僕を夢中にさせてくれるのかな」

「離れい、暑苦しい。あと無駄にデカいモンを押し付けるな」


 私は何も言えなかった。今の世の中は奪い奪われの世界だ。レスの仕事が間違っていない事も理屈ではわかっている。だからと言って、力の無い者達が食い散らかされるのを容認するような事はしたくなかった。

 だが、言葉が出ない。私は陣介の覚悟を知っている、その陣介に認められているレスの覚悟も相当なモノなのだろう。それが判らない程、私はバカでは無い。私の正義感など、彼らの覚悟の前ではちっぽけな存在なのだ。


「それじゃあ僕の味方をしてくれた愛しの陣介くんにとっておきの情報をあげるよ」

「対価は払えんぞ。その辺の土でよかったら渡してやるがの」

「あはは、陣介くんは面白いね。僕の味方をしてくれただけで対価は充分さ。もっとも、大した情報じゃないさ。ここから同じ方角に少し進むと、大きな街があるよ」

「なに!?そりゃ本当か!?」

「僕は情報屋だよ?嘘を吐いたら商売出来なくなるじゃないか。空間転移で確認もしてるよ、間違いない」

「ようやく宗影の情報を探す事の出来る場所が来たのぉ……夜明けと共にすぐに出発じゃ!」


 陣介は先程までのだらりとした表情では無く、意気揚々としている。しかし、その表情はどこか暗い……鬼の気を纏っている。


「あ、あの……」

「ん?なんじゃ、リーザ?」

「その……宗影の居場所をレスさんから買えばいいんじゃ……」

「ダメだ」

 私が言い終わるより先に、陣介が会話を塞ぐ。


「奴を殺すのにテメェの足以外は使わねぇ。あいつを追い詰めて追い詰めて、隅まで追い詰めてから殺してやる。だから、あいつの痕跡を辿って追い続けてやるんだ」

「ふふっ、僕も陣介くんの事情は知っているからね。そういう訳だから、僕は陣介くんに宗影くんの情報だけは売らない様にしてるんだ。宗影くんの居場所は僕でも掴んでないしね。それに……」


「それほどの情報の対価なら、僕は陣介くんを殺しても殺しても足りないぐらいだよ」


 恍惚の表情を浮かべて不敵に笑うレスの目を見て、私は戦慄した。この女は狂っているのか?しかし、語るレスの圧は、まるでそれが可能だと言わんばかりの空気を出している。


「おい」

「あはは、物騒な話はしたくないなぁ。それじゃあ、僕はそろそろお暇するよ。僕が必要ならいつでも呼んでよね、愛しの陣介くん」

「必要な時以外は呼ばん。さっさとどこかへ行かんか」


 面倒くさそうに相手をする陣介とは対照的に、名残惜しそうにウィンクをするレス。そのやり取りの後、空間が歪み、レスはその中へと吸い込まれていった。

 なんとも言えない慌ただしさがあったが、次の行先は決まった。私と陣介は準備をし、夜明けを待つ為に仮眠を取った。


 夜明けと共に出発し、街に着いたのは3日後だった。あの女の少しはいったいどういう感覚何だろうか。

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