7話『へい、アレクス、お前の考えるざまぁって何?(ムゥワ視点)』
「へーい、アレクス。今の気分はどうだ?」
「ほんと、いい性格してるな。ムゥワ」
アレクス如きがこの私、チャトギプト王国第一騎士団長ムゥワ様を睨んでいる。
だが、何も出来ない。
何故なら、私の後ろには部下の刃を首筋に当てられたルンの家族がいるからだ。
エーアイの提案だ。素晴らしい。
ルンの顔色は悪い。
それもそうだ。家族の命を私が握っているのだから。
「どうした? ルン。顔色が悪いなあ」
「ムゥワ! 貴様!」
「おっと、勝手に動くなよ? 動いた瞬間に、お前の家族は死ぬ」
悔しそうな表情を浮かべるルン。
「それで、要件はなんだ?」
「決まっているだろう? まずアレクスは私への謝罪だ。私に土下座して謝れ。ルン、お前は、私の隣に来なさい」
「……」
ルンが黙って一歩踏み出す。
ああ、とうとう彼女が私のものに!
まだ納得いっていないような顔をしているが、これから徐々に調教していけばいい。
なのに、ルンは一歩踏み出したまま止まっている。
「どうした?」
「わ、わたしの隣は……!」
ルンは泣きながら叫んだ。
「わたしの隣はアレクスだけだ!!」
「はあ!?」
あの女は馬鹿なのか? あんな無能を選ぶなんて! ありえない!
「お前は俺のものだ!」
「嫌だ! うるさい! ばか! アレクス! わたしはあ!」
「ああ、お前は俺の相棒だ。ずっとな」
アレクスはそう言ってルンの手を握る。
もう、許せない。
「ああああああ! もういい! お前ら! そいつらを殺せ!!」
「やめろ!」
私が部下にそう命令すると、アレクスが叫ぶ。
部下たちは笑って口を開く。
「「へい! アレクスの兄貴!」」
「は?」
今、何と言った? アレクスの兄貴?
誰が?
私が混乱していると、アレクスが前に出る。
「ムゥワ。お前の負けだよ」
「まさか、貴様、私の部下を……。くそ! エーアイめ、使えない……!」
「違うな。エーアイは間違ってない。何もかも間違っていたのはお前だよ」
だが、なら何故ルンは泣いて……。
「で? お前、なんで泣いてたの? 作戦説明したよな?」
「そうなんだけどな! なんか感極まってな! 泣けてきたんだ!」
ルンはそう言って涙を拭うと、アレクスの手を取ったまま思い切り跳躍し私を押さえつける。
目の前にはアレクス。全て、コイツの掌の上だったのか……。
「くそ! くそ! お前さえいなければ!」
「一生そう言ってろ、ばーか」
「私を、どうするつもりだ?」
「そうだな……エーアイ、どうすればいいと思う?」
気付けば後ろにエーアイが立っていて無機質な声で答えてくる。
「ムゥワのこれまでの行動は王国にとって不利益しか起こしていません。即刻首を刎ねるべきかと」
「な……!」
私は絶句する。そんな、嘘だ。
「彼女は何も間違ったことは言ってない。だけど、割り切れないものがこの世界にはある。そういうことを考えるのを放棄した時点で終わってるんだよ、お前……だけど、まあ、殺しはしない」
その言葉に安堵の息を吐く。
よかった。まだ助かる。
だが、その考えはすぐに打ち砕かれる。
「生きて国民の怒りを受け止めろ。王とともに。割り切れない思いをいっぱい受け止めて、少しは人の心を知れ、馬鹿野郎」
アレクスがそう言った瞬間、隣のルンが拳を振り上げ私の腹に叩きつける。
「うげぼおおお!」
「なにやってんの? お前」
「お前が殴ったら痛いだろうからな。アタシが代わりに怒りをぶつけておいた」
「…ぷ。馬鹿だろ、お前」
「ああ!」
笑いあう二人を見ながら私は暗闇へと落ちていく。
へい、エーアイ、アレクス、誰でもいい。私はこれからどうやったら逆転できる?
だれも、応えてはくれなかった。
次回! 8話『へい、アレクス、村って何?』は17時更新予定!
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