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会津遊一 ホラー短編集

本当に友達

作者: 会津遊一

 私は、愛想が良かった。


誰とでも友達になり、誰とでも遊んだ。


何処にでも呼ばれ、何にでも参加した。


 でも、私が死んだ時。


泣いてくれる奴がいるかと聞かれれば、いないと答えるしかない。


八方美人だったので、誰の印象にも残らないらしいのだ。


ようは、空気君って奴。


私は、これも性分だと思って諦めていた。


テキトーな友達と付き合って、テキトーな恋人でも作り、テキトーな人生を送れば良いのだと。


 そんな折。


コンパの二次会で彼を知った。


どうやら大学で同じ研究サークル、だったらしいのだ。


私は君の存在を知らなかったと笑った。


「僕は影が薄いから」


彼はビールを飲みながら、苦笑いしていた。


それが、私達の出会いだった。




 彼とは妙に馬があった。


一緒にいて空気が馴染むというか、苦にならないというか。


表も裏もなく、付き合う事が出来た。


お互いの良い所も悪い所も、尊重した上で一緒にいられた。


同じ講義を受け、住む所もルームシェアをした。


でも、仲が良すぎたのか。


「あんた達、ホモでしょ」


知り合いの女性に、そう馬鹿にされた。


「うげぇ、気持ち悪い事を言うなよ」


と、私達は揃って同じ事を答えていた。




 就職先も、同じにした。


私は、これだけ仲良くなったのだから、もっと一緒にいたかったし。


それは彼も同じだった。


 私達は話し合って、2人で行ける会社を探す事にする。


片方が受かっても、片方が落ちた場合は合格を辞退した。


そして、遂に大手加工会社の入社が決まったのである。


 これで。


今までは友達。


でも、これからは仲間として、同僚として、ライバルとして。


頑張らねばならない。


「ああ、何時までも、そういう関係でいようぜ」


彼は笑っていた。




 ある日。


実験中に、事故が起きた。


近くの実験部屋で、爆破と火災が発生したらしい。


私達にも、地響きのような振動が感じられた。


直ぐに壁の赤いランプが点灯し、足下には白い煙が忍び寄ってきた。


 スピーカーから、爆破により消火活動が停止した、と放送されていた。


それを聞いた私と彼の顔から、サッと血の気が引いた。


実験施設というのは、誘爆が起こらないよう、自動的に通路が遮断されてしまうのだ。


つまり逃げ道が残っていなかった。


消防車が間に合わなければ、死ぬしかない。




「まさか、こんな最後になってしまうとは……」


彼は泣いていた。


私は諦めるな、まだ何か生き残る方法があるだろう、と言った。


「しかし、避難する場所は無い。ここに居れば、やがて煙を吸い込んで死ぬ」


その通りだ。


逃げるしかない。


だが、閉じこめられていて、その道がない。


 そう考えた時、私はハッとした。


さっきのは大きな爆発だった。


もしかしたら、その近くの防火扉は作動していないかもしれない。


その向こう側には、隔離施設がある。


そこに逃げ込めば、あるいは助かるかもしれない。


 だが彼は、私の言葉を馬鹿にする。


「扉は開いているかもしれない。けど、そこに辿り着くまでが火の海じゃないか。下手な希望を考えさせないでくれ」


私は、すまないと謝っておいた。


「……すまないだぁ? 友達だからってお前の残業に付き合ったから、こんな目になったんだろっ! お前の責任だよっ!」


彼は怒り、私に掴みかかってきたのだ。


赤い顔をして、首を締め付けてきた、


 私は止めろと言って、彼をドンっと押しのけた。


すると、そのまま彼はヨタヨタと倒れ込み、机に頭をぶつけてしまう。


その後、ぴくりとも、動かなくなった。


ツーっと赤い血が、地面に広がっていく。




それを見て。


私は。


気が動転した、私は。


彼の水分に満ちた肉体を、研究で使う台座に乗せた。


震える手で写真を撮影し、PCにデータを投影させた。


そして涙を流し、マウスでスタートボタンをクリックした。


すると台座の上の箱が動き、白いレーザー光線が放たれた。


石や鉄を細工する光線なので、するすると彼の体を分けていく。


 ああ、ここが加工会社で本当に良かった。


やがて、白桃の皮がむけるように、ずるりと彼の皮膚が落ちた。


悲しみに暮れた私は、その皮を着込んだ。


濡れたレインコートのように、肌に吸い付くので着にくかった。


最後に、切断した彼の腕を絞り、私は全身を血で湿らせておいた。




 私は覚悟を決め、部屋から飛び出した。


通路は既に、大きな火で包まれていた。


少しビビッたが、私は火の海に飛び込んだ。


この火の壁の向こう側にきっとあると信じ、出口に向かって走り続けた。

 

 じりじりと彼の皮が焼かれ、彼の血が乾燥していく。


縮んだ彼の皮膚で、中にいる私の体が締め付けられていく。


だが、私は無事だ。


私の肉体は焼けていない。


 私はありがとう、と呟いた。


残業に付き合ってくれて、ありがとう。


本当に友達でいてくれて、ありがとう、と。

 



  

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