プロローグ
お久しぶりです、可惜夜ヒビキです。2作目です。
久々の投稿となり腕がなまっているかもしれませんがその分他の小説も少しずつ書き溜めが増えてきているので定期的に投稿していきたいです。
私自身まだ学生なので合間を縫っての執筆となりますが、本小説は週に一度、木曜日の深夜に投稿することを目標として頑張っていきますので応援よろしくお願いします。
それでは、後書きでお会いしましょう。
──"ハロウィーンの断罪"から、もうすぐ16年が経とうとしている。僕が生まれる直前の話だから、当時のニュースや"親"の話からでしか情報を得ることは出来なかったけれど、それだけでもその日の凄惨さは十分すぎるほど伝わった──当時の状況などとても想像できないほどに。
「──おい、奏多!」
ふっと顔を上げると、見慣れた顔が笑顔で手を振っている。僕は回想に浸っていた頭を現実へと引き戻すと、彼の元に駆け寄った。
「珍しいな、お前がぼーっとしてるなんて」
「ちょっと昔のことを思い出してただけさ、蒼梧兄さん」
僕がそう言うと、蒼梧兄さんは少し照れ臭そうに頭をかいた。
「よせよ、俺とお前に血の繋がりなんてないんだから」
「確かに、兄さんは料理をするといつも焦がすし、掃除しようと取り出したほうきの柄を毎回折ってるし、それに」
「あー分かったやめてくれ!俺が不甲斐ないのは充分わかったから!」
慌てた兄さんの様子を見、思わず吹き出してしまう。
「ごめんごめん、冗談だってば。…まぁ、今まで言ったことは嘘じゃないんだけど──でも、僕の家族は兄さんだけだから」
思わず俯きながら話してしまった僕を見、兄さんも少し表情が曇る。
「…帰るか」
そう、僕達は捨てられたのだ。それも、生まれてすぐに。
僕たちが住んでいる場所では、"家無し"は当たり前のように存在していた。理由は単純、子育てをできるほど親の生活に余裕がなかったか、もしくは親が自らの意思で捨てたか、だ。僕と蒼梧は一体どちらなのか今では分からないし、分かったところで何も変わらないだろう。けれど、一つだけ言えるのは、「僕達はまだ運がいい方だった」ということだ。
「おぉーっ、戻ったか!」
僕たちが玄関の扉をがらがらと開けると、こちらも見慣れた、サングラスをかけアロハシャツを羽織った優しげな偉丈夫が手招きをした。
「さ、みんなもう食べて寝ちまってるよ。後はお前たちだけだ、奏多、蒼梧!」
物心ついた時から、櫻田愁さんは僕と兄さんの隣にいた。前に話を聞いたことがあるが、「お前たちみてぇな弱ったガキを見るといてもたってもいられなくなるんだ、ガハハ!」と返事が返ってきた。時々無理を言って皆を困らせることもあるけれど、愁さんは僕たち元家無しにとって、父親となるには十分すぎるほど頼もしい存在だった。
表向きでは、彼はこの辺りを統括するギャングのリーダーなのだが、実際はただのいい人である。僕や兄さんも、あの人の明るい性格に何度も救われてきた。料理も美味しいしほうきの柄を折ったりもしないし。
「どうだ?今日は少し頑張ったんだぞ、美味いだろ」
そう言って、不意に彼は僕と兄さんの頭を大きくやさしい手でわしわしと撫でてきた。突然のことで、思わず顔が綻んでしまう。
「はい、いつもありがとうございます愁さん」
「まったく、お前は昔から礼儀正しいな。ま、それがお前の良いとこでもあるんだろうけど──少しは蒼梧のいい加減さも見習って欲しいぜ」
「駄目ですよ、僕が兄さんのいい加減さを引き継いだら料理を作る度に焦がして、掃除をしようとほうきを持った瞬間に力を入れすぎて柄を折ってしまうような人に──」
「おい奏多、もうその話はやめてくれーっ!」
しばらくの談笑の後、部屋の明かりが消えた。
遠くではビル街の明かりが、まだちかちかと輝いている。だが彼らの周りにあるのは、木と藁でできた家、舗装されていない道路、使われずに朽ちていった建物ばかりである。ライフラインは川からの水が中心、毎日の生活は日本政府からの少ない物資支援と、JDC──Japan Doctor Committeeによるそれ以上の物資支援を持ってしてもやっとという状態だ。かつてここが日本の中心だったという面影は、もうほとんど残っていない。
《旧世田谷スラム街》の一角で、奏多は何度目かも分からぬ夜を明かした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はプロローグということもあり少し短めですが、いかがでしたでしょうか?来週からは本編が始まります。いつも通りの長さで投稿していく予定なのでぜひお楽しみください。
それでは、次回会いましょう。