第2話
第2話です。
物語を始める前にまず皆さんに一言…投稿が1日遅れまして申し訳ございませんでした。
私の中でこの小説は木曜日の深夜に投稿する予定だったのですが本当にすみません。
言い訳させてもらうと昨日手術があったのでそのショック(?)で投稿するのをすっかり忘れてしまいました。重ね重ねすみません。代わりに奏多君がお詫びします。
それでは、本編をどうぞ。
――関東広域放送。その名前は、何度も聞いたことがある。
ライフラインがほぼ止まっている現在のわが国では、放送会社は中心都市近くに建てられた3つしか残っていない。そのうちの一つが関東広域放送、という訳だ。
今回このスラムにやってきた輝葉千夜さんという記者は、どうやらスラム街の現状を泊まりこみで取材に来たらしい。だが――
「――さて奏多くん、今日はどんな料理を作ってくれるッスか?」
――どうして、うちに寝泊まりすることに。
本人曰く「あの少年にビビっときたっス!ぜひ彼の密着取材をさせて頂きたいっスよ!」との事だが、当の本人である僕からすれば中々に迷惑な話だ。
「……千夜さん、少しは料理の手伝いぐらいしてくださいよ」
昼の共同調理場で、僕は蒼梧兄さんだけでなく、千夜さんにも料理を教えることになった。しかし僕がそう言うと、彼女は照れくさそうに頭をかいた。
「いやぁ、自分家事はからっきしで。料理の準備をすると必ず1枚はお皿が割れちゃうんスけど、それでもいいっスか?」
――大人しくさせておいた方が良さそうだ。直感でそう判断した僕は、はぁーっと大きくため息をつくと、ならば兄さんに頼もうと振り返った。
「兄さん、料理の準備を――」
だが、そこに居たのはいつもの飄々とした態度の兄さんではなかった。
「じょ、女性が……おおおお俺の、へへ部屋に……」
何度見たかも分からないこの光景に、また僕は大きくため息をついた。彼女が初めて来た時に知ったのだが、兄さんは女性に対して極度に緊張するようだ。
「もう、いい加減千夜さんに慣れてよ兄さん。もうここで一緒に寝泊まりしてから、もう2週間はたってるよ?もうひとつ屋根の下で寝食を共にする中なのに」
すると、千夜さんがすかさず目をキラキラさせながらメモとペンを手に取る。
「おっ、いいこと聞けたッス!さっきの台詞は、今度書く記事に載せて頂くっスよ!」
そう言いながらメモに僕の言葉を綴った千夜さんがそれらを再び服のポケットにしまうと、空を眺めながら呟く。
「――まぁ、ここで暮らし始めてすぐの時は流石に驚いたッスけどね。何しろ生活のレベルが東京市とここじゃ全然違うし……でも、奏多くんと蒼梧くんのお陰ですぐに慣れたッスよ。ありがとうっス、2人とも」
「千夜さん……」
思わず感傷に浸っている彼女に見とれていると、後ろから何かが焦げる嫌な音がした。
「あーーっ、2人がよく分かんない茶番を繰り広げてるから今日のご飯がぁー!?」
叫びながら慌てて火を消しにかかるが、時すでに遅し。昼ご飯用に作っていたカレーは、鍋底に大きく焦げ跡を残した。未だ慌てふためく兄さんと辛うじて残ったカレーに目を輝かせる千夜さんに、鍋を指差しながら呟く。
「……コレの片付け、2人にやってもらうからね」
任せるとは言ってもあの2人である、勝手にやらせておくと何をしでかすか分からない。そんな訳で僕は、片付けをする兄さんと千夜さんを、声が聞こえるぎりぎりの場所から眺めていた。どうやら今のところは大丈夫なようで、2人の会話が聞こえてきた。
「――そっそれで、ちち千夜さんの夢って、何ですか?」
まだたどたどしく話している兄さんの反応を楽しむかのように歯を出してにかっと笑うと、千夜さんは再び空を見上げ、目を閉じた。
「――もうこのご時世じゃ無理っスけど、自分、世界を飛びまわるカメラマンになりたかったんスよ。色んな風景とか色んな人の表情を、1枚でも多くカメラに収めたいんス」
「へぇ、世界的なカメラマンですか……」
そういえば僕が初めて彼女と会った時も、「思わずシャッターを切った」って言ってたっけ。そんなことを思い出しつつも2人の観察を続ける。
しばしの沈黙。兄さんが気まずい雰囲気を破るために何かを言おうともう一度口を開いた時、千夜さんが再び話し始めた。
「……実は自分、前に1度VOIDにかかってるんスよね。何とか今ピンピンしてるッスけど、あの時はやばかったッス」
「は、はぁ……それは大変でしたね……」
突然始まった彼女の回想に、兄さんも反応に困っているようだ。それは僕も同じで、なぜこんな話を急にしたのかと首をひねっていると、彼女自身がすぐに答えを教えてくれた。
「それで自分、治った後に能力をゲットしたんスよ!」
「……へっ?」
突然の告白に呆然とする兄さんと僕。そんな僕たちを差し置いて――そもそも僕は気づかれてすらいないが――彼女は話を続けた。
「自分、透視が出来るんスよ。あと、カメラを構えた時に障害物の向こう側が撮影できたり」
そこまで聞いて、僕はようやく納得した。初めて彼女と出会った時、彼女は人混みの向こう側から写真を撮り現れたのだ。それじゃあ人混みしか映らないのでは、と思っていたが、さっきの話から彼女は自在に透視するものとしないものを分別できるようだ。僕と愁さんの写真がその時くっきり残っていたのはそのせいだろう。
僕が人知れず感心していると、後ろから声がした。
「おぉ蒼梧、そこにいたのか。愁さんがお前のこと探してたぞ」
げっ、と思い僕が慌てて逃げ出す前に兄さんと、そして千夜さんと目が合った。
「……もしかして今の、全部聞いてたっスか」
「ちっ違います!僕は何故か偶然たまたまそこを通りかかっただけで――」
僕が少し変な日本語で言い訳しようとすると、彼女は大きな笑みをみせた。
「良かったっス!これで奏多くんにも話す手間が省けたッスね」
思わずえっ、と声を上げてしまう。まぁ千夜さんがそれでいいならいいけれど――
「――なんで僕と兄さんが一緒にいる時に話さなかったんですか」
僕がツッコむと、彼女は少し顔を赤らめながら何やらごにょごにょと話していた。
「そっそれは、ほら……一緒にいる時に話す暇がなかったっていうか、1人ずつじゃないとちょっとこういうのは恥ずかしいっていうか――ってそうだ!どうして蒼梧くんは呼ばれてたんっスか?」
突然千夜さんから話題を振られ、その男性はちょっと驚いたような素振りを見せた後に話しだした。
「おぉ、そうだった!蒼梧――アレをやってもらうよ」
そう言いながら、彼は懐に物を詰めるような仕草をした。それを見、僕と兄さんの顔が険しくなる。
「ど、どうしたんスか?一体何が始まるって言うんスか?」
興味津々に千夜さんが聞いてくるが、このことは門外不出だ。たとえこのスラムに来てから2週間がたっている、千夜さんでさえも。
「――これだけは、言えない。僕たちには大事な事だから、外の人間には知られたくないんだ」
それを聞いた千夜さんは一瞬だけ泣きそうな表情を作ってから、
「……っス」
と小さく声を上げて引き下がった。
「それじゃ、兄さん――」
「あぁ、千夜さんと留守番、頼んだぞ」
「任せといて、帰ってくる頃には2人で美味しいもの作って待ってるよ!」
僕の言葉に兄さんは軽く微笑むと、僕の前に握りこぶしを突き出した。
「それじゃ、行ってくる。絶対帰ってくるから心配すんな」
そんな兄さんに、僕は自分の握り拳を兄さんの拳に軽く当てて応えた。
「気を付けて行ってきてね――信じて、待ってるから」
「うぁぁぁーーっ、なんスかアレ、何だったんスか!?」
兄さんが男性と共に歩いていった後、僕は千夜さんと一緒に自分たちの部屋に戻ってきたのだが、先程から彼女はずっと、子供のように駄々をこねている。どうやら今回の密着取材に対し、並々ならぬ情熱を注いでいるようだった。しかし――
「――だから、これだけは教えられないんだって千夜さん。僕たちの生活基盤が表にされたら、各地のスラム街に対する圧迫が酷くなるばかりなんですよ」
「そう言われても見たいっス、知りたいっス!そう思うのがレポーターの性ってやつっスよ!」
「そう言われても、僕ですら知らないことの方が多いんですからね。――とにかく、一緒にご飯作りますよ」
「むぅぅぅぅ……!」
そこから先は、彼女は驚くほど静かだった。僕が調理方法を教えてからは、黙々と僕の横で作業を続けている。今作っているのはカレーライスだ。
「……よし、やっと火がついた。それじゃあ千夜さん、次にじゃがいもの皮を――」
僕の言葉はそこで止まった。隣で黙々と作業を続けていたはずの千夜さんは、いつの間にか姿を消していた。彼女が作業を続ける隣でお湯を沸騰させるために火をつけようと躍起になっていたため、気が付かなかったか。
「千夜さん……?」
嫌な予感が全身をつたい、持っていたじゃがいもが地面に落ちた。10月30日のことだった。
「――っス!作戦大成功っスよ」
必死に笑いを堪えながら、記憶だけを頼りに進み続ける。奏多の心配そうな顔が一瞬よぎったが、頭を振って思考から除く。
「目の前で特ダネの匂いがしたら何がなんでも手に入れたくなる――それが自分たちレポーターの性っスよ、奏多くん」
その後も人だかりを避けながらなるべく目立たぬよう走り続け、流石に疲労感で足が重くなってきた頃、ようやく彼女の求めていたものがそこにあった。
数台のトラックを、屈強な男たちが囲んでいる。その輪の中には、蒼梧の姿もあった。
「――蒼梧くん、お邪魔するっスよ」
一言呟くと、彼女はトラックに忍び込もうと歩み寄っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。本編でも書きましたが投稿するのが1日遅れました。
楽しみにしてくださっている皆さんには本当にすみません。(楽しみにしてくれる方がいるかは置いといて…)
さて、千夜さんが登場して早々に家出です。特ダネが目の前に釣られていれば飛びついてしまうのがレポーターの性…かどうかは置いといて、さてここから先ほど私の代わりに謝ってくれた奏多君は千夜さんに追いつき連れ戻すことが出来るのでしょうか?
それでは、次回もお楽しみに。