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儚き影のレジスタンス  作者: 可惜夜ヒビキ
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第18話

──そして、2日が経った。


「はぁ……やっと終わったね、奏多クン」


2日かけてスラム街を一周しながら起こったことを説明していた。それを終えて愁さんの家へと戻ってくると、僕と豪さんは揃って床に倒れ込み、大きく息を吐いた。


「当たり前ですよ、スラム街のほぼ全域を渡り歩いていたんですから……それにしても」


僕はこの2日間で様々な人と出会ってきたのだが、ほぼすべての人に共通して当てはまっていることがあったのだ。


「意外でしたね。あっさりとみんな愁さんが亡くなったことを受け入れて、僕達の話を信じてくれていたなんて」


僕が起き上がりながらそう言うと、豪さんも同じく起き上がって頷いた。


「それだけ彼の影響力は大きかった、ということだろう。今まで政府からこの場所に直接手が下されなかったのも、きっと彼がいたお陰だと思うよ」


愁さんの、影響力。

ずっと一緒に暮らしてきたせいか今まで感じたこともなかったが、確かに彼の名前も、その存在の大きさも、スラム街の端から端まで行き渡っていた。

けれど、彼はもう僕たちの手が届くところにはいない。彼が今まで敷いてきたレールの続きを、今度は僕たちの手で繋げていかなくてはいけないのだ。


「……これからも精一杯頑張りましょうね、豪さん。ここで止まったら、愁さんに怒られてしまいますから」


無意識に口をついて出た言葉だったが、豪さんにはその言葉の真意が伝わったようで、彼は笑みを浮かべて頷いた。


「奏多クン、キミは本当に彼のことが大好きなんだね。あの人に顔向けできるよう、勿論ボクも精一杯手を尽くすつもりだよ」


彼の柔らかな笑みには、すべてを包み込んでいくような温かさがあった。きっと彼なら、誰であろうと信頼関係を築くことができるだろう、という確信すら覚えるほどに。

これも彼の能力、自分と他人を調律する力の一端なのかもしれない。僕が今感じているこのオーラであれば、隆羅さんもきっと──。


「……そういえば、隆羅さんと千夜さん、大丈夫かな」


僕が何気なく呟くと、豪さんの顔は一転して険しいものになった。


「あぁ、隆羅なら今は山の上で休んでいるらしいね。千夜の方はもう着いた頃だろう。2人とも、奴らのやってくる前に復帰できるといいのだけれど……」


* * *


「っはぁ、はぁ……」


立ち上がろうとするたびに息が苦しくなり、頭痛とめまいが襲ってくる。それによる平衡感覚の狂いに耐えきれず思わず膝をつくと、彰三が俺の隣に駆け寄って無理矢理寝かせようとしてきた。


「よせ!下手に動くんじゃない、隆羅!今のお前の身体では、動き回ることすら危険なのだぞ!」


あの後、俺は彰三と千夜に連れられて山の上にある彰三の家へとやってきていた。俺の言葉を聞き入れて関東広域放送の本社へと向かう千夜を送り届けた後は、彰三からこの世界について色々と話を聞いていた。

しかし、彼の話だけではまだ核心に触れられていないため、俺は夜な夜な布団を抜け出して彼の部屋から幾つか本を抜き出し、それを読み耽っているのだ。最近ではそれを見つけるたび、今回のように彰三が止めに入って来るようになっていた。

だが、俺はやりたいことがあった。ここで大人しく彼に屈するわけにはいかない。今ここで引いてしまえば、アイツに──弟に何と言われるか分からない。


「止めるな、彰三……!今の俺には、知る権利が──いや、義務がある……!俺は一刻も早く、俺の未来を決めなければいけない──それがアイツへの、せめてもの罪滅ぼしに……っ!?」


突然喉に違和感が走り、俺は両手で口を押えて激しく咳き込んだ。


「かはっ……」


しばらく時間が経ち、それが収まった後で何気なく両手を見ると──僅かに、血が付いている。それに気が付いた彰三が、先ほどよりも力を込めて俺を横倒しにせんとしてきた。思わずよろめき、俺は仰向けのまま肘をついた状態で倒れ込んだ。


「隆羅……あれほど動くなと言ったのに、また無理をしやがって──お前はこのまま、この国の行く末を見届けずに朽ちていくつもりか?」

「くそっ、だが俺は──」


俺が先ほどと同じ言葉を繰り返そうとしたところで、男の声が廊下の奥から響いてきた。


「その辺にしておきなさい、警視庁の対策本部長どの。貴方は突っ走り過ぎです、メリハリを意識せねば出来ることも出来なくなりますよ?」

「岸井健介……それは、元首相としての言葉か?」


俺の目の前に現れた男──元総理大臣の岸井健介は、俺の言葉にかぶりを振った。


「いやいや、そんな大それたものではございませんよ。ただのジジイのお節介です──私の経験を基にした、ね」

「……っ」


彼が声を低くして呟いた最後の一声で、言葉に詰まる。何も言えなくなった俺に、彰三が隣で俺の肩に手を置きながら話しかけた。


「隆羅──今だけでもいい、アイツを信じてやれ。アイツがお前を信じているように」


2人の視線を受け、俺は思わず天を仰いで彼女の名を呟いていた。


「千夜……」


嗚呼──どうやら俺はEclipseだけじゃなく、馬鹿まで伝染ってしまったらしい。


* * *


「ほえ?」


突然誰かに後ろから呼ばれた気がして、思わず間の抜けた声を出しながら振り返る。しかしそこには誰もいない。

不思議に思いつつも「まあいいか」と頭を振ると、私は改めて目の前にそびえる建物を見上げた。


「ほんとに帰ってきちゃったんスね……今の自分の立ち位置としては、帰ってきたというより押しかけてきた、っていう方が近いかもしれないっスけど──ん?」


現在の我が国に存在する、たった3つの報道機関のうちの一つ──それが関東広域放送、私の職場だ。他の2つとは違い、東京市から譲り受けた技術を用いることで、この会社は常に報道の最前線を走ってきた。

しかし、今私が見ている建物は、本当に最新技術を詰め込んでいる建物なのか疑がってしまうほど、私の記憶にある姿とはかけ離れていた。


「この建物、こんなにボロボロだったっスかね……?」


少し警戒しつつも、私は入り口にある認証用タブレットに、スラム街へと出発する前からいつも肌身離さず身に着けていた社員パスをかざした。

私の出発する前、すなわち関東広域放送がもっと多くの人で溢れていたときは、こうすることで入り口のゲートが開き中に入ることが出来たのだが、現在のこの状況下では果たして──

ポン、という軽い効果音と共に、目の前の自動扉が滑べるようにして左右に開いた。思わずほっと胸をなでおろす。


「ふーっ、社員パスがまだ生きてて助かったっスよ。となると、朽ちているのは建物だけで、内部のシステムは生きてるってことっスか?これも現代産業の賜物っスかね」


呟きながら中へと入ると、扉をくぐってすぐにある受付にはおろか、その先に広がる巨大なロビーにも人の影はなかった。

建物の近くに来た時点で建物の様子を見、予想はしていたことだが、ここまでがらんとした職場を見るのは初めてのことなので、思わず警戒態勢をとる。


「えーっと、確か過去の記録を残している部屋は地下にあったはず……」


足元を警戒し、すり足で進みながら私はエレベーターへと向かった。幸い私が働いていた階はここより上だったので、記憶をたどりながらほぼ道を違えることなく目的の場所へと辿り着くことができた。

私が辺りに気を張りつつ恐る恐るエレベーターの中へと入ると、頭上から軽快な電子音と共に合成音声が聞こえてきた。


「本日もご利用いただきありがとうございます。ご利用の階を選択ください」


合成音声が止まり、エレベーターの扉が音もなくゆっくりと閉まるのを確認して、私はエレベーターのボタンへと視線を移した。

ボタンが設定されているのは、4階から地下1階まで。私は躊躇なく地下1階のボタンを押すが、エレベーターは下降せず、再び合成音声が聞こえてくるだけだった。


「地下へ向かうには、Sランク以上の社員パスが必要です。お客様は必要ランクに達していないため、ご利用になれません。ご協力ありがとうございました。」


Sランク以上の社員パス──そんなものは聞いたことがない。第一、地下の記録ルームなら自由に出入りできたはずである。こんなことは、私が入社してからは一度もなかったはずだ。


「そんな……折角ここまで来たのに……」


肩を落としつつも他に地下へと降りる道はないか探そうとエレベーターを降りかけた私の背に向かって、歪な合成音声──もはやノイズとでも言うべきもの──が流れてきた。


「チチ地下向かカカにはエェェェSラク以上の社パパパパスがヒヒヒ必要──」


驚いて振り向いた私の前で、合成音声は突然途切れたかと思うと、バチッという音を一回立てたのち、再び滑らかに声を紡いだ。


「ご利用いただきありがとうございます。本エレベーターは地下1階、記録ルームへとまいります」

「……えっ?」




「な、なんで入れたんスか、自分……なんか、めちゃめちゃ緊張してきたッス」


ほどなくして、私は原因も分からぬまま地下へと足を踏み入れることが出来ていた。ここには何度か足を運んだだけなので定かではないが、私の記憶では、17年前のデータを保存している記録ルームは、この場所の中でもかなり奥の方にあったはずだ。


「えっと、記録ルーム──あの日は、もう17年も前になるっスね。確か、この部屋だったような記憶があるような、ないような……」


目的の部屋であろう場所の扉を開けた私の目に飛び込んできたのは、部屋の天井まで届かんばかりの高さを誇っている、ずらりと並んだ棚だった。それが部屋のずっと奥まで続いており、その終着点は入り口からは確認できない。


「おぉ……流石は関東広域放送っス。この様子じゃ今までのデータを全部保存してある感じっスね」


思わず呟き、私はすぐに件のデータが眠っている場所の捜索を始めた。ほどなくして、私は探していた日時──「20XX年10月31日」のデータを見つけた。

しかし、そこにあったのは旧型のカセットテープだった。恐らくこの中に、隆羅さんの求めている情報が眠っているのだろう。だが、この状態ではUSBにデータを移し替えるなど出来るはずもない。


「これじゃあ、データの転送なんて出来ないじゃないっスか……」


とりあえずそのカセットを取り出す。データの解析のためには、恐らく移し替えるための別の端末が用意されているはずだ。

それを片手に今度はその端末を探そうと立ち上がりかけた私の耳に、誰かがこの部屋に入ってくる音が聞こえた。


「──っ!?」


反射的に透明化して様子を探る。幸い私のいる場所は部屋の入り口からは見えない場所に位置していたため、私の存在に気付かれることはなかったようだ。

そのまま足音を立てずに棚の端の方まで歩くと、私は入口の様子をうかがった。どうやら、入り口の前で複数の人物、いやヒトの形を模した機械が隊列のようなものを組み、彼らの前で誰かが指示を飛ばしているようだ。


「この記録ルームに、何者かが侵入したと報告があった。見つけ次第ここに連れて来い。抵抗するようなら、テーザー銃を使って抑え込め。実弾銃は使うなよ。殺してはならん、生かした状態で持ってこい」

「はっ!」


その男のものであろう声に勢いよく答えたのは、すべて機械音声だった。

彼らはどうやら、私のことを血眼になって探しているらしい。しかし、先ほどまでこの建物には人の気配が全くなかった。いったい彼らはどこから出てきたのだろうか──

それだけではない。まだ私には気になることがあった。


(あの男、わざわざ私を……誰っスか?声を加工しててよく分からないっス。もしかしてさっきのエレベーターの異変も、彼が……?いや、今はそれを考えてるヒマはないっスね)


私があれこれ思索を巡らせている間にも、彼らはすでに行動を開始していた。時折、透明化した私の横を何かが通り過ぎることもしばしばあった。けれど、透明化した私には気付くはずがない。

なおも足音を立てないようにして、私はこの部屋のどこかにあるであろうデータ転送用デバイスを探し始めた。ほどなくして、部屋の一角にそれらしき機械を見つける。少し大きめな穴が一つと小さめの穴が一つ、そして操作パネル。大き目の穴はカセットを、小さめの穴はUSBを挿すためのものとみて間違いないようだ。


(あれっスね!あそこにこのUSBを挿せば、自動的に向こうにデータが送られるはずっス。けどその前に……)


辺りを見渡すと、まだ多くの機械人間が部屋の中をくまなく巡回している。彼らをどうにかしなければ、恐らくUSBを挿し込んでもデータの転送を終える前にそれが取り出され、私が捕縛されるのが目に見えている。

深呼吸を一つして、私は提げていた護身用の拳銃を取り出した。それを見つめる私の脳裏に、出発前の記憶がよぎった。


* * *


「……おい、お前まさか歩いて行くつもりか?」


隆羅さんを彰三さんとともに彼の家まで運び、その後出発しようと家を出ようとした私に、彰三さんが顔をしかめてそう口にした。


「変に車とか使って音鳴らしてバレるより、自分の場合は歩いたほうが侵入のときは楽っスから」


私が胸を叩いてそう言うと、彰三さんがはぁーっとため息をついた。


「はぁ、お前ってやつは──ほら」


彼が私に渡してきたのは、木でできた少し形の歪な水筒と、今となっては貴重な品となったタオルだった。水筒の中には、恐らく彼の家がある山で健介さんが育てたのだろう、綺麗な色の茶が入っていた。


「最低限これくらいは要るだろう。途中で使い捨てても構わん……だが約束してくれ千夜、命だけは使い捨てないと」


そう言って差し出された彼の手を、私は両手でしっかりと握り返した。


「分かってるっスよ。このゴタゴタが終わったら、自分だってもっとやりたいことがあるっスから」


私がそう言うと、彼は手を離して数歩下がる。そのまま何も言わずに、ただ少し口に笑みを含んで頷いた。

私も彼に頷き返し、今度こそ出発しようと戸口に立った私の背に、今度は彰三さんとは違う、男性の少し掠れた声が聞こえてきた。


「……行って、くれるんだな」


まさか、と思い振り返ると、案の定そこには隆羅さんが立っていた。まだEclipseの症状が昨日出始めたばかりで自由に動けない身である彼もまた、私の旅立ちに立ち会おうとしたようだ。


「隆羅さん!?駄目っスよ、安静にしてないと」

「俺のことはどうでもいい。それより、お前に渡したいものがある」


ベッドまで押し戻そうとした私を首を振って制すると、彼はポケットから何かを取り出して私の手のひらに乗せた。


「これは……USBと銃っスか?それと、指抜きのグローブ……?」


私の手のひらに載っているそれらを、彼は震える手で指差した。


「そのUSBは、端末に挿すだけでデータがこちらに転送されるようになっている。それから護身用の拳銃と予備の弾倉、こっちは射撃用のグローブだ。ベルギー製で貫通力も高く、反動も少ないからお前でも扱いやすいだろう。それだけあれば、邪魔が入って成す術なし、ということにはならないはずだ。……今の俺には、これぐらいしか出来ないからな」


彼の言葉を聞き、私は改めて自分が持っている物へと視線を落とした。ずっしりと固く冷たい感触が、今はとても暖かく感じる。


「何から何まで……本当に助かるっス、2人とも」


2人に深々とお辞儀をする。しばらくして顔を上げると、隆羅さんは彰三さんの肩を借りて立ち上がっていた。


「勘違いするな、俺はまだお前たちの味方になったわけじゃない。お前の送ってきた情報次第によっては、あの女から勘当されたこの身を役立ててやろう。……期待しているぞ」


そう言って、彼は静かに笑った。


* * *


「……本当に助かるっス。これなら──」


既に弾は込められている。本体の右側についているセーフティを外すと、私は手始めに一番近いところにいる機械人間に照準を合わせた。狙うは、彼らが背負っているバッテリーの中心部──すなわち、動力源。

実弾を射撃した経験は今まで数えるほどしかないが、それでも私は躊躇なく引き金を引いた。勢いよくハンマーが叩かれて放たれた弾丸は、狙い違わず一直線にバッテリーのコアへと吸い込まれていった。そのまま急所を撃ち抜き、持ち前の貫通力の高さで"それ"の胸部まで貫いた。

背中から急所を、そして胸部を撃ち抜かれた機械人間は、その場で膝をついて倒れたかと思うと、そのまま動かなくなった。刹那の静寂に包まれた部屋の中に、弾丸の落ちる音が響いた。


「何だ!?」

「誰だ、実弾銃を撃ったのは!!使用許可が出ているのはテーザーだけのはず──ぐぁっ!?」


1つ、また1つと正確に撃ち抜いていく。そうして少しずつ、しかし確実にすべての機械人間を屠ると、私は透明化を解除してゆっくりとマシンに近付いていった。


「ひとまず、第一のミッション完了っスね。あとはこれを挿して……」


しかし、私の言葉は最後まで続かなかった。私の後ろで、男性の声が聞こえてきたからだ。


「おっと、それ以上そのおもちゃに近付いてはいけない」

「──っ!?」


私の目の前で、先ほど隊列の先頭で話していた男性が、光に包まれながら現れた。正面から改めて見ると、彼は私の想像以上の武装に身を包んでいることが分かった。

彼は頭の上からつま先に至るまで全身を青色のスーツで包み、その表情は全く読み取れない。顔を覆っているヘルメットの目の部分にはスコープのようなものが取り付けられている。

左腕の部分には何かの端末が埋め込まれ、右腕にはケースらしきものが装着されている。さらに腰の左右にあるホルスターには、私が持っているのと似たような拳銃がそれぞれ収まっていた。そして背中に、先ほどの機械と同じようなバッテリーを背負っている。

まるで宇宙人のようなその姿に私が唖然としていると、彼は彰三さんのそれに負けず劣らず低く、しかし彰三さんとは違い少しねっとりした声で話しかけてきた。


「光学迷彩だ。君のそれは、私とは少し違うようだが」

「あんたは、さっきの……」


私が呟くと、彼は驚くような、しかし同時に嬉しそうな声を出した。


「ほう、覚えていてくれていたとはありがたい。さて……早速だが本題に入ろう。君の前に姿を現したのは他でもない、少し私に付き合ってもらいたいことがあるからだ」


少しずつこちらに歩み寄って来るその男を前に、私もじりじりと下がる。やがて、体の後ろにやっていた手に冷たいものが触れた途端、私は動き出した。


「悪いけど、こんなところであんたとデートしてる余裕なんて自分にはないっスから!」


そう叫ぶと同時に、私の背後にある機械──データ転送用マシンの上に飛び乗ると、私はそこから本棚の上に飛び移り、その上を走りながら持っていた銃の引き金を彼に向かって引き続けた。

しかし、彼は迎撃することなく、本棚の下から滑るように私を追ってきていた。彼を狙った弾丸は、全て直前で避けられてしまう。


(くっ……この男、早い……っ!)


そのまま一発も当たることなく弾倉の中身をすべて使い切り、予備で持って来ていたもう1つをセットしたのを見計らって、彼は再び口を開いた。


「落ち着け、今は私の話を聞いて欲しい……千夜」


穏やかな口調でそう語らう彼の言葉に、私は顔をしかめた。


「──あんた、どうして私の名前を」


確かに私は過去にここで働いていた社員だ。彼もここで働いていたというなら、私の名前は知っていてもおかしくはないだろう。

しかし、私はこの男の声を知らないだ。加工されているものとはいえ、このねっとり声は今まで聞いたことがない。そんな人物が、いち社員というだけの私を気にかけていたということなのだろうか……?


「その答えは唯一にして単純、君もよく知っていることだ」


ぐるぐると頭の中で思考を巡らせる私の耳に、彼の声が再び聞こえてきた。


「私が、お前の父親──日本医師会第四位《嫉妬》を担う7つの原罪の一角、輝場裕也なのだからな」

最後まで読んで頂きありがとうございなす!すみません1日遅れてしまって…でも翌日投稿するって決めたのをさらに先延ばしにせずちゃんと覚えてる私えらい!(?)


さて、例によって本文の内容をちらりと…

ラストシーンで正体が明らかになった千夜さんの父である裕也さんですが、実はもともと出す予定はなかったんですよね…それが内容の見直しを続けていった結果、急遽登場してもらうことになった人です。その分キャラ設定が迷走するかもしれないので、おかしな点があればどうか教えていただけると嬉しいですm(*_ _)m


さて、次回以降についてもちょっとだけ!

父親と対峙した千夜さんが奮闘するその影で、ある人物に関する新たな事実が発覚することになります。奏多くんや千夜さんにかなり近しい関係であるその人物とは一体誰なのか、想像しながらお読みいただければ幸いです。


このお話が少しでも面白いと思った方は感想等頂けると今後のモチベ上昇に繋がるので是非!辛口めな感想でも甘んじて受けいれます。

それでは次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンがいい感じでした!なめらかかつしっかりと描かれており、とても読み応えがありました。 [一言] 千夜とその父との出会い…一体お父さんは何を考えていたのでしょう…。
2022/09/18 00:56 退会済み
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