2話『へい、アレクス、筋肉女将軍がついてきたって何?』
「いや、お前、なんでいるの?」
「ん? へい、アレクス。お前馬鹿か? お前がいなくなった。追ってきた、それだけだ」
頭が痛い。
俺は、目の前の筋肉女、ルンに頭に直接効果のある毒でも耳から盛られたようだ。
本名、アイロトルーン=ボドバ。みな、ルンと呼んでいる。この女は、王国の第三騎士団の女団長。女であるという馬鹿な理由で王国では第三騎士団長だが、圧倒的に強い。歩く筋肉だ。とんでもなく整った顔をしているし、理屈のぶっ壊れた筋肉がつまりに詰まったすらりとしたスタイルのせいで、俺を追い出したムゥワを含めかなりの人間が勘違いしているが、コイツは馬鹿だ。だから、思考回路は単純明快。そして、聞くだけ無駄だと思い出した。
「まあ大体は予想がついてるからいいか」
「おお! 流石だな」
「……で、後ろのはなんだ?」
「いやあ、わたしが騎士団を辞めると言ったら付いてきた」
ルンの後ろにいるのは、第三騎士団の面々。
ゴリゴリのムキムキ共に紛れて、エルフや獣人もちらほら。
第三騎士団は、ルンを手に入れたいムゥワの企みでとにかく一癖も二癖もある面倒な奴らが集められてたからなあ。統一感のなさがすごい。
ルンはそれなりにある胸を張って自慢げにしている。
その様子に、俺はため息を吐く。
ムゥワが俺を追い出したかった理由の一つ。
ムゥワは、ルンを自分のものにしたがっていた。
だから、常にコイツの頭脳として隣にいた俺が目障りだったんだ。
だけど、コイツがまさかこんなに早くこっちに来ると思ってなかったんだろうなあ。
こいつ馬鹿だから即決なんだよな。考える時間がないから早い。
「そうか、じゃあ、がんばれよ」
「ああ! って、がんばれよって面倒見てくれないのか!?」
「知るか! 勝手にしろ! 俺は、自由を満喫して生きるんだ!」
俺はそう言って、その場を離れようとする。
すると、第三騎士団の男共が慌てて追いかけてきて、肩を掴まれる。
「待ってください! アレクスさん! お願いです!」
「やめろ! 暑苦しい! お前ら全員で来やがったから食料足りねえんだよ! だから、今すぐ帰れ!」
「アレクス! オレ達を見捨てないでくれ! オレ達、なんとか一瞬の隙を突いてルン将軍を五人がかりで押さえつけて、『アレクスを追いかける』を提案してようやく暴れ終えた時には、もう地獄絵図。オレ達にはお前しかいない!」
筋肉共が必死になって懇願してくる。
瞳がウルウル。身体ムキムキ。
可哀そうだ。本気で可哀そうだ。コイツ等あの脳筋女の部下なんだぜ……。
ボロボロで付いてきたのだろう。
涙が出そうだ。
そんな時だった。ズシンズシンと音が。
音の方を見ると、そこには巨大なドラゴン。
「おい……ルン、お前もしかして、俺が苦労して付けた魔物除けと隠蔽の魔導具壊したのか」
俺は無能力者だ。だから、ここに来て直ぐに魔物対策に高級魔導具を設置していたのだが。
砕けた魔導具を申し訳なさそうに筋肉共が持っている。
「ああ! アレクスが見つけられなかったからな! 勘で壊した! まあ、心配するな!」
ルンはそう言って笑いドラゴンに向かって跳ぶと、拳を振り下ろす。
ドゴォン!
轟音を響かせ、地面に穴。そして、思い切り潰れたドラゴンの頭。
嘘みたいだろ、素手で一撃なんだぜ……。
ルンは、そのままこちらを振り返る。
「これからはわたしがいるからな! ほら、ドラゴンの肉だ!」
虫を咥えてきた犬みたいな顔で、ルンは笑っていた。
俺は頭を掻いて口を開く。
「ま、頼りにしてるよ。お前の事は」
「……おう!」
ルンは、俺の言葉に少し照れたように返事をし、俺の隣にやってくる。
少しの間の穏やかな村ライフで感じていた空いてた何かが綺麗にはまった気がして悔しい。でも、まあ、いいか。
筋肉共が泣いてるし。それに。
「きっと、多分馬鹿みたいに楽しくなりそうだ」
そして、俺の静かな村ライフを諦めた。
その頃のチャトギプト王国。
「へい、エーアイ! ルンはどこにいる!?」
「よくわかりません。ルンの情報をお願いします」
「とにかく美人で体つきもいい女だ! 探しておけ! それと、財政は潤い始めているんだが、今度は第三騎士団の分を補えと言われた。どうすればいい」
「訓練に無駄が多いようです。具体的には……」
「ほ、ほう中々厳しいな……なるほど、よし、部下にやらせよう。私は指揮官だからな! ルンめ、まさか……アレクスを追って未開の地に?」
「可能性は低いかと未開の地は強い魔物の巣くう場所。わざわざ行く者は馬鹿だという情報があります」
「そうだよな! お前の言うことを信じよう! 馬鹿じゃないんだ! あんな男の所にいくわけがない!」
次回! 3話『へい、アレクス、最強軍団が村作りって何?』は12時30分更新!
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