第4話
何とか更新出来て他の小説も書き溜めが増えてきたので、そろそろ逃亡×恋愛の方も更新出来そうです。因みに筆者は止めどなくやってくる小テストに追われています。
それでは、本文どうぞ!
降り出した雨の中、蒼梧は愁と共に東京市内部を慎重に、しかし出来るだけ早く進んでいた。東京市に入ってから、既に15分が経過している。目指すべき場所──東京市セントラルタワーの地下室へは、自分たちが今いる《関東広域放送本部》からまだ距離がある。このままのペースで行けば25分程か。
「そういえば愁さん、千夜さんと奏多の間で一悶着あったんだって?」
関東広域放送の建物を見、東京市に向かっている最中に周りから聞いたことをふと思い出して尋ねてみる。愁は腕を組みながら、首を縦に振った。
「あぁ、どうも千夜のやつが今回のことを取材しようとしたらしい。で、それを奏多が必死に止めてくれたのさ。今頃は2人とも、家でのんびりしてるだろうよ」
「おっ、さすが我が自慢の弟だ!それにしても、千夜さんって結構強引な人だな……」
ため息をつきながら振り返った蒼梧の目に入ったのは――東京市の作業車に牽引されている、自分たちの乗ってきたトラックだった。
「──愁さん、あれ……」
蒼梧が呟くと、愁も事の深刻さを重く受け止めているようだった。
「あぁ、分かってる──蒼梧、俺とお前でトラックを取り戻すぞ。他の奴らは先に行ってくれ!」
周りにいた屈強な他の男達に叫ぶ愁の言葉に、蒼梧は不安を覚えた。
「俺と愁さんだけで?2人であの数は捌ききれないと思うけど」
「別に全部取り返せとは言わん、だが俺たちが全員逃げ帰れるだけで十分さ。……お前は最後尾の1台を頼んだ。俺はその前2台を取ってくる」
「1人で、2台も──?」
だが愁の目は、それが可能であることを物語っていた。
「──うん、分かったよ愁さん。俺が先に行けばいいんだね?」
「いや、俺とお前で後ろの1台に取り付くんだ。俺が切り離すから、お前は切り離した一台を運転して、元の位置まで運んでおいてくれ」
「……分かった、やってみるよ」
蒼梧が不安まじりに答えると、愁は彼の頭に自分の腕をのせ、わしゃわしゃと少し不器用に撫でた。
「大丈夫だ、お前は他の奴らより頭がいいからな。なに、俺だってついてるし、あのトラックは俺たちが改造して普通の自動車と同じように扱えるようにしてある。お前が気に病むことはないさ」
そんなことを言われ、思わず顔が綻んでしまう。が、今は大事な時だ。これに失敗すれば、蒼梧達が帰れなくなるだけではない。今後一切、奏多たちに十分な食糧を持って帰ることが出来くなってしまう。
ちらりと横を見ると、愁も同じようなことを思ったのだろう、彼の顔はつい先ほどの真剣な表情に戻っていた。
「それじゃ、3つ数えたら行くぞ。1、2……」
刹那、最後尾のトラックを見た蒼梧の頭に、何かが流れ込んできた。誰かが、いる。あれは――俺の知っている人……?
「……3!」
その言葉と共に、愁が飛び出した。蒼梧も思考を中断し、彼の背について行く。数分程で2人は最後尾のトラックに取り付くことが出来た。
「よし、荷台から入って座席の方に飛び移る。ゆっくり開くぞ……」
開けた扉の向こう側、すなわち薄暗いトラックの内部が、少しずつその中を露わにしていった。
「──あわわ……これ、マズくないっスか?」
「落ち着いて千夜さん、きっとどこかで脱出できるから」
──どうして、こんなことに。僕は宙を仰いだが、目に入ったのは薄暗い蛍光灯で照らされた、トラックの屋根だけだった。
10分前。
突然外から「うっ!?なんだお前ら──」という声が聞こえ、僕と千夜さんは話を止めて耳を澄ました。直後、銃声が響き、ドサリと何かが崩れ落ちる音。先ほど声を出していた男性が銃で撃たれ、その場で崩れ落ちてしまったようだ。
「何スか、今の……?」
千夜さんが不安そうな声を漏らす。その脇で、僕は頭を高速回転させた。
先程の声には聞き覚えがある。先日、真珠の所有者が誰かという争いがあったが、その際最初に真珠を見つけた人だ。冥福を祈ると同時に、僕の心の中が恐怖で満たされていく。
もし先程聞いた声の主が僕の予想通りであれば、彼を撃ったのはスラム街ではなく、東京市側の人間だということになる。そして蒼梧兄さんや愁さんが戻ってくる前に、奴らがここに来たということは──
「……っ!まさか……!?」
思わず声を漏らすと同時に、突然地面が揺れた。
「地震!?……いや、トラックが動いてるっス!」
やはり、僕たちの唯一の移動手段を封じてきたか──トラックは自らではなく、何かに引っ張られるようにして動かされているようだ。そのままトラックは僕と千夜さんを乗せたまま、ゆっくりと動きだした。
そして、今に至る。現状僕達は、脱出手段が封じられており何もすることが出来なかった。
「うぅー……」
「そんな声出しても何も起きないですよ、千夜さん。何とかここから脱出する手立てを考えないと、このままじゃ僕たち──」
千夜さんにやる気を出させようとした僕の話が終わる前に、トラックの奥から突然物音がした。
「──!?」
揺れるトラックの中で、千夜さんが反応する。荷台の扉の方を見た千夜さんにつられて僕も顔をそちらに向けると、扉が少しだけ空いていた。そこから少しづつ、しかし確実に外の景色が広がっていく。
「あわわわ……きっとここで自分たち捕まっちゃうっス!これは本格的にヤバいっス!」
「駄目ですよ千夜さん。……あっ、誰かが入ってくる!?」
思わず抱き合って扉の方を凝視する僕たちに、それは少しづつ近づいてくる。やがて、僕たちの数歩手前で止まった影の正体は──蒼梧兄さんと愁さんだった。
「か、奏多!?」
「兄さん、それに愁さんも!!どうしてここに?」
見慣れた顔を見かけて安堵していると、愁さんが1歩進み出た。
「それを聞きたいのはこっちの方だ──と言いたいところだが、大体予想はついている。さしずめ千夜が駄々をこねて奏多ともみ合ってるうちに、トラックの扉が閉まって出られなくなったんだろ」
「うっ……」
千夜さんががくっと膝をつく。
「でっでもぉ、特ダネがあると飛びつかずにはいられないのがレポーターとしての性で……」
何番煎じかも分からない言い訳を千夜さんがしている脇で、兄さんが何やらぶつぶつ言っていた。
「おおおお女の人と、みみ密室で……」
「……兄さん?」
兄さんの目の前で手をかざして振ってみる。反応はない。
「に、兄さ~ん……」
なおも何やらぶつぶつ呟いている兄さんの肩をがくがく揺らしていると、隣で愁さんがため息をついた。
「蒼梧はほっとけ。まったく、こんな状況でも本当にブレない奴だな……さて奏多、俺達は別にお前たちを責めたりはしない。俺達からしてもお前たちからしても、これは不慮の出来事だからな──だが、ここに来たなら仕事はこなしてもらうぞ」
「仕事、っスか?」
「あぁ。……っていっても、お前たちが実際に動くわけじゃない。俺と蒼梧が前の方で作業してる間、お前たちはトラックの後ろで見張りを頼みたい。誰かが近づいてきたら、俺達に教えてくれ」
千夜さんは心配そうだったが、僕はすぐに首を縦に振った。
「分かりました、見張りですね!」
「……ほ、ホントにやるんスか?」
「当たり前でしょ千夜さん、これぐらいはしないと罪滅ぼしにならないですよ」
そんなやり取りを交わしていると、僕の後ろから苦笑交じりに愁さんの声がした。
「これじゃあ、まるで奏多の方がお兄さんみたいだな──じゃ、後ろは頼んだぜ」
後ろに向けて親指を立て、後ろに行って見張りをしようと一歩踏み出した、と同時に。
突然、轟音がした。
「何!?愁さん、これは!?」
愁さんが僕の質問に答える前に、トラックの後ろの扉が閉められた。
「あわわわ……もう出られないっスか?」
「いや、大丈夫だ。このトラックは、荷台と運転席が繋がっている。そこから脱出は可能だ。だが──」
愁さんが言い終わる前に、トラックは加速を始めた。
「わわっ!?動いたっス!」
「遅かったか……確かに荷台と運転席が繋がってはいるが、向こう側に誰かいるようじゃ下手に脱出は出来なさそうだな」
「てことは、僕たちこのままどこかへ連れ去られる!?」
僕の言葉に、愁さんが頷く。
「──ことによると、さらに深刻かもしれない」
「ど、どういうこと……っスか?」
恐る恐る千夜さんが尋ねる。
「この流れだと、どこかに連れ去られた後に尋問される、というのが定石だ。しかし、あそこにはアイツが……」
何やら一人で考え事を始めた愁さんをそっとしておいて、僕と千夜さんはずっと置いてけぼりをくらわされていた兄さんのもとへと向かった。どうやら、兄さんは女性が視界にいない限りは平気のようだ。
「……兄さん、さっきの話分かった?」
「あ、あぁ。愁さんの言っていた"アイツ"が誰なのかまでは分からないけど」
すると、僕の後ろから千夜さんがひょこっと顔を出した。
「んー、愁さんがあそこまで考えこんでるってことっスから、きっとその人はかなり愁さんに近い人だと思うっス。例えば、愁さんの家族の中の誰かとか」
「家族の中の誰か、か……兄さん、どう思う?」
しかし、兄さんは千夜さんが視界に入ったことでまた緊張モードに入ってしまったようだ。
「ふぁっ!?えぇぇぇえっと、確か愁さんの家族には……誰だっけ?」
それでも、この状況に随分長いこと晒されているせいか少しはマシになったようだが、その反動からか頭がうまく回転していないようだ。いずれにせよ愁さんが何か言ってくれなければ僕たちは情報0、ということになる。
「愁さん、あいつって──」
なおも考え込んでいる愁さんに声をかけるのは少々気が引けるが、意を決して話しかけた、瞬間だった。
「出ろ」
突然トラックが急停止し、後方扉が開く。次いで、男性のものらしき野太い声が響いた。それに反応したのは愁さんだった。
「フン、まさかお前に捕まるとはな」
愁さんがそう言うと、扉の向こうの男は同じようにフンと鼻を鳴らした。
「感動の再会の余韻に浸ってるわけにはいかない。さぁ、来てもらおうか」
そういわれるが、簡単に捕まるわけにはいかない。
「嫌だ!僕はここに残る」
「じ、自分もっス!」
だが、それを制したのは男ではなく愁さんだった。
「よせ、奏多、千夜。俺達に与えられた選択肢は1つしかない」
「けど……っ!」
そんなやり取りを黙って見ていた男が、荷台の中に入って来た。彼はスーツに身を包み、手にはスーツケースを持っている。が、彼の顔つきやまっすぐな目は、愁さんとどこか似ていた。
「おい、まだか?早くそいつらを説得して大人しく出て来いよ、愁」
「えっ──」
どうして、愁さんの名前を。まさか先程千夜さんが言った通り、本当に愁さんの家族だったのか。それに答えたのは、続く愁さんの言葉だった。
「分かったよ、すぐに行くさ──隆羅兄さん」
今回も読んでいただきありがとうございます。
さて、またまた新キャラ登場です。愁さんの兄である隆羅さんと感動の再会…ということにはならず、ただただ気まずい雰囲気がこのあともう少しだけ流れるかもしれないです。あとはそろそろ伏線回収をしたいところ…
次回も変わらず一週間後に更新予定です!それまでに逃亡恋愛の新章も書けたらいいなぁ、とか思ってます!