第16話 地下坑道は網の目のように
【登場人物】
アーク=クリュー……十五歳。勇者。
マール=ララルゥ……十二歳。魔法使い。
ジェラルド=ウォーロック……古代シュテルネハオフェン王国出身の賢者。
「帰れない? 爺さん、家を追い出されでもしたのかい?」
「いやいや、わしは元々流浪の身じゃよ。戦でシュテルネハオフェン王国が滅びたとき、家族も失ったでな。それからは、各地を転々とし、適当な場所を見つけては魔法の実験と研究に勤しむ日々を送っておった」
「お爺ちゃん……」
マールが思わず涙ぐむ。
ウォーロックがそんなマールを見て慌てる。
「おぉ、おぉ、嬢ちゃんが泣くことじゃないわい。随分と昔のことじゃしの。優しいのぉ、嬢ちゃんは」
ウォーロックは、自身に寄り掛かるマールの小さい頭を優しく撫でた。
そうして見ると、本物の祖父と孫のようだ。
アークがウォーロックに珈琲を差し出した。
ウォーロックは、マグカップを両手で包み込むように持った。
「まぁ、じゃから、どこに住むも自由なんじゃがな。この廃坑道は先日、ちょうど思い付いた魔法実験をしたくて飛び込んだんじゃが、ふむ、ここに住み付くのもアリじゃの」
「ダメだよお爺ちゃん、ここにはスケルトンがうじゃうじゃいるよ」
「スケルトン? いやいやアイツらは……」
「勇者さま! ヤバい、三体、こっちに近付いてくるよ!」
マールの仕掛けた魔法探知に引っ掛かったのか、マールが叫びながら立ち上がる。
アークは立ち上がって刀を抜いた。
「マール、空気の流れ、確認しといたか?」
マールは少し先に置いてあるトロッコを指差す。
「あっちの通路が外まで続いているって、風の精霊が言ってる。大回りになるけど、そこからなら脱出できそう。それと……」
マールが何かを言いかけるも、アークは気付かず、マールに指示を出した。
「マール。爺さんを連れて、先にトロッコに乗り込んでおいてくれ」
アークがウォーロックを見る。
「爺さん、オレたちが絶対守るから、心配しないで付いてきてくれ」
「ぼ、坊主、あれは……」
「行け!」
ガッシャガッシャ、スケルトンが近付く音がする。
「お爺ちゃん、勇者さまを信じて、行こ!」
マールはアークのリュックを抱えると、ウォーロックの手を引っ張って、目当てのトロッコに向かった。
アークは二人の後ろ姿を確認すると、スケルトンが近付いてくる方を振り返った。
呼吸を整えながら、流れるように型を作る。
坑道を抜けたスケルトンが三体、広場に現れた。
「龍牙十字斬!」
アークはダッシュで先頭のスケルトンに近づくと、スケルトンが反応する暇も与えず、左右から斬り付けた。
先頭のスケルトンが一瞬で身体を砕かれ、崩れ落ちた。
アークは一体目への攻撃結果を見もせず、横っ飛びで二体目のスケルトンの背後に回ると腰を沈めた。
そこから独楽のように弧を描きつつ、二度、三度とスケルトンに斬り付けた。
「龍牙弧円斬・横!」
二体目のスケルトンが上半身と下半身に分断され、バラバラに砕け散った。
三体目が振り返ったとき、アークは既に三体目の上空にいた。
「龍牙弧円斬・縦!」
アークはジャンプした勢いを使い、空中で猛烈な前回転をしつつ、高空から刀をスケルトンに叩き付けた。
三体目のスケルトンが、衝撃で頭から足先まで一直線に砕かれ、倒れた。
感触で三体撃破を確認できたのか、アークは刀を鞘に収めながら一気にトロッコまで走った。
マールとウォーロックが既に乗り込んでいる。
アークはトロッコに飛び乗ると、一気にレバーを倒した。
トロッコはゆっくり走り出し、別の坑道へと進んでいった。
速度の乗ったトロッコは、地下の大渓谷の上に掛かったレールの上を、猛スピードで走っていた。
上空高く、マールの召喚した光の精霊が浮かんでいる為、周囲が丸見えだ。
三人とも高所恐怖症の気は無いので助かったが、そうでなければ、恐怖に泣き叫んでいるところだ。
左右にガタガタ振られながらも、ギリギリ、レールを外れることなく進んでいく。
アークは、ふと、いつの間にか並走するレールがあることに気付いた。
別の道を通って合流するレールがあるようだ。
「……何の音だ?」
アークたちの乗るトロッコの揺れる音と、風を切る音とで分かりづらいが、確かに何かが接近してくる。
アークは目を凝らした。
見る見る内に、新たなトロッコが近付いてきた。
あっという間に隣のレールを別のトロッコが並走する。
「な、なんで……」
アークが絶句する。
「来ちゃいましたーー!」
隣のトロッコに乗る人物が、泣きながら叫んでいる。
途中、頭に被っていたはずのウィンプルが吹っ飛んだのか、煌めく見事な金髪が風に吹かれて、激しく揺れている。
「リリーナ……」
「勇者さま! 前方、レールが途切れてる!!」
「何だって!」
アークはマールの声に、慌てて前方を見た。
遥か先で、何かのアクシデントによるものか、地面に大穴が開いてレールが途切れているのが見えた。
このままでは、アークたちの乗っているトロッコも、リリーナの乗っているトロッコも脱線して大怪我をする。
アークは前方と横とを交互に見た。
一瞬の判断で、アークはリリーナの乗ったトロッコに向かって跳んだ。
五メートルの距離を物ともせず、リリーナのトロッコに飛び込んだアークは、すかさずレバーを掴んだ。
「ごめん……なさい」
リリーナが泣きながら、背中からギュっとアークに抱きついた。
二人の周囲を暴風が吹き抜ける。
「それは後だ。マール! 爺さん! 死にたくなければ、思いっきりレバーを引け!!」
叫びながら、アークは腰を落とし、思いっきりレバーを引いた。
アークとリリーナに前向きの凄まじいGが掛かるも、足を踏ん張って耐える。
「風の精霊シルフよ、数多集いて、壁となれ!」
隣のトロッコからマールの呪文が聞こえたが、アークもトロッコを止めるのに必死で、そちらを構っている余裕は無い。
と、空気のクッションで、グンっと速度が落ちた。
マールの呪文が効いているのだろう。
前方に大穴が迫る。
「聖アンナリーアよ、光のご加護で、我らを守り給え! 聖なる護り!」
アークの真後ろからリリーナの声が聞こえた。
リリーナがアークにしがみつきながら、呪文を詠唱したのだ。
次の瞬間、強い衝撃と共に、アーク、リリーナ、マール、ウォーロックの四人は空を飛んだ。
間に合わず、トロッコから宙に放り出されたのだ。
だが。
一際眩しい光に包まれた四人は、神の奇跡によって、傷一つ負うことなく、ゆっくり地面に降り立った。
「お前さんたち、本当に息、ぴったりじゃの」
ウォーロックが笑って言った。
他の三人も、その声を聞いて緊張の糸が解れたのか、一斉に笑った。
ひとしきり笑って正気に戻ったのか、リリーナがアークに抱きついた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
リリーナがアークの胸で激しく泣きじゃくる。
マールもアークとリリーナに抱きついて、わんわん泣き出した。
アークは苦笑いしながら、リリーナとマールの背中をポンポン叩いた。
そんな三人を、ウォーロックは、眩しそうに見ていた。
はい、トロッコアクションでした!
風を感じてもらえたらと。
そして、リリーナとの合流。
やっぱ、こうじゃないと。
って、あれれ?
メインヒロインがマールからリリーナに変わっちゃってるぞ?
……ま、いっかw。
ということで、次回も乞うご期待♪




