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儚き影のレジスタンス  作者: 可惜夜ヒビキ
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第3話

3話目です。先週は1日遅れましたが今回はちゃんと忘れてないので誰か代わりに先週謝ってくれた奏多くんを誉めてください。

「はぁ、はぁ……っ」


――本当に、あなたって人は。

千夜さんが僕のところを離れたことに気がついてから、30分は経っている。先の会話の内容を見るに、彼女の行き先は明らかだ。

しかし、彼女が道を知っているとも思えない。僕が先に"ゲート"に着くことを祈りながら、僕は尚も走り続けた。


スラム街では自給自足に限度がある。そのため外部からの支援で何とか生活を工面しているのだが、その量がとても少ない。

日本各地に乱立するスラム街は、主にJDCと政府からの支援を受け取っている。JDCからの支援は、外国との繋がりもあるおかげでかなり多いが、広大な旧世田谷スラム街全体で共有するにはまだ少ない。そこで日本政府からの支援が鍵となってくるのだが、ここの支援はほぼ0に等しいものだ。勿論これだけでは足りるはずがない。

そこで旧世田谷スラム街に生きる男たちは、葛藤の末にある1つの計画を実行に移した。


今から12年前の10月31日、東京市セントラルタワーに3台のトラックが侵入し、地下の食料庫に保存されていた食べ物の殆どを奪っていった。政府がこれに気づいたのは翌日のことだった。原因が判明すると、政府はすぐに対策本部を設置し、セントラルタワーの夜間警備を厳重にした。しかし、それから何度も東京市はトラックの侵入を許し、何度も食料を奪われている。

この時トラックに乗っていたのが、旧世田谷スラム街の男性何人かだったという。食料を強奪するという法に背いたやり方だが、あの時手を汚さねば彼らが、そして今の僕らが生き延びることは出来なかっただろう。


こうして今も、ここ旧世田谷スラム街は食料の強奪に依存している。それを行うのは18になった男性のみなのだが、今回それに蒼梧が選ばれたのだ。彼にとっては初めての体験なので少し緊張気味だったが、よりにもよってそんな時に千夜さんがこんな事をしでかすなんて――


「――本当に、あなたって人は」


思わず呟きながら走り続けると、ようやくゲートが見えてきた。男たちはここで準備をし、真夜中に出発する。見たところ千夜さんは来ていないようだ。


「奏多!?」


後ろから声がして振り返ると、愁さんが立っていた。


「どうしたんだお前、まだこの仕事には参加できないはずだろ?」

「愁さん、千夜さんがここに来てない?」


息を切らしながらの僕の質問に、彼は少し狼狽えた。


「何だと?お前と一緒じゃなかったのか?」

「うん、目を離してる隙にどっか行っちゃって……きっと昼間に話した事を知りたがってるんだと思う。だから、僕が責任を取って連れ戻す」


少しの沈黙の後、愁さんは笑いながら僕の頭を撫でた。


「っははは!やっぱりお前は良い奴だな!育ててきたかいがあったってもんよ!」

「よ、よしてよ愁さん。僕はただ、この生活を何とか出来ないかって模索してるだけだから」


思わず顔が緩んでしまうが、それもつかの間の事だった。


「愁さん、もういつでも出発できるぜ」


遠くから呼びかけられ、彼は僕の頭から手を離した。


「……どうやら、あいつは来てないみたいだな」

「うん、杞憂で済みそうで良かったよ」

「それじゃ、留守番頼んだぞ。千夜さんをこっぴどく叱っといてな」

「おっけー、任せといて!」


去り際にこちらに手を振ってきた愁さんに手を振り返し、この辺りでもう少し千夜さんを待ってようとトラックの荷台をぼんやり眺めていた僕の視界に――今まさに荷台の中へ潜り込もうとする千夜さんの姿を見つけた。


「――!!」


すかさず荷台に走り、飛び込む。僕の体重が少ないためか、飛び込んだ時の衝撃によるトラックの揺れは少なかった。


「そこにいるんでしょう、千夜さん?」


呼びかけるが返事がない。ここにきてだんまりを使うつもりなのか――なおも声をかけ続けながら、僕は荷台の奥へと歩いていった。


「帰りますよ千夜さん。愁さんが心配してたし、何より僕だって心配なんだから」


その後もしつこく呼び続けると、ようやく声が聞こえた。


「――帰らないっスよ」


彼女の第一声にため息で返事をしてから、言葉を続ける。


「駄目ですよ千夜さん。さっきも言ったけど愁さんが心配してるんです、それに――」


そこで言葉を切り、少し恥ずかしくなりながらも言葉を続ける。


「僕だって心配してるんだ。だからいい加減に――」

「戻らないったら戻らないっス!自分、こんな特ダネ見逃せない主義なんで!」


――僕の恥ずかしさを返せ!!

などと思いながら、僕は声が聞こえた方に飛びつき、千夜さんの腕を掴むと荷台の外まで引っ張っていこうとした。千夜さんも負けじと引っ張り返す。それでも、分があるのは僕の方だった。じり、じり、と少しずつ外へと千夜さんを引っ張っていく。


「うぅぅぅー……!嫌っス!絶対にこのネタを掴んで帰るんス!」


千夜さんが抵抗しながら喚いているが気にせず引っ張り続け、出口まであと数歩というところまで来た。いける、千夜さんを引っ張り出して帰れる――そう思った刹那、突然荷台の外から声がした。


「うっし、そろそろ行くか」

「一応、荷台の中チェックしときません?」

「いいだろ別に、ネズミとかが入っててもその辺の隙間から逃げ出すし」

「それもそうですね、じゃ行きますか!」


思わずびくりと身体を震わせた拍子に力が抜けてしまい、僕は千夜さんに引っ張られて彼女に覆いかぶさるようにして倒れてしまった。薄暗い中でこんな体勢、さらに2人きりという今の状況に思わず赤面すると、彼女が感心するように一言。


「おぉ……奏多くん、意外と大胆っスね」

「よくこの状況でそんな呑気なこと言えますね!そんなこと言ってないで早く――」


僕がそう言いながら一歩踏み出すと、同時に。

荷台のドアが閉められ、鍵ががちゃり、と掛けられる音がした。


「ちょっ、待っ……」


僕がその場で固まると同時に、千夜さんが飛びついてきた。


「へへ、これで奏多くんも共犯っスね」

「閉じ込められたじゃないですか!どうしてくれるんですか」

「まぁまぁいいじゃないっスか奏多くん、きっと君だって外の世界を見たかったんじゃないっスか?」


そう言われて思わず黙り込む。確かに、今までスラムの外に出たことがない僕にとって、東京市の中はとても気になっていた。何しろ、自分の家から毎晩東京市の夜景が見えているのである――けれど、こんな形で外に出ることになろうとは。これで僕と千夜さんに何かあったら……そんなことを俯いて考えていると、千夜さんが背中を撫でながら話しかけてきた。


「……大丈夫っスよ、奏多くん。もし君に何かあったら、自分が守ってやるっスから」


不意にそんなことを言われドギマギしていると、トラックの前の方でエンジンをかける音がした。直後、小刻みに揺れだしたトラックが少しずつ進み始めた。



「そういえば」


揺れるトラックの荷台の中で、僕は前から気になってたことを聞いてみた。


「千夜さんはどうして、このスラム街にやってきたんですか?」


僕の質問を受けた千夜さんは、何故かドヤ顔で答えた


「決まってるじゃないっスか、自分がスラム街の密着取材役に選ばれただけっスよ」


――怪しい、と感じて彼女の顔をじーっと見つめる。それに耐えかねたのか、彼女は帽子のつばを少し下げ、後退りした。


「……な、何スか」

「いや、それだけじゃないと思うっていうか……スラム街って世間一般じゃ危険な場所だと思われてるし、密着取材にしてはちょっと滞在期間が長すぎるような気もするし」


ぎくっ、と彼女の体が飛び上がったのを僕は見逃さなかった。


「……やっぱり、なにか隠してますね」

「うぅ……」


少しの沈黙の後、彼女は苦笑しながら、降参するように両手を上げた。


「その通りッスよ……奏多くんにはお見通しっスね」


やはり彼女は別の理由があるようだ。僕はさらに一歩、彼女のもとに近付いた。


「話して欲しい。僕もなにか力になれるかもしれないから」


そういうと、彼女は顔を伏せると小声で話し始めた。

 

「……優しいっスね、奏多くんは。自分についてきたせいでこんなことになっちゃったのに――」


そして顔を上げると、少し悲しげに話し始めた。


「――自分、8歳のころに"ハロウィーンの断罪"を経験して、パパと生き別れになったんスよ。それで、レポーターとして各地を飛び回ればいつか会えるかもって思ってるんス」




「唯一の家族だったから、色々と手掛かりを探してるんスけど、なかなか見つからなくて――そういうことっス。自分がここにずっといる理由は、パパがここにいるかもしれない、と思ったからなんスよ」

「千夜さん……」


気が付くと、僕は彼女の手をがっしり握っていた。


「きっと見つかりますよ。上手く言えないけど、千夜さんのお父さんなら大丈夫だと思います。だから元気出して――」


そこで自分のしていることに気が付き、慌てて、手を離した。


「わわっ、すみません急に変なことしちゃって!けど、千夜さんに悲しい顔して欲しくないって言うか、その……」

「奏多くん」


急に名前を呼ばれてびくりと肩を震わせると、彼女はにっこりと笑った。


「やっぱりキミは優しいっス。自分にはまぶしすぎるくらいっスよ」

「……ありがとう、千夜さん」


僕が千夜さんに小さく笑みを返したとき、トラックが減速を始めた。


「お、ついたみたいっスね!とっととこの狭苦しい場所からおさらばして隠れ密着取材スタートっすよ!」


興奮する千夜さんの隣で、ぼそりと呟く。


「そういえば、どうやってここから出ればいいんっスかね……」

「あっ」


薄暗い荷台の中で、僕と千夜さんは顔を見合わせた。

今回も読んでいただきありがとうございます。

実はこの前小説を読んでくれた友人からいくつかアドバイスを頂いたので、それをもとに各話ちょくちょく編集しました!本当に小さいところですがキャラクターの想像がしやすくなったと思うので暇なときに読み返してみてください。


さて、結局のところ奏多くんは千夜さんを止めることが出来ず、おまけに一緒についていってしまいましたが…2人は無事に帰れるのでしょうか?そもそもこの後愁さんは彼らの存在に気づいてくれるんでしょうか?

この辺は直近2話分でまとめようと思っています。次回以降のお話もお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新話まで読了しました! 千夜さん、急にいなくなったと思ったら勝手に荷台にのり込んだり……かなり無茶をしますね(;´・ω・) でも、そのおかげで今までスラム街から出たことのない奏多が、いよ…
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