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会津遊一 ホラー短編集

本当に友達

作者: 会津遊一
掲載日:2009/09/28

 私は、愛想が良かった。


誰とでも友達になり、誰とでも遊んだ。


何処にでも呼ばれ、何にでも参加した。


 でも、私が死んだ時。


泣いてくれる奴がいるかと聞かれれば、いないと答えるしかない。


八方美人だったので、誰の印象にも残らないらしいのだ。


ようは、空気君って奴。


私は、これも性分だと思って諦めていた。


テキトーな友達と付き合って、テキトーな恋人でも作り、テキトーな人生を送れば良いのだと。


 そんな折。


コンパの二次会で彼を知った。


どうやら大学で同じ研究サークル、だったらしいのだ。


私は君の存在を知らなかったと笑った。


「僕は影が薄いから」


彼はビールを飲みながら、苦笑いしていた。


それが、私達の出会いだった。




 彼とは妙に馬があった。


一緒にいて空気が馴染むというか、苦にならないというか。


表も裏もなく、付き合う事が出来た。


お互いの良い所も悪い所も、尊重した上で一緒にいられた。


同じ講義を受け、住む所もルームシェアをした。


でも、仲が良すぎたのか。


「あんた達、ホモでしょ」


知り合いの女性に、そう馬鹿にされた。


「うげぇ、気持ち悪い事を言うなよ」


と、私達は揃って同じ事を答えていた。




 就職先も、同じにした。


私は、これだけ仲良くなったのだから、もっと一緒にいたかったし。


それは彼も同じだった。


 私達は話し合って、2人で行ける会社を探す事にする。


片方が受かっても、片方が落ちた場合は合格を辞退した。


そして、遂に大手加工会社の入社が決まったのである。


 これで。


今までは友達。


でも、これからは仲間として、同僚として、ライバルとして。


頑張らねばならない。


「ああ、何時までも、そういう関係でいようぜ」


彼は笑っていた。




 ある日。


実験中に、事故が起きた。


近くの実験部屋で、爆破と火災が発生したらしい。


私達にも、地響きのような振動が感じられた。


直ぐに壁の赤いランプが点灯し、足下には白い煙が忍び寄ってきた。


 スピーカーから、爆破により消火活動が停止した、と放送されていた。


それを聞いた私と彼の顔から、サッと血の気が引いた。


実験施設というのは、誘爆が起こらないよう、自動的に通路が遮断されてしまうのだ。


つまり逃げ道が残っていなかった。


消防車が間に合わなければ、死ぬしかない。




「まさか、こんな最後になってしまうとは……」


彼は泣いていた。


私は諦めるな、まだ何か生き残る方法があるだろう、と言った。


「しかし、避難する場所は無い。ここに居れば、やがて煙を吸い込んで死ぬ」


その通りだ。


逃げるしかない。


だが、閉じこめられていて、その道がない。


 そう考えた時、私はハッとした。


さっきのは大きな爆発だった。


もしかしたら、その近くの防火扉は作動していないかもしれない。


その向こう側には、隔離施設がある。


そこに逃げ込めば、あるいは助かるかもしれない。


 だが彼は、私の言葉を馬鹿にする。


「扉は開いているかもしれない。けど、そこに辿り着くまでが火の海じゃないか。下手な希望を考えさせないでくれ」


私は、すまないと謝っておいた。


「……すまないだぁ? 友達だからってお前の残業に付き合ったから、こんな目になったんだろっ! お前の責任だよっ!」


彼は怒り、私に掴みかかってきたのだ。


赤い顔をして、首を締め付けてきた、


 私は止めろと言って、彼をドンっと押しのけた。


すると、そのまま彼はヨタヨタと倒れ込み、机に頭をぶつけてしまう。


その後、ぴくりとも、動かなくなった。


ツーっと赤い血が、地面に広がっていく。




それを見て。


私は。


気が動転した、私は。


彼の水分に満ちた肉体を、研究で使う台座に乗せた。


震える手で写真を撮影し、PCにデータを投影させた。


そして涙を流し、マウスでスタートボタンをクリックした。


すると台座の上の箱が動き、白いレーザー光線が放たれた。


石や鉄を細工する光線なので、するすると彼の体を分けていく。


 ああ、ここが加工会社で本当に良かった。


やがて、白桃の皮がむけるように、ずるりと彼の皮膚が落ちた。


悲しみに暮れた私は、その皮を着込んだ。


濡れたレインコートのように、肌に吸い付くので着にくかった。


最後に、切断した彼の腕を絞り、私は全身を血で湿らせておいた。




 私は覚悟を決め、部屋から飛び出した。


通路は既に、大きな火で包まれていた。


少しビビッたが、私は火の海に飛び込んだ。


この火の壁の向こう側にきっとあると信じ、出口に向かって走り続けた。

 

 じりじりと彼の皮が焼かれ、彼の血が乾燥していく。


縮んだ彼の皮膚で、中にいる私の体が締め付けられていく。


だが、私は無事だ。


私の肉体は焼けていない。


 私はありがとう、と呟いた。


残業に付き合ってくれて、ありがとう。


本当に友達でいてくれて、ありがとう、と。

 



  

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